
【ストーリー】
童謡「うれしいひなまつり」が流れ、ママ(大橋恵里子)は雛人形の箱を取り出して掃除する。カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)も庭ではたきをかけて、思わず咳き込む。
学校では下校の時間で校門を駆けて来るマリ(林美穂)。マリは踏み切りで電車が通過する間も待ちきれない様子で、急いで帰宅。
居間には雛人形が飾られている。
マリ「ただいま。わあ」
庭でママが「どこ行っちゃったのかしら」とさがしている。
カミタマン「ママ、ないよ」
マリ「何がないの?」
カミタマンは「いくらさがしても男雛がないんだ。箱はあるんだけどね」と告げる。マリは驚き、動転して「冗談じゃないわ。男雛のいない雛人形なんて」と箱の中をさがす。
カミタマン「ママ、去年片づけたのママなんでしょ?」
ママ「そうなんだけど。あたしはね、確かこの箱の中に入れて」
マリ「ママどうしてくれるの。ママの責任よ。女の子にとってひな祭りがどんなに大切な日か、ママよく知ってるじゃない? それをよりによって雛人形の男雛をなくすなんて。ママ、あたしになんか恨みでもあんの!?」
箱の中から顔を出すカミタマン。
カミタマン「マリ、そりゃちょっと言いすぎじゃない?」
マリ「お黙り!」
カミタマン「え」
マリ「大体あんた」
カミタマン「あんた?」
マリ「神さまのくせして、男雛のひとつやふたつどうして見つけられないの?」
カミタマン「そ、そんなこと言われても」
マリ「言いわけはやめなさい」
カミタマン「あ、はい」
箱の後ろに隠れるカミタマン。
「ただいま」と帰宅した伸介(岩瀬威司)は、男雛不在のひな段に違和感を覚える。
マリ「お兄ちゃんがもう少し頭がよければ、男雛がなくなるなんてことなかったんじゃないの!?」
伸介は困惑。
マリ「そうなのよ!」
伸介「はいそうです!」
ため息をつくママとカミタマン。
夕方にパパ(石井愃一)が帰宅。
夜になってパパ、ママ、伸介、マリ、カミタマンは食卓を囲む。
パパ「そりゃあ、マリの気持ちはパパよく判る。女の子にとってひな祭りがどんなに大切な日か、パパ十分理解してるつもりだ。しかし、だからと言って」
パパの説教が早口になる。ママ、伸介、マリ、カミタマンはうんざり。
パパ「結論を言えば、やっぱりこの世の中はお金がいちばんだ」
満月が出て、伸介とカミタマンは同じベッドに寝て布団を引っぱり合う。
居間で女雛の首がわずかに動き、やがて卒然と行動を始める。階段を昇っていく女雛。
女雛(声:伊倉一恵)は部屋に入り、寝ているカミタマンの上に乗っかる。目を覚ましたカミタマンは「何だ何だ」。
女雛「私、男雛に逃げられた雛人形の女雛でございます」
カミタマン「あ?」
女雛「カミタマン殿にちとお話が」
カミタマン「お話?」
女雛「見れば今宵はよい月夜」

月夜の下にいる女雛とカミタマン。
カミタマン「ささ、つぎなされ」
女雛「はい、おひとつどうぞ」
カミタマン「女雛殿、ほんに今宵は」
飲むカミタマン。女雛ははらはらと泣く。
カミタマン「聞きましょう聞きましょう」
女雛「話しましょう話しましょう」
カミタマン「してその話とは」
女雛「あれは去年のいまごろじゃった」
1年前、ひな段に向かって「おやすみなさい」と言って寝るマリ。草木も眠る丑三つ時になって、おもむろに女雛が動き出す。
女雛「あなた、しっかりしてくださいね」
白酒を飲んでいる男雛。
女雛「白酒飲むのもいいですけど、あなたには私や三人官女や五人囃子を養う義務が」
三人官女と五人囃子がインサート。男雛(声:飯田道郎)は白酒をぐいぐい飲みつづける。
女雛の声「そして、あの人が出て行ったのは今年の1月」
押入れの箱の中にいる雛人形たち。
女雛「もちも買えない正月なんて、みじめでございます」
男雛「もう厭だ、こんな生活」
女雛「あなた、何を言っているの。あなたには男雛として私や三人官女や五人囃子たちを養う義務が」
男雛「厭だ、やだやだやだ」
女雛「あなた、私たちをお棄てになる気?」
男雛「おれにはみんなを養う力なんてないんだ!」
押入れから「もう厭だ」と出奔する男雛。
女雛「それ以来、あの人は帰ってきませんでした」
うなずくカミタマン。
女雛「お笑いくだされ、カミタマン殿。男雛に棄てられたこの女雛を、さあ、さあ、さあ」
泣き伏す女雛にカミタマンは「まだ男雛を愛していらっしゃるのですね?」。
女雛「何故それを?」
カミタマン「月夜に想いをよせる女雛の心。それくらい判らなくてどうして神と言えましょう」
女雛は恐縮。
カミタマン「女雛よ、心配するには及ばん。そちの逃げた男雛はこのカミタマンがきっとさがしてしんぜよう」
女雛「ありがたきお言葉。恐れ入ります」
白酒を飲むカミタマン。
翌日、マリとカミタマンは土手で「1、2」とジョギングをしている。
カミタマン「調子に乗ってあんなに飲むんじゃなかった…」
マリは「なあに?」と振り返る。カミタマンは「マリ、ちょっと話が」と昨夜のことを切り出す。
マリとカミタマンは土手に座って話す。
カミタマン「てなわけなんだ」
マリ「それじゃ男雛は女雛や三人官女を養う生活力がなくなって家出したというの?」
カミタマン「全くだらしない男雛だ。マリ、いっしょにさがして男雛を懲らしめよう」
マリは「ちょっと、いい加減にして」とカミタマン木槌を取って一撃。カミタマンは土手を転がり落ちる。
マリ「どうしてそんなくだらない話、私が信用しなくちゃいけないの」
マリは行ってしまう。
カミタマン「やっぱりこんな話、誰も信用するはずないな」
見ると草むらに女雛がいて、泣き伏す。
女雛「やはりカミタマン殿。あなたも信用していなかったのですね」
カミタマン「そうじゃないって!」
公園のベンチで泣きつづける女雛。カミタマンは「信用してるって」と強調する。
女雛「それとも私のこと、男雛に棄てられた女雛だと思ってバカに」
カミタマン「そりゃ誤解だ」
女雛「だったら信用してくだすっても」
カミタマン「してるって。この目を見て、この目を」
見つめ合う女雛とカミタマン。
女雛「してない」
そこへシャッターの音が。とらばる聖子(小出綾女)がキヤノンのカメラで撮影している。
女雛「違うんです。まあ、スキャンダルだわ」
カミタマンは女雛をかばうように遮る。
聖子「雛人形の女雛を泣かすカミタマン。フォーカスさせてもらったわよ」
カミタマンは「イメージダウン」と嘆く。
女雛「どういう意味でございます!?」
カミタマン「ああ、いまは喧嘩してる場合じゃ」
カミタマンはとらばる聖子にブーメランを発射。
カミタマン「聖子、カミタマンの言うことを聞くか?」
「聞きます」とブーメランから逃げる聖子。
居間でカミタマンは女雛をひな段に戻す。
カミタマン「心配しないで。ひな祭りの日までには何とかするから」
とらばる聖子は煙草屋で聞き込みをする。
聖子「このへんで雛人形の男雛を見かけませんでした?」
居間ではマリが不機嫌に。
マリ「私、厭よ。男雛のいない雛人形なんて」
ママ「マリ。まさかあんた、新しいの買ってくれなんて」
マリ「ダメ?」
ママは笑って「ダメ!!」。電話がかかってきて、マリが出る。
マリ「カミタマン、とらばる聖子からのお電話!」
喫茶店にいるとらばる聖子とカミタマン。
聖子「フランス人形といっしょに住んでるみたいなのよ」
カミタマン「え! 男雛がフランス人形といっしょに住んでる?」
聖子「そうなのよ。あたしも驚いちゃった」
カミタマンは「男雛の奴、女雛や三人官女や五人囃子を養う力もないくせに」と憤慨。
聖子「きっとフランス人形に食べさせてもらってるのよ」
怒るカミタマン。
カミタマンは男雛とフランス人形が住んでいる小屋へ来る。割れたガラスから中を覗くカミタマン。
中ではフランス人形(声:本多知恵子)が花を使って健気に内食をしていた。
カミタマン「やっぱり男雛はフランス人形に食べさせてもらってたんだ」
疲れた様子のフランス人形。
カミタマン「あんなに苦労させられちゃって」
やがて人形はうつ伏せに倒れる。カミタマンは中に入って「どうしました? どうしました!?」と駆け寄る。
救急車が疾走。
新座病院で目覚めるフランス人形。
フランス人形「ここは?」
カミタマン「あなたは内職をしすぎ、過労で倒れたのです」
フランス人形「え」
カミタマン「通りがかりの私が助けました」
フランス人形「それはどうも、ご親切にありがとうございました」
カミタマン「それにしてもひどい奴だ」
フランス人形「え」
カミタマン「あなたをそんな体になるまで働かせた、雛人形の男雛です。私は断じて男雛を許せない。日曜日だというのにいったいどこへ行ってるんです? きっとパチンコとか競馬場で」
フランス人形「いいえ、違うんです。あの人はこの日曜日も身を粉にして印刷工場で」
男雛は本当に印刷工場で働いていた。窓から見ているカミタマン。
フランス人形の声「あの人はあたしにとって命の恩人なんです」
フランス人形が浅瀬に棄てられている。崖の上にいる男雛。
フランス人形の声「川に棄てられていたあたしを助けてくれたんです」

印刷工場で男雛は働き、輪転機が回る。
フランス人形の声「あの人は私にとって、神さまみたいな人なんです」
見ているカミタマンは「よし!」。
病床のフランス人形のもとへ男雛が見舞いに現れる。
フランス人形「あなた」
男雛「だいじょぶかい」
フランス人形「ええ。2、3日休めば。あ、あなたお仕事のほうは?」
男雛「それが、代わってやるから早く付き添いに行けと言ってくれた人がいて」
工場でカミタマンは汚れながら働いていた。
カミタマン「これでよし」
フランス人形「きっとあの人よ」
男雛「知っているのか」
フランス人形「ええ、あたしをここへ入院させてくれた人」
男雛「えっ?」
フランス人形「そうなのよ。きっとそうなのよ」
男雛「もしかして、ぼくも同じことを」
フランス人形「あの人こそ」
男雛「うん、きっと神さまなんだ」
公園で話す女雛とカミタマン。
女雛「じゃあ、どうしても男雛の居所が判らないと言うのね」
カミタマン「うん。いいじゃないか、あんな男雛」
女雛「でも本当に愛しているのです」
カミタマン「逃げて行く者を愛したがる。女はすぐ不幸にあこがれる」
女雛「私がそうだって言うの?」
カミタマン「ああ」
女雛はカミタマンを平手打ち。
カミタマン「それだけ怒りがあれば、きみはひとりで生きられる」
女雛「無理よ」
カミタマン「無理じゃない」
行こうとするカミタマンに女雛は追いすがる。
女雛「あたしをひとりにしないで。あたしはか弱い女雛。男雛がいなくては生きてはいけないのよ」
今度はカミタマンが「甘ったれるな」と女雛を平手打ち。
カミタマン「いいか女雛。みんなひとりで生きているんだ」
歩み去るカミタマン。女雛の目からハートが飛び出す。
女雛「カミタマン…」
カミタマンが歩いていると、公園の滑り台から女雛が滑ってくる。
女雛「カミタマン殿」
カミタマン「何だ、その目は!?」
道路へ逃げるカミタマンだが、ふと見ると前に女雛が。
カミタマンは行き止まりに追いつめられる。「カミタマン殿」と迫ってくる女雛。
夜になって、根本家でみなは歌ってひな祭りを祝う。ひな壇には男雛の代わりに縛られたカミタマンが。
カミタマン「助けてよ。ねえ、誰か下ろしてよ。ママしゃん、ちょっとパパしゃん。おい伸介。マリ」
女雛「カミタマン殿」
「どぅわー」と怯えるカミタマン。
【感想】
中華そばやタクアンが活躍する無生物路線から一線を画して、今回は雛人形とフランス人形の三角関係が描かれる大メロドラマ。浦沢義雄脚本の不思議コメディーシリーズでは『ペットントン』(1983)の第40話「ガン太に恋したお人形」にも人間に片想いする人形が既に登場していて、シリアス寄りの愛の悲劇が描かれた。食品の愛憎や電化製品の苦悩だと見ていて笑いが先行するが、人形の場合はデフォルメされていても人間に近い印象で不可避的にドラマ性が強まっていて、制作陣もおそらく意識したのだろうと想像される。今回も、女雛や他の雛人形を養う甲斐性のない男雛が逃亡する前半はコミカルだが、後半にフランス人形と男雛が睦み合うのは珍景でありつつも思わず感情移入してしまう(相手によっては第36話のようにいい加減な対応をするカミタマンも、今回は真摯に力添えをする)。ちなみに浦沢先生は20年以上のちに川北紘一演出の人形劇『Kawaii! JeNny』(2007)を執筆したけれども、そちらは『ペットントン』や今回とは異なりコメディータッチが貫かれている。
男雛は印刷工場で働いているが、本作にも携わっている佐伯孚治監督は労働運動に関わったゆえ東映社内で干されて「子供の学費が出せなくなって、印刷工場の夜勤をやったこと」があるとインタビューで述懐していた。もしかすると浦沢先生がその話を当時聞き及んで、今回のエピソードで使った可能性がある(あるいは佐伯氏に関係なく、印刷工場で働くスタッフは他にもいたのかもしれない)。
クライマックスではカミタマンが女雛を平手打ちしていて、第25話で扇風機を、第30話でタクアンを平手打ちしていたのでまたかという感もあるけれども、ラストでカミタマンが女雛に惚れられて男雛の代わりにされてしまうのは面白い。
不コメのひな祭り回としては『ペットントン』の第22話「セロリ姫のひなまつり」は家族間のドタバタで今回は人形のメロドラマ、そして後年の『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第9話「いけない雛祭り」では雛人形を人間の俳優が演じた。ちなみに黒澤明監督の映画『夢』(1990)では『トトメス』と同様に俳優たちが神妙に雛人形を演じていて、筆者は鑑賞中に黒澤映画が『トトメス』や『カミタマン』に見えて仕方がなかった。
とらばる聖子がパパラッチとしてカミタマンと女雛を撮り、その後はカミタマンにあっさり情報提供する。80年代は写真週刊誌が攻勢を強めていた時代だったが、当時の浦沢先生は中野の旅館に泊まり込んで執筆することが多かったそうで、1985年11月に萩原健一が写真週刊誌のカメラマンを殴って警視庁中野署で取り調べを受けた。近場で起きた件が今回の聖子のヒントになったのかもしれない。
演出は冨田義治監督で、『ペットントン』では第30話「横浜チャーハン物語」を手がけ、本作では寿司やそばが市民を襲撃する第18話や麺類がいがみ合う第19話を撮った。それだけに今回も熟練した仕上がりで、後半は人間があまり登場しない人形劇だけれども情感にあふれている。女雛がカミタマンをストーカーする場面ではメンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調」が流れ、冨田氏の選曲かと思われる。
根本家の面々の出番は少ないが、序盤の林美穂氏が踏み切りの前で足踏みしているところなど、ひな祭りでうきうきした気分を表現してさりげなく上手い。
女雛の声の伊倉一恵氏はテレビ『シティーハンター』(1987)や映画『ドラえもん のび太と銀河超特急』(1996)などに出演。浦沢脚本では後年に『燃えろ!! ロボコン』(1999)にロボコン役で主演した。
男雛の声の飯田道郎(現:飯田道朗)氏はテレビ『宇宙刑事ギャバン』(1982)や『科学戦隊ダイナマン』(1983)、『電撃戦隊チェンジマン』(1985)、『超人機メタルダー』(1987)など東映特撮ドラマのシリアスな演技のイメージが強く、今回の男雛役は意外で爆笑。
そしてフランス人形役の本多知恵子氏は本作の第16話でちょうちんの声を演じて、第22話や第26話などには夫に借金を押しつけてゴキブリと駆け落ちする悪妻として画面に顔出しで登場。今回は悪妻から一転してフランス人形の声で、16話と今回のように声だけだとやや悲劇的な役どころなのが面白い。
フランス人形が入院するのは「新座病院」と実在の病院名が画面に出てくる。

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