
【ストーリー】
カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)は野原に鳥居を置き、昆虫の悩みを聞いていた。
カミタマン「何なに、最近女房に男ができた?」
「がまんなされよ」となだめるカミタマン。つづいてカブトムシ(声:本多知恵子)が「つらーい、リリリリリリ。苦しい、ルロロロロロ」と嘆く。カミタマンは「サラ金苦で悩んでいる? 踏み倒しなされ」と助言。
根本家ではママ(大橋恵里子)の依頼で、庭でモスガ(声:矢尾一樹 スーツアクター:高木政人)が空高く飛んで洗濯物を乾かしていた。
ママ「モスガって意外と役に立つのよね。そこいくと…」
伸介(岩瀬威司)が咳き込みながら「なんか食べるもの」と窓から顔を出す。
ママ「自動熟睡機、用意してあげたでしょ」
伸介は枕もとにある金だらい=自動熟睡機で自分の頭を叩いて、気絶。
カマキリ(声:依田英助)が「怖い」と泣いて訴える。昆虫の敵が出没して、昆虫を佃煮にしているという。カミタマンがそいつをやっつけると約束すると、捕虫網を持った怪しげな白衣の男が現れる。それこそが昆虫の敵・佃煮博士(及川ヒロオ)であった。
佃煮博士「佃煮にしてやる。バッタも鈴虫もカマキリもみんな佃煮にしてやる」
逃げ惑う昆虫たち。佃煮博士はカミタマンも捕まえる。
佃煮博士「昆虫か?」
カミタマン「神さま」
佃煮博士「神さま? そんなものは佃煮にならん」
佃煮博士はカミタマンを容赦なく投げ捨てる。
カミタマン「こら、佃煮」
佃煮博士は「佃煮博士と訂正しろ」と凄む。
カミタマン「きょうはまたいいお天気で」
佃煮博士「うむ、佃煮晴れじゃ。あっはっはっは」
カミタマン「ぽげ」
カミタマンは木槌と頭突きで攻撃するが、佃煮博士は笑うのみ。そこでカミタンブーメランを放つと、食らった佃煮博士は余裕で笑うが、やがて坂を転がり落ちる。
カミタマン「うははは、口ほどにもない奴」
下校してきたマリ(林美穂)に横山(末松芳隆)が迫っていた。
横山「マリちゃん、うちへ来なよ」
マリ「厭。横山さん、変なことするから」
横山「しないってしないってしないって」
横山は「こんなこと絶対しないって」とマリの臀部を撫でさする。マリは猛然と横山を殴る蹴る。横山はダウン。
マリ「じゃ横山さん、さようなら」
マリは倒れた横山の頭をランドセルに載せる。横山が「マリ! マリ!」と叫んでいると、モスガが「お静かに」と横山を踏みつける。「あ、そうだ」と何か思いついたモスガ。
「この広い野原いっぱい」が流れる中、モスガは「マリ、ウフフ」とマリのために野原で花を摘む。
幻想の中で振り向いて微笑むマリ。
モスガは倒れていた佃煮博士を見つけて放り投げる。意識の戻った佃煮博士。
佃煮博士「お前は何だ」
モスガ「モスガ」
佃煮博士はしげしげと見つめる。
佃煮博士「もしかして昆虫だったりして」
モスガ「当たりだったりして」
喜ぶ佃煮博士。
佃煮博士「モスガ、とっつかまえてやるから」

佃煮博士はわびしい家に帰宅。
佃煮博士「これで長年苦しんできたサラ金から逃れられる」
佃煮博士が上手(かみて)に座る。室内が暗くなる。
佃煮博士「思い起こせば、あの結婚が私の人生を狂わせた」
下手(しもて)に往時の佃煮博士と年若い妻(本多知恵子)が。
妻「ねえ、あなた。こっちへ来て」
佃煮博士「ななな、何ですよ」
妻は「この毛皮、買っちゃった。それからね、このダイヤモンドでしょ」「このドレスも買っちゃったの」と嬉しげに見せる。
佃煮博士「あの、それで、お金はどっから持ってきたの?」
妻「だいじょぶよ。みーんなサラ金だから」
過去の佃煮博士はひっくり返る。見ている現在の佃煮博士。
佃煮博士「何が大丈夫なんだ! 払うのはこのおれじゃねえか!」
室内が明るくなる。
佃煮博士「挙げ句の果ては、うちの台所に住んでいたゴキブリと駆け落ちしやがって」
かさこそとゴキブリが現れる。
佃煮博士「来たよ、これだよ」
「矢切の渡し」が流れ、ゴキブリがすらりとした人間体に変身。ゴキブリ(奈良光一)は妻と踊る。
佃煮博士「ああ、ひとり残された私。ゴキブリと駆け落ちした母ちゃん。こんな話、人には言えないよ…。それ以来、私は昆虫を見ると思わず佃煮にしてしまいたくなる性格になってしまった」

「佃煮はいかが」と佃煮の行商をする佃煮博士。
佃煮博士「生活のほうは昆虫の佃煮を売って何とかなったが、ゴキブリと駆け落ちした女房が残していったサラ金に苦しめられて」
突如、哄笑する佃煮博士。
佃煮博士「あのモスガとかいう奴を佃煮にすれば、サラ金なんか怖くなーい」
そこへ「とらばる聖子と申しますー」と声が。佃煮博士が「ギャルかな」と問うと「一応」。戸を開けると、寅さんのようないでたちのとらばる聖子(小出綾女)が借用書を突きつける。
聖子「ゴキブリと駆け落ちした奥さまの遺していったサラ金の取り立てにやってめえりやした」
「サラ金苦~」と言いながら黒い怪人たちが現れ、佃煮博士にしがみつく。
佃煮博士「待って、お願ーい」

モスガは野原でマリのプレゼント用の花を摘む。ふと見ると聴診器をつけた佃煮博士がにやにや笑っている。
佃煮博士「いい天気だからおじさんとお医者さんごっこを、いえいえ身体検査してあげるね」
モスガに聴診器を当てた佃煮博士は驚く。
佃煮博士「ガ、ガ、ガンだガン」
「入院しましょうね」とモスガを連れて行こうとする。遂には強引に襲いかかるがモスガはかわし、佃煮博士は木に激突。木の上にとらばる聖子が。
聖子「本当に払ってもらえるの?」
佃煮博士は「もうちょっと待ってちょうだい」とのびる。
モスガが歩いて来るとベレー帽をかぶって画家のふりをした佃煮博士が「素晴らしい。これこそ芸術だ」と呼び止め、モデルになってくれと依頼。モスガにダイナマイトを咥えさせ「さあ火をつけて」。だがモスガは佃煮博士のスケッチブックに火をつける。燃え上がるスケッチブック。
佃煮博士「なんかきょうはぽかぽかあったかいな。あっ、何だこりゃ!」
佃煮博士は「あっちっちっち」と木に激突。
聖子「本当に払ってもらえるの?」
佃煮博士は「もうちょっと待って」とのびる。
自宅のテーブルで寝ているカミタマン。マリは起こして、厭な予感がするからモスガの様子を見てきてと頼む。
カミタマン「えー、そんなこと自分で」
マリ「カミタマンいいのよ。誰のおかげでこの家に」
カミタマン「ああ、判った判った!」
モスガが歩いていると、佃煮博士がメカを搭載した自転車に乗って来る。
佃煮博士「モスガ、貴様を佃煮にしてやるー」
さすがに逃げ出すモスガ。佃煮博士はモスガを追い回す。モスガは口から糸を吐いて反撃するが、佃煮博士はスプレーで火炎を放射し、糸を焼いてしまう。そしてロープを放って、モスガの周囲を旋回し、縛ってしまう。
佃煮博士「召し取ったり」
モスガ「やられたり」
そこへカミタマンが登場し。カミタンブーメランを発射する。佃煮博士は中山美穂、斉藤由貴の写真を見せる。何やら動揺した様子のブーメラン。
佃煮博士「じゃあこれだな」
菊池桃子の写真を見せる。ブーメラン(声:依田英助)は「桃子ちゃーん」と力を失う。
カミタマン「知らなかった知らなかった。あのブーメランが菊池桃子ファンだなんて!」
佃煮博士「ばーかめ。天才佃煮博士は二度と同じ手は食わんわ」
ブーメランは「桃子ちゃんかわいい、うへ」と腑ぬけと化し、カミタマンは「情けない」とブーメランを頭に戻す。
佃煮博士「最後は這いずり弾だ」
カミタマンは這いずり弾に追い回され遁走。佃煮博士は「アホ!」と嘲笑する。
帰宅したカミタマンは伸介をネモトマンにしようとするが、寝込んでいる伸介は咳き込む。
カミタマン「見え透いた咳なんかしやがって」
カミタマンが変身させるとネモトマン(岩瀬威司)は元気に飛び立つ。
カミタマン「やっぱりネモトマンは真の正義の英雄だ」
だがネモトマンは病院に来ていた。医師(井口浩水)は「はい、胸開いて」。見ていたカミタマンは「やっぱり自分で解決するしかないか」。
佃煮博士はモスガを鍋の上に吊るしていた。「助けてー」とモスガ。隠し味はみりんだなどと佃煮博士は上機嫌。見ているカミタマン。
カミタマン「助けてやりたいけれど、あの佃煮博士あれでなかなかの強敵だし」
木槌がカミタマンの頭をコツコツ叩いて光る。
カミタマン「よーし」
木槌が知恵を授けたらしい。
カミタマンは「これでも食らえ」とまたブーメランを発射。佃煮博士もまた菊池桃子の写真を見せつける。
カミタマン「ブーメラン毛をよく見ろ、佃煮博士!」
佃煮博士「ん、ん?」
ブーメラン「はーい、おまかせ」
ブーメラン毛は口紅を引いて下着をつけていた。
カミタマン「ブラジャーとパンティをつけたブーメラン毛は、きょうから女として生きていくんだ。だからもう桃子ちゃんのファンじゃないんだ!」
ブーメランは佃煮博士を直撃してノックアウト。

夜になってパパ(石井愃一)やママなどみなが夕食をとるときにモスガがマリに花を渡す。マリは笑顔で「モスガありがとう」。モスガは喜んで号泣。
伸介「大げさな奴」
モスガは騒ぎ、みなは困惑する。
佃煮博士の家では「借金を 返してくれよと 泣く子かな」「金返せー」とサラ金苦たちが飛び回る。佃煮博士は「信じられない」と嘆く。
聖子「佃煮博士、世の中には信じられないことがいっぱいあるの」
改めて返済を迫るとらばる聖子。
佃煮博士「信じられない、パンティとブラジャーつけただけで女になっちゃうなんて」
とらばる聖子は「やーめた」と借用書を放り出す。
【感想】
モスガをつけ狙う佃煮博士が初登場。台所のゴキブリに妻を寝取られたせいで虫を憎むようになった男という驚くべき設定で、浦沢義雄脚本ともなるとそこらのマッドサイエンティストとはひと味違うと感服する。浦沢脚本では『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第25話「ザリガニのバンザイ」などで妻が夫を尻に敷いているが、佃煮博士の妻はサラ金でつくった借金を夫に押しつけてゴキブリと逃げてしまい、その悪妻ぶりで異彩を放っている。今回は脚本・演技の奇矯ぶりもさることながら演出も才気を感じさせ、不思議コメディーシリーズの中でも一頭地を抜く濃厚さである。
ゴキブリが妻と「矢切の渡し」を踊る場面では人間の俳優さんがゴキブリの被り物をしているけれども、直近の浦沢脚本で今回と同じ大井利夫監督による『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第27話「イビキのガイコツ作戦」では突如モグラが登場して活躍し、パペットで処理していた。今回のゴキブリは妻と踊る以上は人間が演じるしかないわけだが、浦沢先生としてはどのようなイメージがあったのかは不明である(モグラを上手くこなしたので、浦沢先生も大井監督やスタッフを信頼したのかもしれない)。
クライマックスはカミタマンのブーメラン毛が菊池桃子の写真で骨抜きにされ、やがて女性用下着によって性転換し(女性になって)菊池桃子の誘惑?を克服するという衝撃的な展開。不コメの『ペットントン』(1983)や『ネムリン』では既に同性愛が描かれていたが、本作に至って遂に無生物の性が言及されるようになり、第19話ではもやしそばがパンツをかぶってゲイ売春に走った。今回のブーメランが下着をつける映像は、19話ほどではないかもしれないけれども強烈な印象を遺す。
またゴキブリやブーメランのおかげでかすんでしまうが、サラ金の苦しみが「サラ金苦」の黒い怪人として実体化して佃煮博士の周囲を跳ね回っているのも悪夢的。とらばる聖子が取り立て役というのも上手い割り振りで、今回は寅さんふうで(とらばる=寅ばる?)次回以降も違った衣装で登場する。
さりげないところでは横山のマリに対するセクハラが本格化。第10話ではストーカーだったけれども、今回は露骨に触って報復として殴られるというこの時代のギャグマンガのような趣向が実写で描かれた。
大井利夫演出は佃煮博士の過去が語られるシーンで現在の佃煮博士を画面の上手(かみて)に、過去の佃煮博士と妻とを下手(しもて)に配置して合成や照明を駆使してワンカットに収めている。大井監督は本作の第16話でも凝ったライティングによる舞台劇のような長回しを撮っており、その進化形が今回の佃煮博士のシーンであろう。佃煮博士が野原でモスガを縛りつけるのもカメラを引いてのワンカットでこだわりが感じられた。
佃煮博士の登場時は寺内タケシとバニーズ「運命」、モスガが花を摘むくだりは「この広い野原いっぱい」、回想は「ダンスはうまく踊れない」のインストゥルメンタルと選曲もいつもながら面白い。
佃煮博士役は第17話では海賊役を演じた及川ヒロオ氏で、クレージーな悪役ではあるが、去っていった妻の記憶と借金とに苦しむ悲哀をも感じさせる好演であった。持っていたスケッチブックが燃え上がったり木にぶつかったり、今回はアクション面でも特筆される。行商の佃煮売りをする姿も哀愁が醸し出され、この佃煮博士役は及川氏の一世一代の当たり役だと言えよう。氏は本作の後には不コメ常連俳優として『もりもりぼっくん』(1986)や『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)などに出演することになる。
ゴキブリと駆け落ちする妻は、第16話や第47話で声優を務める本多知恵子氏。『機動戦士ガンダムZZ』(1986)や『キテレツ大百科』(1988)など声優として知られ、顔を出しての出演は珍しいように思われる。出番は短いながらゴキブリと踊るさまは忘れがたく、数少ない女優としてのキャリアがゴキブリに寝取られる妻役というのも業が深い(冒頭のカブトムシの声も担当)。
ゴキブリは『ウルトラマン80』(1980)でウルトラマンのスーツアクターを務めた奈良光一氏。さすがすらりとしたスタイルのゴキブリで、他にテレビ『プロセスの星 アステカイザー』(1976)、映画『刑事物語2 りんごの詩』(1983)や『刑事物語3 潮騒の詩』(1984)などに出演している。
カマキリとブーメラン毛の声は依田英助氏で、本作では第19話にも登場。不コメでは『ロボット8ちゃん』(1981)や『バッテンロボ丸』(1982)には声優として、『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第5話や『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第3話には俳優として出演した。
ロケ地はさいたま市の秋ヶ瀬公園で、不コメでは『ペットントン』や『ネムリン』、『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)などで使われている。




