『勝手に!カミタマン』研究

『勝手に!カミタマン』(1985〜86)を敬愛するブログです。

第37話「年に一度の片思い」(1985年12月22日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

 街にはクリスマスの飾りつけが。

 公園で男(佐藤正宏)と女(藤井佳代子)が揉めていた。

男「判ってほしいんだ」

女「厭、厭。そんなの厭」

 女が「去年だってそうじゃない? その前の年だって。どうしてクリスマスの夜にはデートできないの」と強く言うと、男は「それは」と口ごもる。

女「あなた、もしかしたらサンタクロースじゃないの?」

 男は「ま、まさか」と動揺。

女「あたしがこんなに言ってるのに、あなたは判ってくれないのね。さよなら!」

 女は走り去る。そこへ「サンタクロース、サタクロースに頼みなさい」とカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)の声が。カミタマンが子どもたちからプレゼントの要請を受けつけていた。「どうか サンタクロースがダイヤブロックをプレゼントしてくれますように」との願いと、男は微笑んで見る。

 

 根本家の庭で、横山(末松芳隆)がリヤカーに乗せた煙突を伸介(岩瀬威司)とマリ(林美穂)に見せびらかしていた。

マリ「サンタクロースは煙突からしか入ってこないって」

横山「そう、実にそうなの」

伸介「うち、煙突ないけど去年サンタクロース来たよな、マリ?」

マリ「ええ、プレゼントあったもん」

横山「あれはここんちのおじさんかおばさんが用意したやつ。本当のサンタクロースは煙突がある家しか入ってこないんだ」

伸介「お前、妙に力強く言うけど」

横山「当たり前じゃん。そのためにあの煙突つくったんだから」

 横山はマリにいまからでも遅くないから煙突をつくるなら手を貸すと言って、手を握る。

マリ「お兄ちゃん。このバイキンみたいな奴、追っ払って」

伸介「お前な、バイキンって。横山はおれの友だち。なあ、横山?」

横山「うん」

 公園でカミタマンメローイエローを飲んでいると、横山が煙突のリヤカーを引いてくる。

横山「マリちゃんの奴、人の親切を全く」

 見ているカミタマンが空き缶を投げ捨てると、さっきの男の頭に当たったらしく「あー、いてててて」と現れる。

カミタマン「だいじょぶですか」

男「だいじょぶじゃない、だいじょぶじゃない」

 男は「あんた、神さまなんでしょ」「やっぱいけないんじゃないの、神さまが空き缶くずかごに棄てないっていうのは」と迫る。カミタマンは空き缶をくずかごに棄てる。

男「責任とってもらいますから」

カミタマン「ああ?」

 「ああって、とぼけちゃって」と男はカミタマンをこづく。

カミタマン「何の?」

男「何のって、あいたたたた」

 カミタマンは慌てて「とります、とります」。

 

 立喰いそば屋にいる男とカミタマン

カミタマン「ええっ、おたくがサンタクロース!?」

 男は食べながら「しー、声が大きい」。

男「お願いしますよ。責任とって今夜のクリスマスプレゼント、子どもたちに配ってください」

カミタマン「そんな!? コロッケそばご馳走させられた挙句、サンタクロースのプレゼントを代わりに配れって」

男「ぼくはいいんですよ、ぼくは」

 男は「あいてててて。みなさーん、ぼくはカミタマンの投げた空き缶に当たりー」と言い出し、カミタマンは「判ったよ、判ったってば」。

 

 男は雑木林にある自宅にカミタマンを連れて行く。

カミタマン「ここがほんとにサンタクロースの?」

 

 男の部屋に入って窓を開けると、すぐ前が線路で電車が通過し、カミタマンは驚く。

男「カミタマン、きみはもうサンタの世界に来てるんだよ」

 「もろびとこぞりて」をBGMに男がふすまを開けると、中からプレゼントがあふれ出す。棚にはサンタの衣装が。

男「ぼくはサンタの国から来たクルス王子だ」

 クルス王子は「クリスマスプレゼント、子どもたちは期待して待ってますからね。裏切っちゃいけませんよ」と脅すように言う。

 

 根本家でママは歌いながらクリスマスツリーの飾りつけをしていた。カミタマンは階段の手すりを登っていき、ママ(大橋恵里子)は「手つだ…」と声をかけるが、カミタマンは行ってしまう。

 

 カミタマンは空き缶のせいでサンタクロースがプレゼントを配れなかったら社会問題だと、危機感を募らせる。

カミタマン「今夜は大変なことになりそうだ。寝だめしておかなくっちゃ」

 ベッドで寝入るカミタマン

 

 夜になって居間ではパパ(石井愃一)とママ、伸介、マリがクリスマスパーティーを開催。「いただきまーす」と料理をがつがつ食べる。

 

 夜の公園でカミタマンは「あああ、寒い!」と待っていた。

 

 パーティーはつづく。

ママ「パパ、カミタマンは?」

パパ「それがいないんだ。窓から出たらしい。こんな寒い日にいったいどこ行ったんだ」

ママ「全く気まぐれなんだから」

 

 カミタマンがいらだっていると、クルス王子が駆けてくる。

クルス王子「遅くなってごめん。いやあ、つい床屋が混んじゃって」

 カミタマンは「頭のほうは?」と尋ねる。

クルス王子「あ、あの頭。ああ、あいたたたたた」

 急に痛がるクルス王子。そして「代理とはいえサンタクロースやるわけですから」とカミタマンにサンタの衣装を渡す。

 

 サンタになったカミタマンは「♪ジングルベール ジングルベール」と歌って道を行く。プレゼントを配るにはまだ時間が早いが、もう灯りが消えている家が目に留まる。屋根には煙突が。

カミタマン「あの煙突、確か昼間、横山が」

 ポストには「横山」とある。

カミタマン「なーんだ、このうち横山んちじゃないか。よーし、横山んちから配るとするか」

 カミタマンは手帳を見て、注文にあったヨネザワのミサイラーを持って煙突へ。

カミタマン「横山の奴、朝起きてこれ見たらきっと喜ぶだろうなあ」

 だが暗がりの中で「うわあ」と網にかかるカミタマン。煙突は網につながっていた。電気がつき、横山が「ばあ」と現れる。

横山「サンタクロースが煙突から入って来たことを証明するんだ」

カミタマン「ああ?」

横山「このままサンタクロースを捕まえて、あしたマリちゃんに見せてやるんだ」

カミタマン「そんなことしたら他の子どもたちにプレゼント配れないじゃないか」

横山「人のことなんかどうだっていいんだ。マリちゃんさえぼくの言うことを信じてくれれば」

カミタマン「横山。お前な、その目は普通じゃないぞ。もっと健康的な小学生らしい目になれ」

 カミタマンは「おれはサンタクロースじゃない。ほーら、カミタマンだ」と変装を解くが、横山は笑うのみ。

 

 根本家ではママが「ジングルベール」とまだ飲もうとして、パパが「やめなさい」。マリと伸介はもう寝ていた。伸介は大量の靴下を部屋に吊るしていた。

 

 横山は瞬間接着剤でつけひげをカミタマンに貼る。

横山「どうだ。これでお前はカミタマンじゃない。サンタクロースだ」

 横山はカミタマンを檻の中に閉じ込める。

横山「これであしたになれば、マリちゃんもぼくのこと見直して「横山さんって素敵」なーんてこと言っちゃったりしちゃったりしちゃって」

 「マリちゃん」とベッドに入って寝てしまう横山。カミタマンはニワトリの鳴き真似などするが起きない。

カミタマン「なんだ、この驚異の寝つきは」

 カミタマンは木槌で寝ている伸介をネモトマンに変身させる。

カミタマン「ネモトマン。横山の部屋だ。すぐ来てくれ!」

 

 食べすぎのネモトマン(岩瀬威司)が夜空を飛ぶ。

 

 煙突から横山の部屋に入って来たネモトマン。

カミタマン「さあ、早くここから」

 だがネモトマンは横山のベッドで「おやすみなさい」といっしょに寝てしまう。

カミタマン「あーあ、どいつもこいつも」

 

 夜の野外でクルス王子と彼女のヨーコは「メリークリスマス」と乾杯する。

クルス王子「ヨーコごめん。こんなとこしか誘えなくて」

ヨーコ「いいのよ。ありがとう、今夜は私にとって最高のクリスマスになりそうな予感がするの」

 

 カミタマンは「裏切っちゃいけませんよ」と言うクルス王子を思い出して、檻で焦っていた。横山は起きてトイレへ。

 カミタマンはラジコンを見つけ、木槌でコントローラーを手もとに寄せる。

 

 夜の公園で、ダンスを踊るクルス王子とヨーコ。

 

 カミタマンはラジコンカーを操縦して「もう少しだ」と椅子にぶつける。椅子の上の檻は落下し、その勢いで檻は壊れる 。カミタマンは脱出した。

 「夜が明けちゃう、夜が明けちゃう」とプレゼントを急いで配ろうとするカミタマン。見ると公園でクルス王子とヨーコがキスしている。

カミタマン「ああ、サンタ!」

 怒ったカミタマンは「クリスマスの夜に女といちゃいちゃするサンタクロースがどこにいるんだ」と体当たり。

ヨーコ「待って、殴るんならあたしを殴って」

クルス王子「ヨーコ」

ヨーコ「いいのよ。カミタマン、この人が悪いんじゃないの。悪いのはみんなこのヨーコ」

 驚くカミタマン

ヨーコ「ヨーコ、あなたがサンタクロースだってこと知ってたの」

クルス王子「ええっ」

カミタマン「なんだなんだなんだなんだ」

ヨーコ「ヨーコ、知ってたわ。あなたがせっせと工場で働いて、子どもたちへのプレゼント買ってたこと。そのためにあたしたちのデートはいっつもお金がなかったことも。だからクリスマスの夜はデートができないことも」

クルス王子「それじゃ何故?」

ヨーコ「愛すれば愛するほど、自分だけのものにしたいの。あたし以外のことに夢中になるあなたに焼きもち妬いたの」

 「ヨーコ」「サンタ」と改めて抱き合うふたり。

カミタマン「どうでもいいけど、このプレゼントはどうなるんだよ」

 クルス王子はひとりじゃ配れないと言うが、ヨーコは今年から自分もサンタになると提案。

ヨーコ「ふたりでやればデートする時間もできるでしょ」

 ヨーコもクルス王子もサンタに変身。抱き合うふたり。

カミタマン「お愉しみは配った後に!」

 

 十字路に来たクルス王子とヨーコ、カミタマンは「分担して配りましょ」「バイバーイ」。

 あちこちの家に超特急で配る三者。寝ている子どもたちの枕もとや机にプレゼントを置く。

 

 クルス王子は寝ているマリにプレゼントを抱かせる。

クルス王子「あー終わった」

 

 寝ている伸介の上にプレゼントを置いたヨーコは、ひげを取る。

 

 カミタマンは女の子の横にプレゼントを置いて「終わった」。

 

 夜が明けている。「何とか間に合った」と疲れたカミタマンがふと見ると、朝日をバックにクルス王子とヨーコはキス。

カミタマン「なんだなんだ。あいつら、終わったと思ったらもうべたべたしやがって」

 怒るカミタマン

カミタマン「いつまでやってんだよ。ああもうやだやだやだやだやだ。淋しーい」

【感想】

 不思議コメディーシリーズでは定番のクリスマス回。毎度おなじみであるのだが主人公がサンタクロースだった『ロボット8ちゃん』(1981)、子どもたちがクリスマスを祝う児童劇スタイルの『ペットントン』(1983)、柄の悪いサンタが騒動を巻き起こすコメディタッチの『どきんちょ!ネムリン』(1984)などに対して、今回は初めて恋愛ドラマふうの構造になっている。松任谷由実「恋人はサンタクロース」が発表されたのは1980年で、堀井憲一郎『若者殺しの時代』(講談社現代新書)などによればクリスマスは恋人同士で過ごすのが常識?であるという通念は80年代前半に雑誌メディアなどを通じて徐々に浸透していった。1985年制作の今回はサンタクロースの恋愛にカミタマンが振り回されるというもので、通念の影響が大きいことを示している。不コメ次作『もりもりぼっくん』(1986)のクリスマス回もサンタの恋愛がらみであったが、後続の『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)や『美少女仮面ポワトリン』(1990)などではマンネリを避けるためか、クリスマスでも恋愛と関係のないストーリーが描かれるようになる。

 今回のサンタクロースは空き缶でカミタマンに言いがかりをつけて仕事を押しつけるという、なかなかのろくでなし。前作『ネムリン』のサンタも競馬で金をすっていたけれども、カミタマンにしてみれば今回のサンタのひどさは『ネムリン』を上回るかもしれない(ただし工場で働いてプレゼントの費用を捻出していたそうで、その背景は同情できる)。

 サンタのひどさに対して名実ともに「恋人はサンタクロース」状態である彼女・ヨーコはかなりかわいげがあり、佃煮博士の妻をはじめ悪辣な女性陣が目立つ本作では異色である。佃煮博士の妻の名もヨーコで、第40話にて横山を翻弄する女の子も洋子だが、浦沢義雄脚本では『8ちゃん』第17話のお姉さん(中村久美)や『ペットントン』で主人公があこがれる女性(若林一美)もヨーコで、頻繁に登場する。それらのヨーコは主に男性側が思いを募らせていたけれども、今回は珍しく相思相愛で「愛すれば愛するほど、自分だけのものにしたいの」という台詞など浦沢脚本としてはかなり普通の恋愛ドラマではある。

 ゲストがメインなので根本家の面々は脇に回っているけれども、みなでパーティーに興じるあたりは不コメの家族の中でも仲の良さが際立つ。一方、極大の煙突を運んで来て見せびらかしたりカミタマンを捕獲したり、横山は問題行動を繰り返し、末松芳隆氏の怪演が光る。

 横山のプレゼントがラジコンで、それがカミタマン脱出の手段となる。もしかしたら脚本でなく現場のアイディアかもしれないが、その点を除いても今回は思いつきで書き進める浦沢脚本にしては構成が順当で、事前に筋をイメージしてシナリオを作成していたとおぼしい。

 横山に捕獲されたカミタマンは、前回につづいてネモトマンをリモートで変身させる。ネモトマンが夜のビル街をバックに飛ぶのは過去になかった映像であろう。

 ラストは朝日はセットで、直後の『時空戦士スピルバン』(1986)のタイトルバックに相似(というか同じ太陽か)。本作の第49話でも使われている。

 サンタクロース=クルス王子の佐藤正宏氏は前作『ネムリン』の好敵手・イビキをはじめ『ぼっくん』の第19話、『じゃあまん探偵団魔隣組』(1988)の第35話など不コメに多数出演。前作でのハイテンションぶりと異なり、今回は二枚目っぽいのが面白い。「裏切っちゃいけませんよ」と笑みが消えて真顔になるさまは、凄みを感じさせる。

 ヨーコ役の藤井佳代子氏はテレビ『機動戦士Zガンダム』(1985)や『宇宙船サジタリウス』(1986)などの声優として知られる。不コメには『ちゅうかないぱねま』の第19話に出演したほか、後年も『仮面ライダーW』(2009)や『相棒 Season12』(2014)など活躍。

 クルス王子と出会うのは新宿中央公園で、昼間の場面に映るクジラの遊具やアスレチックは、不コメでは『ペットントンスペシャル!』(1984)や『ネムリン』の第21話第25話にも出てきた(夜になってカミタマンとクルス王子が出くわすシーンも同じ中央公園)。