第13話「爆発ゲートボール軍団」(1985年6月30日放送 脚本:浦沢義雄 監督:佐伯孚治)
【ストーリー】
ある朝、横山(末松芳隆)がパジャマ姿で橋を渡っていた。
根本家では自室の床で、ベッドから落ちた伸介(岩瀬威司)が寝ていた。その横ではカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)が眠る。寝ぼけた伸介とカミタマンはまくらを投げ合う。
外からは「伸介くん!」と横山の声が。
庭には横山が。寝ぼけたママ(大橋恵里子)とパパ(石井喧一)が出てくる。伸介とカミタマン、マリも窓から顔を出す。
横山「ぼくこのポラロイドカメラ買ってもらっちゃった!」
横山は「撮ってあげる」とぱしゃり。
横山「ほらできた」
伸介「横山、用事はそれだけか?」
横山「うん」
横山は「帰れ帰れ」とまくらやほうきなどぶつけられて逃亡。
公園で眠そうなマリ(林美穂)。友人のユーコが「マリ、どうしたの」と来る。マリの首にはサロンパスが。
マリ「ちょっと立ったまま寝ちゃって。ピップエレキバンのほうが効くかしら」
ユーコは「やめなさいよ」とはがして棄てる。
そこへ足下のおぼつかない老人たち(高杉哲平、戸川暁子、飯田テル子)が、ゲートボールの器具を持って公園へ。看護師に付き添われている者もいる。見ているユーコとマリ。
ユーコ「マリんちの神さま、紹介して」
マリ「カミタマン? あいててて」
首筋を押さえるマリ。
伸介は交番で警官(小山昌幸)に相談していた。
伸介「横山っていう奴なんです。朝早くから人んちに来て、カメラ見せびらかして。逮捕してくれませんか!」
警官「聖子ちゃん!」
「きょうは婦人警官にとらばっちゃったの」と、とらばる聖子(小出綾女)が現れる。驚く伸介。
警官「この子、追い出して」
聖子はホースで伸介に水をかける。笑う警官。
ユーコは根本家の玄関に来ていた。
伸介の部屋で寝ているカミタマン。マリは「ねえ、起きて!」と揺する。
マリ「お友だちがお願いごとしたいんだって」
カミタマン「そんなこと、近くの神社に行ってよ」
ユーコが「いいのよ、無理しなくて」とドアの向こうに立っていた。カミタマンの目からハートが。
カミタマン「お友だちってこの人!?」
マリ「そう、ユーコ」
カミタマンは「ぼよーん」と叫んで、拝むのを喜んで承諾。
マリ「目いっぱい拝んじゃって」
そしてマリは図書館へ本を返しに行く。すれ違いに濡れた伸介が帰宅。
ユーコは「拝ませて」と食卓でカミタマンを拝もうとする。そこへ伸介が「ただいま」と帰宅。
カミタマン「せっかくいいところなのに」
ユーコが「こんにちは」と言うと、伸介の胸にもハートが。カミタマンが伸介をお盆で叩いて蹴飛ばす。伸介は気絶。カミタマンは、場所を変えようと提案。
カミタマンとユーコは公園へ。ユーコはお賽銭がわりにとお菓子を差し出す。
ユーコ「じゃあ拝ませてもらいます」
カミタマン「どこからでもどうぞどうぞ」
拝むユーコ。
カミタマン「ぼよーん」
ユーコ「ん、何か?」
カミタマン「あ、いいえ別に」
カミタマンは拝んでいる内容を尋ねる。
ユーコ「神さまなら私の心の中でつぶやいてること、判るでしょう?」
カミタマン「え?」
ユーコ「声に出して神さまにお願いごとするのは、三流ドラマのやることよ」
カミタマン「あ、いやあ、それはそうなんですけど。あ、実はわたくし、最近中耳炎を患いまして、どうも心の中のつぶやきがよく聞こえなくて」
そこでユーコは声に出すことに。
ユーコ「どうか神さま、うちの母に町内会のソフトボール大会でホームランを打たせてあげてください」
“本通り町内会”のソフトボール大会が行われていた。ユーコの母(大井小町)が「よーし」と打席に立つ。
ユーコ「お母さん、頑張って!」
「あれがユーコちゃんのお母さんか」とベンチで見ているカミタマン。そのさらに後方に横山の姿が。
カミタマン「あの体じゃ、当たればホームラン間違いないけど」
だがユーコの母は空振り。カミタマンは呪文を唱えて、ボールに乗り移る。横山はその瞬間を激写。
横山「こりゃフォーカスだ」
ボールはくるくる浮かんで、ユーコの母のバットに当たる。やったーとユーコたち一同は雀躍。駆けてきた母は、横山を突き飛ばす。カミタマンを乗せたボールは宙を飛ぶ。
根本家では、気を失っていた伸介が目を覚ましていた。そこへカミタマンが、天井を突き破ってくる。カミタマンとボールが伸介の頭に当たり、伸介は「いて」とまた気絶。
大会の会場では、みながまだ喜んでいた。「ひひひひ」と撮影する横山。
縁側でこぶのできたカミタマンが「♪心から好きだよユーコ、抱きしめたい」と浮かれていた。塀からのぞく横山。そこへユーコが。
ユーコ「ありがとう」
カミタマン「じゃあ、ホームラン?」
ユーコはカミタマンにキス。横山は塀の向こうで転落。
電話ボックスに来た横山は「許せない許せない」と不機嫌。
居間でのびている伸介の横で「ぽよーん」とカミタマンは飛び回ってはしゃぐ。電話がかかってきて、気がついた伸介が出ると横山からだった。
カミタマン「ぼよーん、ぼよーん」
伸介は受話器でカミタマンを殴るが、カミタマンは「ぼよーん」を連呼。伸介は自分の頭も受話器で殴り、「いってー」とまた気絶。受話器からは「もしもし」と横山の声が。
電話ボックスでかける横山。受話器からは「ぼよーん、ぼよーん」とカミタマンの叫びが聞こえてくる。
横山「あのバカ」
横山の写真にはユーコの母のホームラン写真、ユーコのキスなどが写っている。公園でぼやく横山。
横山「まったくカミタマンの奴、神さまのくせして」
そこへ「ぼよーん」と言いながらカミタマンが歩いてくる。
カミタマン「横山、用事って何だ? ぼよーん」
横山「こいつ、まだのぼせてやがる。この写真を見ろ!」
例の写真が散らばる。
横山「こらカミタマン。お前、助平根性で神さまやってるな」
カミタマン「え」
横山「何がぼよーんだ」
横山はカミタマンを締め上げる。
横山「あんなかわいい子にキスしてもらっちゃって」
遊具の上に逃げるカミタマン。
横山「訴えてやる訴えてやる」
カミタマン「あああ、どどどどどこへ?」
横山「NHKに投書してドキュメンタリー特集 “助平根性丸出しの神さま” って番組つくってもらう」
驚くカミタマン。
横山「自慢じゃないけど、うちはおじいちゃんの代からNHKの受信料ちゃんと払っていて、それだけが自慢だってうちの父さんが言ってたぞ。ドキュメンタリーくらいつくってくれるさ」
カミタマン「やめてやめて、そんなことされちゃあ」
横山「じゃあぼくの言うこと何でも聞くか?」
カミタマン「え、な、何でも?」
横山「NHKは受信料払ってる家を大切にするって」
カミタマン「ああ、やりますやります」
横山「じゃあぼくをきょうから神さまにしろ」
カミタマン「何!?」
横山「うちの母さんはNHKの集金するおじさんと仲がいいんだ」
カミタマンはあっさり承諾する。笑う横山。
図書館ではマリとユーコが机に突っ伏していた。
マリ「クーラーは効いてるし、昼寝するのにこんなにいいとこないわ」
ユーコ「そうね」
「いたいた」と歩いてくるカミタマン。ユーコに他に願いごとはないかという。
カミタマン「紹介したい神さまがいるんだ」
マリ「カミタマンの友だち?」
カミタマン「まあ、友だちと言うより…。ねえ、ユーコちゃん。何かお願いごとしてよ」
ユーコ「突然そんなこと言われても」
マリ「カミタマン、何かおごりなさいよ」
カミタマン「え」
マリ「氷がいいわ。氷を食べながら考えれば、ユーコもそのうち願いごと浮かぶわよ。ね? 私、氷いちごでいいから」
かき氷を食べるマリとユーコ。
マリ「そうだ、あれでいいんじゃない?」
ユーコ「あれって?」
マリ「あのゲートボールチーム」
ユーコ「ああ、あのおじいさんおばあさんたち」
ユーコは冒頭のふらふら歩く老人たちを思い出す。
ユーコ「あるわ」
カミタマン「ほんと?」
角髪をして、神さまっぽいコスチュームに身をつつんだ横山が公園で待機していた。「わっせわっせ」とやって来るカミタマンとユーコ。
横山「ぼよーん」
胡乱な目をするユーコ。
カミタマン「さあ、早く拝んで拝んで」
無言で拝むユーコ。カミタマンはささやく。
カミタマン「あのう、この神さまも最近中耳炎になっちゃって」
うなずくヨーコ。
ヨーコ「どうか神さま。あの公園で会った、いまにも倒れそうなおじいさんとおばあさんのゲートボールチームを優勝させてください」
横山は「ぼよーん」と了解。ユーコは「これでいいわね」と行く。
横山「カミタマン、判ってるな?」
「判ってる判ってる」と笑うカミタマン。
ゲートボール前に準備運動をしている老人たち。ユーコが駆けてくる。
ユーコ「おじいさんおばあさん。私が神さまにお願いしたから、絶対優勝できます。頑張ってください」
老人たちは「ありがとう」と喜ぶ。
やがて「プレイボール」と審判が、ゲートボールの試合開始を宣言する。ふらふらとプレイを始める老人たち。倒れそうになるおじいさんに看護師が付き添う。反則する者もいる。見ているカミタマン。
カミタマン「このチームどうやって優勝させるんだ?」
カミタマンはボールに入ることにする。ソフトボールのときのようにカミタマンがボールに乗り移ると、おばあさんは何か違和感を覚えた様子。だがそのまま打席へ。打ったボールはゲート前で止まってしまうが、中でカミタマンが「よいしょ」と頑張った結果、ボールはゲートをくぐる。「えっさ、ほいさ」とカミタマンの尽力で、ボールは次々とゲートへ。老人が空振りしても、カミタマンの入ったボールはちゃんと動いてゲートをくぐる。うまくポールに乗っかったボールを見て、老人たちは「神さまありがとうございます」と大喜び。
ボールを出たカミタマンはこぶだらけに。
カミタマン「横山の奴、おかげでこんな頭に」
一方、横山は街路にてひとりで「ぽよーんぽよーん」と浮かれていた。そしてドラム缶にキス。
横山「これは助平根性なんかじゃない。愛なんだ」
見ているカミタマン。
カミタマン「ちっくしょう、キスの練習なんかしやがって。何が愛だ。よーし」
カミタマンは居間でまだのびている伸介を「起きろってば」と起こす。依然として起きないので、カミタマンは伸介をネモトマンに変身させる。
カミタマン「こらネモトマン、起きろ。任務を忘れたのか」
ネモトマン(岩瀬威司)は「こいつ」とカミタマンの首を絞める。
交番でネモトマンはカミタマンを「こいつを逮捕してください」と突き出す。
ネモトマン「こいつはぼくを3回も気絶させた悪い奴です」
警官「何だねきみ、その格好は」
ネモトマンは「爆発、ザ・ネモトマン!だけど」と自己紹介。警官は「聖子ちゃん」と呼び、ネモトマンは聖子に頭からバケツの水をぶっかけられる。カミタマンは逃走。
カミタマンのもとへユーコが。
ユーコ「あのおじいさんとおばあさんのチーム、優勝したんだって」
「あ、ああ」
ユーコ「私が拝んだ神さまにお礼がしたいって」
カミタマン「誰が?」
ユーコ「おじいさんとおばあさんたち」
うなずくカミタマン。
ユーコ「さすが年寄りね。義理堅いっていうのかしら」
カミタマンは「うふふふ」と嗤う。
ドラム缶にキスしている横山。カミタマンとユーコが来る。
カミタマン「横山。ユーコちゃんが、お礼がしたいってさ」
横山「ぽよーん」
ユーコ「神さま、どうもありがとう」
横山はキスの体勢に。
カミタマン「おじいさん、おばあさん。さあさ、神さまにお礼いたしましょうね!」
老人たちが高架下からぞろぞろと登場。
ユーコ「さあ、キスのお礼を」
老人たちが横山に「チュウ」と迫ってくる。「やめてくれー」と逃げ出す横山。カミタマンとユーコは大笑い。
【感想】
横山のカメラ自慢に始まって、ユーコに熱を上げるカミタマン、横山の神さま化、ゲートボールと全編に渡ってあまり脈絡のないドラマが繰りひろげられる。80年代の浦沢義雄脚本によくあるスタイルで、作品自体の出来は突出したものでもないが、各々のアイディアはまずまず面白い。
ゲストの名前はユーコで、浦沢脚本の不思議コメディーシリーズ『ロボット8ちゃん』(1981)や『ペットントン』(1983)でのあこがれのお姉さんの名はヨーコだった。今回のユーコも、そこから派生した?ものと思われる。
カミタマンのいいわけの「中耳炎」というのにも笑ってしまうけれども、ユーコの「声に出して神さまにお願いごとするのは、三流ドラマのやることよ」というのがさりげなく辛辣で、『カミタマン』はそのようなありきたりな描き方を忌避するのだという宣言ともとれる。
ゲートボールねたは『どきんちょ!ネムリン』(1984)に既に出てきていたが、本格的なのは今回が初。ゲートボールでなくサッカーだけれども、ボールに乗り移るというのは『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第10話「ユーフラテスは握らない」にもある。『いぱねま』では合成処理だったが、今回は余裕がないのかボールにカミタマンのイラストを描いている。
NHKは『いぱねま』の第14話「父さんに殴られた日」、『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第2話「怪人大相撲」などにも出てくる。受信料を払わないことを描く?のは藤子・F・不二雄『中年スーパーマン佐江内氏』(小学館)や頭木弘樹編『トラウマ文学館』(ちくま文庫)所収の李清俊「テレビの受信料とパンツ 」などがあるも、受信料を払っていることについてねたにするのは独創的。浦沢先生の仕事で最も知られたひとつは『忍たま乱太郎』(1993〜)だろうけれども、この時期にはまさかNHKでの作品が自身の代表作になるとは思っておられなかったに違いない。
今回のクレジットでは「坂本智恵子 中里あきこ」と表示されているのだが、このおふたりがどの役柄かは不明。ユーコ役が坂本智恵子氏だろうか(すると中里あきこ氏はどなた…)。
老人役は高杉哲平、戸川暁子、飯田テル子の各氏。過剰なまでにふらふらの演技だったけれども、このお歴々は当時まだ60代。『三谷幸喜のありふれた生活』(朝日新聞出版)には老齢の元気な俳優たちがカメラの前では突如よぼよぼの演技を始めた話が書かれていたが、今回はおそらくそれと同様の雰囲気で、ゾンビのような大げさな老人演技には笑ってしまう。
高杉氏は東映作品に多数登場する超ベテランで、不コメでは『ネムリン』の第19話「激突!イビキミサイル」や『じゃあまん探偵団魔隣組』(1988)の第47話「華麗なる総金歯」などにも出演。
戸川氏は『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)の第28話や『ウルトラマンダイナ』(1997)の第8話「遥かなるバオーン」などがあり、特に『ダイナ』は田舎の村におじいさんおばあさんがいるという設定で今回と似たような役どころだった。
ユーコの母役の大井小町氏は『ロボット8ちゃん』(1981)の第36話「ぶりっ子、さぼっ子、アイラブユー」、『ペットントン』の第23話「ママを倒せ!パパは強いぞ」などに出演。
警官役は小山昌幸氏で、不コメでは『ネムリン』の第25話、『もりもりぼっくん』の第6話、『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)の第29話など役柄は小さいながらも頻繁に見かける。