
【ストーリー】
公園で伸介(岩瀬威司)と横山(末松芳隆)はローラースケート、モスガ(声:矢尾一樹 スーツアクター:高木政人)はスケートボードに乗って遊んでいた。伸介と横山が「それ!」とモスガを押すと、モスガはボードから落ちてひっくり返る。「大丈夫か」と駆け寄った伸介と横山もこけてモスガにのしかかる。
ベンチに来た三者。伸介と横山は「きょうで冬休みも終わりか」「あしたから学校」と憂鬱そう。
伸介「まさかこの歳で登校拒否児童になるわけもいかないし」
横山「うちの学校、先生もおっかなくないし」
伸介「それを考えると、何だか遊ぶ元気が」
横山「おれも」
モスガは「遊ぼうよ」と騒ぐ。
根本家の食卓で伸介は横山に「牛乳飲むか?」と訊く。うなずく横山。伸介は冷蔵庫から牛乳を出し、ひとりでぐいぐい飲む。
伸介「うめえ」
椅子に座る伸介。
横山「牛乳は?」
伸介「勝手に飲めよ」
横山が冷蔵庫から牛乳パックを取り出すと空だった。笑う伸介。怒った横山は「帰る」とパックを投げ捨てる。
伸介「待てよ。いまごちそうするから」
横山が振り向くと、伸介は戸棚からしょうゆを取り出す。
伸介「うちのしょうゆは塩分控えめでとっても体にいいんだ!」
横山は怒って「帰る」。
伸介「怒るなって。いいのか、お前。おれ、冬休み延長する方法知ってんだ。待ってろ、いま電話すっから」
伸介は電話をかける。見ている横山。
伸介「あ、学校? あのう、すみませんけど冬休みもうちょっと延ばしてもらえませんか? そう、あと1か月くらい」
がちゃんと切られる。
横山「何だって?」
伸介「ふざけんなバカ野郎だって」
横山はまた怒って「帰る」。「待てよ」「やめろよ!」とつかみ合うふたり。
外を歩くマリ(林美穂)とカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)。
カミタマン「マリちゃん、どうしてそんなに嬉しそうなの?」
マリ「そりゃあしたから学校だもん」
カミタマン「ふうん、そんなに勉強したいの?」
マリ「そうじゃなくって、何て言うの? 冬休みに飽きちゃって、ほらクラスの子に何となく会いたい気分なのよ」
カミタマンは「あ!」。モスガが公園にたたずんでいた。
食卓で伸介と横山は「離せよ!」とまだつかみ合っていた。伸介が離すと横山は壁に激突。
横山「いってえ」
伸介「横山、お前ってそういう奴だったのか」
横山「ん?」
伸介「おれなんか一生懸命、冬休みを延ばす方法、お前のために考えたりしたのに」
横山「根本」
伸介は「お前って奴は」と泣き出す。横山は「おれも考えるよ。考える」となだめる。
公園で菓子を食べているマリ。伸介と横山が学校に行くので、モスガは遊べなくなると悲しんでいた。
カミタマン「まさか伸介と横山に学校やめろってわけにもいかないもんな」
うなずくモスガ。
カミタマン「ここはモスガ。大人になって伸介と横山を心から祝って学校に送ってやろうじゃないか」
モスガ「それができない、できない」
モスガは泣き崩れる。
カミタマン「マリちゃん、のんきに今川焼きなんて食べないで何とか」
マリ「何とかすればいいんでしょ?」
カミタマン「できるの?」
マリ「ピンポンピンポーン」
マリは「あしたからモスガがお兄ちゃんと横山さんといっしょに学校に行けばいいのよ」と提案。
モスガ「モスガ、伸介と横山と学校に行ける」
モスガはランドセルを背負って学校へ行くところを夢想。
喜ぶモスガだが、カミタマンは学校へ行くということは勉強しなくちゃいけないと釘を刺す。
モスガ「面白そう! 面白そう!」
カミタマン「面白そうってお前、宿題もあんだぞ」
モスガ「モスガ、宿題大好き大好き」
カミタマンは「大体、お前なんか学校のほうで」と呆れるが、マリは「モスガの入学、何とか私が校長に掛け合ってみるわ」。
畳の上で転げ回って悩む伸介と横山。ぶつかって「いてえ」と言った拍子に何か思いついた様子。
伸介・横山「ふたりで怪我すれば学校に行かなくて済む。怪我が治るまで冬休み!」
フライパンと鍋を持って、嬉しげに庭に出るふたり。
伸介「希望は?」
横山「全治3か月くらいの怪我」
伸介「おれ、全治再起不能でもいい」
ふたりは「行くぞ」とフライパンと鍋を互いに向かって振り上げるが、モスガがふたりの間に急降下してきて、ふたりはモスガを殴ってしまう。
モスガ「あしたから伸介と横山と学校に行ける…」
モスガは気絶。伸介と横山は「どうしよう」と茫然。
伸介「全治3か月と」
横山「全治再起不能」
伸介・横山「合わせて全治再起不能3か月」
マリとカミタマンも帰宅。
居間でマリはモスガの頭の怪我の手当てをする。カミタマンは伸介と横山を「いったいお前たちは学校というもんをどう考えてんだ。よりによって怪我すれば冬休みが延びるだなんて」と叱責。
カミタマン「聞けば全治再起不能3か月の力で殴ったそうじゃないか。こら、伸介! 横山! この責任はどうしてくれるんだ」
公園でたこ焼きを食べる伸介と横山。
伸介「おれたちに責任取れったって、なあ横山?」
横山「ああ、取れるわけねえじゃん」
伸介「でもモスガを全治再起不能3か月にしたのはおれたちなんだし」
横山「まあな」
伸介「一応責任は…」
横山「よし、こうしよう」
伸介「あ?」
横山「おれたちが一生モスガを看病すれば学校に」
伸介「行かなくて済む!」
横山「これでおれたちは一生冬休み」
「イヒヒヒ」と笑うふたり。
伸介「横山、お前ってほんとインテリだな。さすが私立の幼稚園出ただけあるよ」
横山「まあな!」
伸介「じゃあ行こう!」
その話を、シャーロック・ホームズよろしく鹿撃ち帽をかぶったとらばる聖子(小出綾女)が聞いていた。
聖子「まったく、あの子たちまたくだらないこと考えてる。聖子、ただいま私立探偵調査尾行中。ところでいつまでデレデレしてんだろ、敵は」
寄り添うカップルが。
伸介と横山を一喝したので大丈夫だろうというカミタマンがふと見ると、モスガがカミタマンに膝枕してもらっていた。マリは「いいのよ、カミタマン」と鷹揚。そこへ電話のベルが。
モスガ「マリちゃん、ここらへんいたーい」
マリ「どれ?」
カミタマンは「この野郎」といらだちながら電話に出る。とらばる聖子(小出綾女)からだった。
とらばる聖子は電話ボックスでいちゃつくカップルを見張りながらかけていた。
聖子「そう、伸介と横山が」
カミタマンは「ありがとう、聖子」と電話を切る。
カミタマン「モスガ、もう怪我のほうはだいじょぶか?」
モスガ「それが、まだちょっと何となく」
カミタマン「そうか」
カミタマンはペンチを持ってくる。
カミタマン「この痛さとどっちが痛い? へっへっへ」
カミタマンはモスガの体をペンチでつねる。ぐああと悲鳴をあげるモスガ。
モスガ「こっち、こっち、こっちが痛い痛い!」
カミタマン「じゃあ、頭のほうは治ったな」
モスガ「治った治ったほんとに治ったああすっきりした」
「モスガ、全快おめでとう」とカミタマンはペンチを振る。
マリ「ひどい治し方」

医者の扮装をした伸介、看護師の横山が根本家へ。庭でマリは小声で「来たわよ」。カミタマンはラジカセで音楽をかけ、モスガとマリは踊り出す。驚く伸介と横山。
マリ「残念だったわね、お兄ちゃん。モスガはもうとっくに治りました」
横山「そんな、それじゃおれたちはあしたから」
カミタマン「そう、学校に行ってめいっぱい勉強して来い」
モスガ「モスガも行くぞー勉強するぞー」
伸介と横山はモスガといっしょに学校へ行くのを想像し、「悪夢ー」と声を揃える。
カミタマン「まあ、伸介も横山も何かとモスガが面倒かけると思うが」
「ぎゃー」と逃げ出す伸介と横山。モスガは「どこ行くだー」と追って行く。
白衣を脱ぎ捨て、資材置き場に着いた伸介と横山。だがモスガがジャンプして来る。ふたりはドラム缶の中に隠れるが、モスガはドラム缶をのぞき込んで「伸介、横山!」と大声で叫ぶ。ふたりは出て来て、ドラム缶ごと倒れる。
行き止まりに来たふたり。
伸介「横山、よく考えればもう一度モスガを怪我させれば、おれたちの冬休みは」
横山「伸介、さすが。やっぱり区立の幼稚園出てる奴はいざというとき根性座ってるから」
伸介「まあな!」
モスガが来ると、伸介と横山は棒を持って襲い、逆にモスガは逃げ出す。

伸介と横山はドラム缶の中から「わ」と現れて虫取り網で捕まえようとするがモスガは飛び上がり、ふたりは互いを網でかぶせてしまう。ドラム缶は倒れる。
次はさつまいもを餌に釣り上げようとするが、ふたりはサツマイモを餌にモスガを釣り上げようとする 。だが釣り糸をモスガに引っ張られて、ふたりは落下。
根本家では、カミタマンとマリがもちを焼いていた。
マリ「最近のおもちは粘りっけがなくて」
カミタマン「マリ、そんなこと言ってるから同級生にマリは年寄りくさい、年寄りくさいって言われるんだ」
マリ「何よ。あんただって最近、分別くさいって言われてるくせに」
庭からモスガがガラスを叩く。
伸介と横山はモスガをさがす。
また伸介と横山がモスガを狙っていると聞いたカミタマンとマリ。
雑木林で謎の笑い声が。伸介と横山が見上げると、モスガが空から降りてくる。
横山「おれたちをバカにしたのはお前か」
「違う! へへへ」とモスガの羽の中からカミタマンが現れて「この愚か者め」と一喝。
カミタマン「お前たちをやっつけるには武器はいらない。お前たちは自分自身セルフサービスでやっつけるのだ」
モスガは「バーカ」と挑発。「こいつ!」と横山は追って行く。カミタマンは伸介をネモトマン(岩瀬威司)に変身させる。
カミタマン「よし、ネモトマン。横山をやっつけろ」
ネモトマンは横山を殴り倒す。
カミタマン「ネモトマン、次は伸介だ」
辺りをきょろきょろ見回すネモトマン。
カミタマン「あのね、伸介はお前だ」
ネモトマンは自分を殴って気絶。
カミタマン「作戦成功!」
夕暮れどき、川沿いにいるモスガとカミタマン。
モスガ「伸介と横山見てたら学校行きたくなくなった」
カミタマンは「学校なんか行かなくたって立派な人はいっぱいいるんだ例えば…」
夜、パパ(石井愃一)は屋台で「♪サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ」と歌っていた。屋台のおじさん(小池榮)は「うちはカラオケスナックじゃないんだから」と注意。パパは「いいじゃないの!」と酔って歌いつづける。
見ているカミタマンとモスガ。
カミタマン「会社に行って働いて。ああいう人生だってあるんだ」
うなずくモスガ。
翌朝、パパとママ(大橋恵里子)、伸介、マリ、カミタマンが朝食をとっていると「パパ、会社行こー」とモスガの声が。
庭にネクタイをして帽子をかぶったモスガがいた。
モスガ「学校より会社のほうが面白そうだから、モスガきょうから会社行く!」
みなはズコー。
【感想】
1か月くらい避寒のために南に行っていて不在だったモスガが、久々に復帰。過去には趣味を始めると称して神さまをつかまえるなど悪気はないのに衝動が止まらなくなって騒動を巻き起こしていたモスガだが、今回は伸介と横山が悪だくみをしていて、趣向が上手く変わっている。終盤を除くと今回は伸介と横山がほぼ全編コンビで出ずっぱりで、シリーズも後半だけにキャスト陣の乗りもよく、彼らを眺めているだけで笑える。
モスガは学校に行くと言い出し、この手のキャラクターが学校や会社に行きたがるのは珍しくないけれども、学校が厭なので伸介たちがモスガを襲ったり自分で怪我しようとしたりするのはユニーク。浦沢義雄脚本の不思議コメディーシリーズでは『ペットントン』(1983)でも『どきんちょ!ネムリン』(1984)でも冬休みが終わってあしたから学校が始まるなあと慨嘆する回はあるが、今回は連休明けで「一生冬休み」だなどと言い出すのは飛躍しすぎて悪知恵にもなっていないのが面白い。
伸介と横山は序盤から牛乳をめぐってコントをしており、浦沢脚本では『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第1話など牛乳を飲むシーンをときどき見かけるけれども、1985年の時点で今回のように牛乳コントがあったとは笑わされる。後年の浦沢脚本『激走戦隊カーレンジャー』(1996)では登場人物の好物がコーヒー牛乳である。
横山は私立の幼稚園、伸介は区立の幼稚園の出身だと判明したが、第34話では横山がマリを私立の幼稚園を出た子は違うと持ち上げ、それに対してマリは「区立の保育園」を出たと言明した。伸介が幼稚園でマリが保育園というのも不思議であり、何らかの事情があったのかもしれない(単に浦沢先生が設定を忘れていたのだろうが)。今回と同じ冨田義治演出の第18話では横山の自宅が立派な屋敷で、いつも蝶ネクタイの彼の家庭は裕福なのだと思われる。
騒ぎを経て、モスガが学校へ行かないと翻意して、カミタマンは学校に行かなくたって立派な人はいっぱいいると慰撫するのは第34話の焼き直し的だけれども、酔っぱらうパパを見て今度は会社に行くと言い出す。カミタマンの「会社に行って働いて。ああいう人生だってあるんだ」という台詞には、会社員経験のおそらくない浦沢先生がモスガや子どもたちの側からやや憧憬も込めて、距離を置いて見ているのが感じられる。浦沢作品の子どもたちは台詞が大人びているが、サラリーマン社会の外側にいるであろう浦沢先生にとって子どもも大人も等価だからというのも一因ではなかろうか。
パパが酔って歌うのは青島幸男作詞「ドント節」で、浦沢先生は幼いころに青島作詞の曲に影響を受けたと語る(浦沢脚本では不コメの『うたう!大龍宮城』〈1992〉の第23話でも青島作詞の「ハイそれまでヨ」「ホンダラ行進曲」が流れ、「参議院議員の青島幸男先生」と直裁に言及された)。
コント的な応酬の面白さに加えて、序盤に伸介と横山とモスガがローラースケートやスケートボードで遊ぶのは舞台裏の仲の良さも感じられる。予告編では横山を演じる末松芳隆氏が勢い余ってこけそうになる映像もあった(本編では使われていない)。モスガのスーツアクターの高木政人氏は『バッテンロボ丸』(1982)や『ペットントン』でもスケボーに乗っていて、今回もその軽業ぶりに感嘆(後半の戦いでの跳躍もすごい)。ラストで根本家の面々が驚く場面では伸介の岩瀬威司氏は変顔で、マリの林美穂氏は笑ってしまっている。
とらばる聖子が追跡していたカップルの男性はわずかに顔が映り、高木氏ではないかと思われる。
パパが飲んでいる屋台のおじさんは小池榮氏で、本作では3回目の登場。
伸介や横山などが遊んだり散歩したりしているのは練馬区の光が丘。
屋台のシーンは東映東京撮影所内部の大森坂で、不コメでは他に『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)の第45話、『じゃあまん探偵団魔隣組』(1988)の第38話、『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第20話で、今回と同様に屋台が置かれている。



