第10話「涙の横山 純愛物語」(1985年6月9日放送 脚本:浦沢義雄 監督:佐伯孚治)
【ストーリー】
伸介(岩瀬威司)と横山(末松芳隆)は「胃袋つかめー」などと仲良く技をかけ合って、下校していた。やがてみなが公園でサッカーをしているところに通りかかる。
横山「サッカーって面白そうですね」
伸介は「おれを見棄てんなよな」などと言い出す。
伸介「うちで人生ゲームやる約束だよな」
横山「ええ」
伸介「お前ほんとはサッカーを」
横山「判ります?」
横山はにやりと笑って公園のほうへ歩き出す。「おれを見棄てないでくれ」としつこく止める伸介。
ベッドで伸介は「見棄てないで」「おれを見棄てないで」と寝ぼけてカミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)の腕をつかんでいた。カミタマンが「しょうがないなあ」と呪文を唱えると、伸介はネモトマン(岩瀬威司)に変身。
ネモトマン「カミタマン、きょうの任務は?」
カミタマン「目を覚まさせただけ」
ネモトマンはまたベッドへ。
カミタマン「いま何時だと思ってるんだよ。8時35分!」
ネモトマンは「ええっ!?」。
歯を磨いているマリ(林美穂)。鍋をかき混ぜているママ(大橋恵里子)。新聞を読んでいるパパ(石井喧一)。伸介が「どうせ起こすならもっと早く起こしてくれればよかったんだよ」とランドセルを持って外へ。不思議そうに見つめる3人。
小学校の校門は閉まっている。伸介は入れない。
朝ごはんを食べるパパ、ママ、マリとカミタマン。
パパ「あわてるな、ゆっくり食べろ」
校門の前で考えている伸介。校庭には誰もいない。やがて竹馬に乗った少年が。
伸介「やっぱり」
憤然と走る伸介。
伸介が帰宅。
伸介「日曜日なら日曜日だって教えてくれればいいでしょ」
食卓には誰もいない。
正装したパパとママが、にこやかに道を行く。
マリは友だちと歩いている。
カミタマンは、菜の花の咲く空き地のドラム缶で昼寝していた。
みな、思い思いの週末を過ごしている。
「頭にきた」と言いながら、ひとりでごはんをがつがつ食べる伸介。
マリが公園に来ると「マーリちゃん」と横山が。顔をしかめるマリ。
横山「きょうはいいお天気ですねえ。この分でいくと、今年の夏は太平洋から高気圧に覆われ、実はぼく、高血圧なんです」
無視して行ってしまうマリ。横山は追いかける。
横山「マリちゃん、そんなに照れなくても」
マリ「ふん」
マリは「よし、こうなったら」と何か思いついた様子。
マリ「誰も見ていない」
横山が追いつくとマリは「えい」と横山を殴り倒す。
食卓で伸介が食べていると、電話が鳴る。
伸介「横山? 何、マリにふられた?」
電話ボックスでかけている横山。
横山「伸介くん、伸介?」
食卓で受話器が放ってある。横山の「伸介!」と呼ぶ声が。
電話ボックスで横山が「伸介」と叫んでいると、伸介が自転車で来る。
伸介「横山」
横山「何だ、いたのか」
伸介は「うちのマリに手を出すな」と横山を鍋で殴り倒す。自転車に乗って去っていく伸介。
横山「根本の野郎、兄貴ぶりやがって」
空き地でカミタマンが寝ていると、頭に空き缶が当たる。「ぽげ」と起きるカミタマン。横山が空き缶を蹴っていた。
カミタマン「横山、お前何やってんだ」
横山「青春してるんだ」
カミタマンは飛んでいく空き缶を見上げながら「空き缶を蹴る青春か。ずいぶん暗いなあ」。
横山「でもぼく希望持ってる」
カミタマン「何の?」
横山「生きる」
目を見張るカミタマン。
横山「そこへいくと根本なんか」
カミタマン「伸介がどうした?」
横山「根本には希望はない!」
カミタマン「どういうことだ?」
横山「根本には空き缶も蹴れない」
空き缶を蹴ろうとして、こける伸介。
カミタマン「伸介、そんなに運動神経が」
横山「それに根本って正直言って」
木の上で鳴いている伸介。
伸介「ピヨピヨピヨ、ピヨ」
横山「頭がピヨピヨなんだ」
カミタマン「ピヨピヨ?」
横山「あれで根性だけでもあれば」
鳥かごを持ってさがす伸介。
伸介「根性、根性、根性どこへ行ったの!?」
横山「まあ取り柄として性格がいいっていうのは認めるけど」
カミタマン「うーん」
校門の前で頭をかきむしりながら、にやにや笑う伸介。
横山「性格だけいいって人生があってもいいって思うけど」
行こうとする横山。
カミタマン「聞いていればさっきから伸介の悪口ばかり」
カミタマンは呪文で空き地のタイヤを動かし、横山にかぶせた。
横山「うわあ」
居間で寝ていた伸介。
伸介「え、横山がぼくのことを運動神経が鈍くて、頭がピヨピヨで、根性がなくて、取り柄は性格いいぐらいだって!?」
カミタマン「ああ!」
伸介「当たってるじゃん」
平然としている伸介に、カミタマンは「だめだこりゃ」。
空き地で身動きをとれずにいる横山のところに、カミタマンが戻ってくる。
カミタマン「ごめんごめん横山。伸介はどうやらお前が言った通りの奴らしいわ」
横山は「ぼくぐらいだよ。根本とつき合ってあげてるの」と言う。
カミタマン「伸介のパパとママに成り代わって感謝する」
横山「そんなことはいいけど、ぼくが心配するのは」
カミタマン「伸介の将来か?」
横山「マリちゃんのこと」
カミタマン「マリ?」
横山「マリちゃんこれからずうっと、根本の妹やっていかなくちゃいけないんだよ」
カミタマン「まあ、そうだけど」
横山「ダメな兄を持って非行に走る少女」
積み木が崩される。バットを持ったセーラー服のマリが「なめんじゃねえよ」と暴れている。パパが止めに入るが、逆に殴られてしまう。
驚くカミタマン。
横山「ダメな兄を持って不幸になる少女」
マリが夜なべをして、内職をしている。
横山「ダメな兄を持って老ける少女」
夕暮れどき、総白髪のマリが疲れ切った様子でうたた寝している。
横山「カミタマン、マリちゃんをこんなふうにしていいのか!」
カミタマン「よくない」
横山は「根本にマリちゃんの兄やめてもらう」と提案する。
横山「それがマリちゃんを非行から、そして不幸から、そして敬老から救う道です」
カミタマン「うん! 横山、お前は伸介にとって本当の親友だ」
横山「そうです。ようやく判ってくれましたか」
カミタマン「これからも伸介と仲良く」
横山「ええ」
カミタマン「できれば結婚を前提としてつき合ってもらえば、カミタマンも安心するなあ」
横山「考えておきましょう」
居間で驚く伸介。
伸介「どうしてぼくがマリの兄をやっていると、マリが不幸になるんだ!?」
カミタマンは「そういうことは自分で考えなさい」と一喝して行ってしまう。
伸介の妨害を止めることに成功し、庭でにやりと笑って見ている横山。
公園でひとり遊んでいるマリ。また横山が現れる。横山は膝をついて「お願い」とマリのスカートをつかむ。
マリ「な、何すんのよ」
マリは慌てるが、横山は変な気持ちではないという。
横山「ぼくはただマリちゃんのお世話をしたいだけなんだ」
マリは言葉を失う。
横山「マリちゃんのスカート洗ってあげたり、靴下はかしてあげたり」
マリはまた周囲を確認すると、横山を「えい」と蹴り倒して「とお」とチョップをお見舞いした。
食卓で考え込んでいる伸介。
伸介「どうしてぼくが兄やってるとマリが不幸になるのか。それじゃぼくが姉やるとマリが幸福になるっていうのか」
「げんこつ山のたぬきさん」とひとりで遊んでいるマリ。「おっぱい飲んでねんねして」と包帯ぐるぐる巻きの横山が茂みから出てくる。
横山「お願い、お世話させて」
手をばきばき鳴らしながら近づいていくマリ。
横山「マリちゃん、それだけは」
マリは「この変態、やっつけてやる」と横山に向かっていく。どかどかと殴ったり蹴ったりする音が。
居間で熟考する伸介。
伸介「ぼくがマリの叔母になったほうがいいか。いや、親戚よりマリの妻になったほうがいいか。ああ、わかんねえ」
「ちっちゃなころから悪ガキで」とひとりで遊んでいるマリ。「十五で不良と呼ばれたよ」と茂みから横山の声。マリは岩を持ち上げると、茂みめがけて投げつける。「うわあ!」と横山の悲鳴が。
マリ「横山さん、いい加減にして」
すると天冠をつけて幽霊となった横山が、茂みから現れる。
横山「お世話したい、お世話したい、お世話したい」
「きゃー」と逃げるマリ。
居間で逆立ちしていた伸介は、ひらめいた様子。
伸介「わかった。ぼくがマリの親戚のじゃがいもになればいいんだ。いや玉ねぎに、いやいやアスパラガスになればマリが幸せに。そんなバカな…」
思考は堂々めぐりの様子。「横山さんのおばけが!」とマリが庭から走ってくる。
伸介「お兄ちゃんはきょうからマリのお兄ちゃんではなく、マリの親戚のアスパラガスになるけど、マリは幸せになってくれるかい?」
マリ「は?」
伸介「マリ、お兄ちゃんじゃなくて、親戚のアスパラガスは、マリが幸せになれば、親戚のアスパラガスが不幸せになるんだ」
マリは伸介の頭をお盆で叩いて、ため息。
伸介「お兄ちゃんがお兄ちゃんであることと、お兄ちゃんが親戚のアスパラガスであることと、どっちがいい?」
マリ「何だか判らないけど、アスパラガスよりお兄ちゃんのほうがいい」
「がーん」とひっくり返る伸介。マリは2階へ行ってしまう。
伸介「カミタマンの奴、よくもぼくにマリの兄をやめさせようとしたな。マリが望んでいるじゃないか」
「うるさいな」と2階の踊り場に来るカミタマン。
伸介「カミタマン、ぼくをネモトマンにしろ!」
伸介はネモトマンに変身。
カミタマン「で、誰をやっつけるんだ?」
ネモトマン「カミタマン、お前だ!」
ネモトマンは「この野郎」とカミタマンにつかみかかる。食卓で追いかけっこをする両者。カミタマンはブーメランを放つが、ネモトマンはよけ、逆にカミタマンをブーメランに投げつける。カミタマンはのびた。そこへ「いい映画だったわね」とママとパパが帰宅。
ママ「ねえ、パパ。今夜絶対焼き肉食べに連れてってくれる?」
パパ「いいとも」
カミタマン「焼き肉…」
パパ「どうしたカミタマン、腹痛か」
「やったやった」といつのまにかネモトマンの姿から戻っている伸介とマリは喜ぶ。
焼き肉屋で肉をめぐって争うふたり。
伸介「おれが兄貴だぞ」
マリ「それ以上太る気?」
ママは「上カルビ二人前」を頼む。
パパ「ママ…」
ママ「はいはい、普通のカルビ二人前」
伸介の部屋で寝込んでいるカミタマン。そばには横山。
カミタマン「痛いよお。こら、横山」
横山「判ってるよ。だからこうやって看病してるだろ」
カミタマン「横山、お前のおかげで焼き肉食べ損なったじゃないか。ああビビンバ」
横山「クッパ」
カミタマン「ビビンバ!」
【感想】
第8話ではタタリに告白されたマリが、今度は横山につきまとわれる羽目に。この時期の不思議コメディーシリーズでは『ペットントン』(1983)の根本、『どきんちょ!ネムリン』(1984)の中山とめがねをかけた偏執キャラのヒロインへのストーカー行為が定番になっていて、逆襲として毎回ヒロインが暴行を加える。ただし、今回のマリの仕打ちは前2作以上に過激になっている。『ペットントンスペシャル』(1984)の根本もスカートを洗いたいと口にしていたが、横山はスカートを洗うのみならず靴下をはかせるなど「お世話したい」と言って迫っているのがユニークで、気持ち悪さが強化された。
ストーカーに加えて、ヒロインが「なめんじゃねえよ」と不良少女化するイメージも『ネムリン』の第13話「男はつらいよ!玉三郎」に既にあるのだけれども、老け娘になった姿など新しいアイディアも付加してある。
全般に過去のねたの焼き直しが目立つが、だからつまらないというわけではなく、アイディアが過激化・先鋭化している。その意味で、この時点での不コメの集大成という『カミタマン』のありようを象徴していると言えよう。
序盤は伸介の夢から始まり、夢の中で横山はサッカーをやりたがり、やがて伸介が日曜日なのに登校し、横山がマリにボコられ、だまされた伸介は袋小路に迷い込み、クライマックスはカミタマンとネモトマンが戦う。
思いつくままにつづられたとしか思えない一貫性のないストーリーで、初期の浦沢脚本に顕著な傾向である。不発だと第8話のように散漫になってしまうのだけれども、今回は成功していて濃密さすら感じさせる。坂本太郎監督の回で浦沢脚本だと次々と不連続な事件が心地よいリズムを生み出すのに対して、今回のような佐伯孚治演出だと脈絡がないのに堅実な一貫性・整合性が感じられる。
中盤の伸介のシーンでは「頭がピヨピヨ」な伸介が木の上で「ピヨピヨ」と唱えていたり、「性格がいい」という意味で伸介が校門でへらへら笑っていたりしていて、さりげなくインパクトが大きい。特に校門の場面は、変質者にしか見えず少々戦慄した。
マリは、求愛する横山やタタリを無慈悲に加虐していて、第9話の感想でも書いたのだが、このように男性の心に無痛覚で徹底的に踏みにじる女性像というのは、ある意味で男性の思い描く理想のようにも感じられる。
横山が庭で不敵に笑うシーンは『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第36話「お彼岸ライダーの謎」での「ニヤリと不気味に笑うもの…。それが犯人です!」という台詞を連想した。