『勝手に!カミタマン』研究

『勝手に!カミタマン』(1985〜86)を敬愛するブログです。

第40話「横山の必殺遊び人物語」(1986年1月12日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

 ママ(大橋恵里子)が「やーだ、うちの人?」などと電話していると、二日酔いのパパ(石井愃一)が2階から降りてくる。

ママ「意地きたなく飲むからよ!」

パパ「しょうがないだろ、新年会だったんだから」

 

 マリ(林美穂)がひとりで公園を歩いていると、横山(末松芳隆)が現れる。

横山「偶然だなあ」

 マリは逃げ出す。だが商店街に来るとまた横山が「偶然だなあ」。住宅街に走ってくるとまた横山が「どこ行くの?」。

マリ「どこだっていいでしょ!」

横山「偶然だなあ。ぼくもどこだっていいの」

 横山はマリの臀部に触る。マリは横山の足を思いっきり踏みつけるのだった。

 

 広場でカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)と伸介(岩瀬威司)はサッカーのパスをしていた。だが伸介はこけてしまう。

カミタマン「伸介、お前やる気あんの?」

伸介「ない」

 ふと見るとセーラー服の女の子(内田さゆり)が伸介とカミタマンを見ていた。彼女は伸介に会釈。

伸介「カミタマン、あの子のほうに向かって蹴って」

カミタマン「こうか? よいしょっと」

 伸介は「すみません!」と女の子のほうに駆け寄る。女の子は「はい」とボールを渡し、伸介はへらへら受け取る。

女の子「あの」

伸介「え」

女の子「…いいんです」

 女の子は一礼して去っていく。

伸介「カミタマンくん。さあサッカーをやろう。青春じゃないか。行くぞー」

 伸介は髪をなでつける。女の子は木陰で見ている。

 

 伸介とカミタマンが歩道橋を歩く。

伸介「スピルバーグスピルバーグって言ってるけど、いまぼくが愛読している児童文学全集全8巻に比べればスピルバーグなんてどうってことないよ」

 カミタマンは振り返る。

カミタマン「伸介、まだついて来てるぞ」

 あの女の子がいた。イヒヒと笑う伸介。

伸介「カミタマンくん、そんなに気になるかい?」

 口笛を吹きながら、伸介は女の子に近づく。

伸介「きみ、何の用? ぼくの友人がきみのこと気にしちゃって。ぼくは平気なんだけど。こういうの、慣れてるから。何の用?」

 女の子は「これ」と手紙を渡す。

伸介「もしかして、これラブレターじゃ?」

女の子「はい」

伸介「困るんだなあ、こういうことされちゃ」

 女の子は「お友だちの横山さんに渡してください」と告げる。伸介は「横山に!?」と大ショック。

女の子「私、愛してるんです」

 女の子はうつむいて走り去る。伸介は寄り目になってへたり込む。

カミタマン「どったの、伸介?」

 

 帰宅した伸介は布団に潜り込んでしまう。

伸介「どうしてだ、どうしてだよー」

 

 公園でカミタマンは横山にラブレターを渡す。

横山「え、おれにラブレター?」

カミタマン「全く最近の女の子は何を考えてんだか」

 

 手紙の文面に女の子の顔が浮かび上がる。

「横山さん

 あなたは何故 横山さんなの。

 私の名前は洋子。私の名前が何故 洋子かと云うと

 私のパパが洋一だから。世の中って本当に分からないことばかり…

 

 愛する横山さん 今日午後2時 公園の噴水のところで待ってます」

 

 横山は「ぽわーん」と完全にのぼせる。

 

 食卓でカミタマンに話を聞いたマリは驚く。

カミタマン「女の子からラブレターもらったなんて初めてなんだからしょうがないな」

マリ「そう! これで私も横山さんに追い回されなくて済むのね」

 マリはもちをがつがつと食べ始める。電話がかかってきて、カミタマンが出ると横山からだった。マリは「ふん」とそっぽを向く。

 

 公園で横山はカミタマンに肉まん2個をお供えして「どうかカミタマン。洋子さんとぼくが上手くおつき合いできる方法を教えてください」と願う。カミタマンは「そういう相談だけはなあ」と困惑。

 

 食卓で驚くマリ。

マリ「私が横山さんにデートの指導!?」

 カミタマンは「おい、お前からも頼め」と促す。

横山「マリちゃん、お願いします」

 マリは「どうしてあたしがそんなことしなくちゃいけないの!」と憤慨。

カミタマン「横山は伸介の友人でもあることだし、まあマリにとっても」

マリ「私にとってもなあに?」

横山「兄!」

マリ「兄はお兄ちゃんひとりで結構です。あたしのおしり触りたがる、ただのおじさんじゃないの!」

 おじさんと言われて横山は泣き伏す。

カミタマン「あ、よしよしよしよし」

 急に泣き止んだ横山は「この若さでおじさんだなんてそりゃないよなあ」と立腹。

カミタマン「マリ、おじさんはちょっと言いすぎなんじゃないのか」

マリ「何でもいいから、もう私の前に現れないで。帰ってよ」

 

 公園のアスレチックで「困った、困った」とつぶやくカミタマン。横山はさっきの肉まんを食べている。

カミタマン「こら横山。お前の問題でこんなに困ってんだ。いっしょに困れ!」

横山「判った」

カミタマン・横山「困った、困った、困った」

 「困った、困った」と連呼するふたりを、子どもたちが変な目で見る。

横山「きみたちも同じ小学生なら、ぼけっと見てないでいっしょに困ってくれてもいいんじゃないか」

 

 食卓では、マリがみかんを食べていた。テーブルには大量のみかんの皮が。

マリ「ママ、もうみかんないの?」

 ママは「マリ、みっともないわよ」とたしなめる。

マリ「何が?」

ママ「まるでマリが横山くんのこと、やきもちやいてるみたいじゃない?」

マリ「どうしてあたしが横山さんのことやきもちやくの? どうして? どうして?」

ママ「ほら、そうやってむきになるから」

マリ「ふんだ!」

 

 横山と小学生たちは「困った、困った、困った」とぞろぞろ行ったり来たりする。カミタマンは「つづけてつづけて」「その調子その調子」。カミタマンのそばにマリが来る。横山はそっと見て、様子を伺う。

マリ「横山さんにデートの仕方、教えてあげてもいいわよ」

横山「え、いいの?」

 うなずくマリ。「困った、困った」と言いながら見ている横山。

 根本家にてマリは「これはくれぐれも注意しておいて。私が横山さんに教えるのは、横山さんに彼女ができれば、私につきまとわなくなるからなの」と告げる。

マリ「それにどんな情況でもこれはなしよ」

  マリは横山の臀部をつねる。悲鳴を上げる横山。そこへカミタマンの「困った」という声が。階段の上でカミタマンがセーラー服姿になっていた。

カミタマン「会員ナンバー3番。カミタミャン子でーす」

 マリは「いまの子はムード、ムードに弱いんだから。わざとらしいくらいムードをつくることが大切なの。さあ、私が教えた通りやって」と指示。

 横山は「寒いかい」とカミタマンにコートをかける。

マリ「はい、そこで音楽」

 横山は歌い、カミタマンは「いいわ」。

マリ「そう、そのハミングで彼女のハートが甘い眠りに誘われるように」

 寝てしまう横山。

カミタマン「おまんが眠ることないき。許さんぜよ」

 カミタマンはヨーヨーを発射し、横山の頭に当たる。

 次にマリは「何と言っても明るくなくちゃ。いまの子、じめーっとしてるのいちばん嫌いだから。からっと明るく」とレクチャー。

横山・マリ「からっ。からっ。からっ。からっ」

 カミタマンも「いいのかな、こんなで」と言いつつ「からっ。からっ」。

 最後にマリは「やっぱりお金ね。いまの子、ハートだけじゃだめ。いまの子、ハートだけで結婚して不幸になってるお父さんお母さんいっぱい知ってるから。横山さん、いくらくらい持ってるの?」と電卓を取り出す。

横山「13,000円くらいは」

マリ「いいじゃない!」

 

 横山は貯金箱を壊し、飯盒炊爨を開け、入れてあった金を集める。布団や傘に隠していた千円札も回収。

 

 噴水付近の橋に立つ着物姿の洋子。横山が来る。

横山「待った?」

洋子「いいえ」

横山「歩こうか?」

洋子「はい」

 離れて様子を伺うマリとカミタマン

 池のそばに来た洋子と横山。

洋子「横山さんって、若いわりにはいろいろと苦労してるみたいね」

横山「え?」

 

 横山は、自身がマリにつねられたり殴られたり蹴られたりしたのを回想する。

 

横山「そりゃもう!」

 洋子は「横山さん」と向き直る。

洋子「結婚、していただけるなら」

 横山は「あ、はあ」と茫然。「行こうか」とふたりは行く。見ているマリとカミタマン

マリ「これでもう完全に横山さんにおしりを触られることもなくなったのね」

カミタマン「さみしい?」

マリ「ちょっとね。でも、よく判らない」

カミタマン「そりゃそうだ。その歳でそんな気持ち判っちゃったら」

 

 寿司屋に来た横山と洋子。

横山「好きなもの頼んで」

洋子「私、こういうとこ」

横山「だめだめ、遠慮しちゃ」

 板前はとらばる聖子(小出綾女)で「へい、いらっしゃい!」。洋子は「うに!」。「え」と驚く横山。

横山「うには確か、回転するお寿司屋さんじゃ赤いお皿で値段が3倍」

 うにを食べる洋子。聖子に「お後は?」と言われて洋子は「いくら」。

聖子「社長は?」

横山「そうね。ぼく、干瓢巻きなんかもらっちゃおうかな」

聖子「へい、あわびを握りで」

 横山はいちばん安い干瓢巻きを強調。

洋子「私、トロ」

 

 横山はトイレに行って計算する。

横山「うにがこのくらいで、いくらがこれで、トロがこれで、干瓢巻きがこのくらいだとすると。よし、おれあがりとガリで行こう」

 

 横山が「さあ、もうおなかいっぱいじゃないかな」と戻ると、とらばる聖子が泣いている。

聖子「社長、見てやってよ。この子のいじらしさ」

 うにやまぐろが残っている。

聖子「病気のおとっつぁん、おっかさんにお土産にして食べさせてやるんだって」

洋子「私だけ、こんなおいしいもの食べちゃ悪いから」

 聖子は横山の首を掴み、お土産に折り3つ持たせてやれと迫る。

洋子「いいんです、お土産なんて」

聖子「いいから、いいから。ここは社長に任せて」

洋子「実は父と母、来てるんです」

 洋子の両親(土師孝也、ふくしまとしえ)が現れてお辞儀。

洋子の父「洋子がお世話になっております」

 呆気にとられる横山。

洋子「そんなに驚かないでください。実はうち親戚中で」 

 兄、妹、いとこ、叔母、叔父、祖父、祖母、相撲取りが出てくる。

 

 根本家に電話がかかり、カミタマンが出る。マリはフルーツを食べている。

カミタマン「ああ、洋子ちゃん。何、横山が食い逃げ!?」

 

 洋子の一族は「いただきまーす」と寿司を食べる。電話している洋子。

洋子「とらばる聖子とかいう板前さんが追いかけてます」

 

 横山は逃げ、聖子が「待てー」と追う。

 

 「どうしよどうしよ」と慌てるカミタマン。だが伸介は2階で寝ている。

マリ「ねえ、私に1回ネモトマンやらしてくれない?」

 カミタマンは1回だけということで承諾。マリはネモトマン(林美穂)に変身する。

カミタマン「ちょっとぶかぶかだけど」

ネモトマン〈マリ〉「これしかないの?」

 カミタマンは「ささ、お仕事お仕事」と発破をかける。飛び立つネモトマン〈マリ〉。

 

 公園でとらばる聖子は横山を追っていた。

横山「助けてお願い。あの子にあんな親戚がいるなんて」

 聖子は「許さん」とそろばんを持って追いつめる。ネモトマン〈マリ〉が来て、「あ、あ」とよろけて滑り台を滑る。聖子は「ネモトマンちゃん、それはちょっと違うんじゃない?」と反論。

とらばる聖子「食い逃げしたのはあの子よ。悪いのがあの子なんだぞっと」

 ネモトマン〈マリ〉は「それはそうだ。じゃ、ふたりで横山さんを」と納得。聖子はそろばんで横山を殴り、ネモトマン〈マリ〉は横山にキック。

  カミタマンが「何やってんだ」と来ると、横山は助けを求めてカミタマンにすがりつく 。聖子とネモトマン〈マリ〉は、横山とカミタマンを容赦なくボコるのだった。

カミタマン「おれじゃない、おれじゃないってば。やめろー」

【感想】

 横山がほぼ出ずっぱりでマリの出番も多く、ふたりのメイン回というべきエピソード。第10話などで横山はマリにつきまとって壮絶な暴行を受けていたが、やがて第22話あたりからマリに対するセクハラ行為を繰り返し、第28話ではネモトマンをも痛めつけて強烈なヒールぶりを発揮したけれども、今回はセーラー服姿の女の子・洋子に翻弄される被害者という役回り。謎めいた洋子が横山に愛を告白した後で寿司をたかり、やがて一族ぐるみで横山を食い物にしようとして、その彼女がいったい何者なのかも不明のままに幕を閉じる。後年の不思議コメディーシリーズでは今回と同じ浦沢義雄脚本 × 坂本太郎監督のコンビによる『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)の第5話「初恋はお嬢さま」に清楚な雰囲気の女の子が実はサディストで男を虐待する展開があり、それを彷彿とさせたが、今回は洋子の素性など全く明らかにならない。起承転結をある程度はとどめている『ちゅうかなぱいぱい』と異なり、今回は思いつくままに書きつづられた脚本でシュール度の高さが特徴的ではある。

 今回のマリのように男性につきまとわれてうんざりしていた女性が、男性が他へ目を向けると複雑な気持ちになってしまうのは『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第20話「モンローの純愛物語」や『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第16話「川崎大三郎の秘密」などの浦沢脚本で描かれた。

 この時代の浦沢脚本ではあこがれの女性の名前はいつもヨーコで、本作では第13話第26話第37話そして今回にそれぞれヨーコと名乗る女性が登場する(すべて別人)。第26話の佃煮博士の妻ヨーコはゴキブリと不倫して借金を夫に押しつけるという外道ぶりで、今回の洋子も大概で横山に求愛したかと思ったらたかり始め、悪女なのか天然なのか不透明で無気味さをそそり、笑いも誘う。

 洋子だけでなく、カミタマンもセーラー服姿を披露。「会員ナンバー3番」は第35話にもあったおニャン子クラブのねたで、ヨーヨーは第30話や第35話につづく『スケバン刑事』(1985)。カミタマンのサイズのセーラー服とヨーヨーは芸が細かく驚嘆に値する。

 伸介が序盤で「スピルバーグスピルバーグって言ってるけど」と気取っているけれども、今回の放送はスティーブン・スピルバーグがプロデュースした『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)の公開直後であった。『バック・トゥ』のキャッチコピーは「スピルバーグがまたやった!」でまるで悪事をしでかしたみたいだが、良くも悪くも時代の寵児だったことが窺える。

 伸介役の岩瀬威司氏のスケジュールの都合か伸介の出番は少なめで、クライマックスではマリが初めてネモトマンに変身。変身前と同じ要領で横山に暴行を加えている。マリはカミタマンに対して自分も変身したいと頼んでいて、カミタマンが変身させているのを認識しているわけで、既にネモトマンの正体に気づいている可能性もある。

 終盤でとらばる聖子とマリが話す場面ではちり紙交換の声が挿入されていて笑ってしまう。

 洋子役の内田さゆり氏は不コメ前作『ネムリン』のヒロインを務めて、それ以来1年足らずでの登場。クールな女子小学生を演じた前作よりも背が伸びたようで印象は異なる。内田氏の芸達者ぶりは前作でも際立っていて、今回はトンデモ女を演じて際立った存在感をみせた。不コメの次作『もりもりぼっくん』(1986)の第34話では横山役の末松芳隆氏と揃って出演しているけれども、同じ画面に収まるシーンはない。内田氏は、後年の『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)ではさらに成長して好演している。

 洋子の父役の土師孝也氏は『巨獣特捜ジャスピオン』(1985)の第11話や『仮面ライダーBLACK』(1987)の第1話、『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第3話など東映の特撮ドラマに頻繁に登場。テレビアニメ『聖戦士ダンバイン』(1983)や『北斗の拳』(1985)、『機動戦士ガンダムZZ』(1986)などに声の出演をしているほか、映画『ハリーポッター』シリーズの吹き替えも務めた。

 洋子の母役のふくしまとしえ氏は本作の第11話にも異なる役で出演した。

 公園の子どもたちや洋子の一族はクレジットに名前がない。

 横山がマリにつきまとったりとらばる聖子が横山を追いかけたりするのは、埼玉県新座市栄の商店街。