
【ストーリー】
スケート靴を持った伸介(岩瀬威司)が戸を開けて「行ってきまーす」と出かける。
パパ(石井愃一)がもちを焼きつつ「また三日坊主じゃないのか」と言うと、ママ(大橋恵里子)は雑誌を見ながら「いいじゃない、あの子運動不足なんだから」と応じる。伸介はスケート教室に通い始めたのだった。
ママ「芳村真理さん、また髪型変えちゃって。ほんと若づくりね、この人」
パパは「神様ヘルプ!」と軽く歌っておしるこをつくっていた。カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)とマリ(林美穂)が来る。
マリ「カミタマン、気にしてんだって」
ママ「何を?」
マリ「太りすぎ」
心なしか丸っこくなっているカミタマン。そこへ電話があり、カミタマンが「どすこいどすこい、よっこらしょっと」と出る。
横山(末松芳隆)が公衆電話からかけている。
横山「とらばる聖子が学習塾開いたのはいいんだけど。あ、ちょっと待って」
とらばる聖子(小出綾女)が網を持って、子どもたちを「待てー」と追いかけていた。
横山「生徒が集まらないからって強引に集めようと」
カミタマン「落ちこぼれ狩りか。まあ助けてやりたいのはやまやまだが、きょうはダメー。自分で解決しろい!」
電話を切るカミタマン。マリは「どうして「ダメー」なの?」と訊ねる。
カミタマン「最近の子どもは何でも電話で話をつけたがる。助けてもらいたいのなら、自分でここへ来て助けてくださいって言うのが本当じゃないの?」
マリ「いいのかな、そういう分別くさいこと言ってて」
カミタマン「あ?」
マリ「危険じゃないの」
カミタマン「どうして?」
マリ「分別くさくなって人気を失ったタレント、随分いるのよ」
カミタマン「ウッソー」
また電話でカミタマンは「あ、横山さん」と出る。
公衆電話をかけている横山が網で捕まる。
横山「助けて、カミタマン! このままじゃ聖子の塾に。あああ」
とらばる聖子「さあ、とらばる聖子の学習塾に入ってお勉強しましょう」
カミタマンは「判った、横山くん。すぐ助けに行くよ。横山くん、くれぐれも判ってもらいたい。カミタマンは分別くさくないからね」と電話で念を押す。だがパパが「お待ちどうさまでした」とおしるこを持ってきたので、カミタマンは「おしるこ食べたらすぐ行くからさ」と切る。「おいしい」とありつくカミタマン。

雑木林の廃バスでとらばる聖子の「とらばる学習塾」が開講。「おちこぼれ 美少年よ集まれ!」と掲げられている。中では横山をはじめ少年たちがシートベルトで座らされ、うつむいている。
聖子「美少年諸君、きみたちの美しさに学力が加われば鬼に金棒」
とらばる聖子は台形の面積などに関して講義する。横山が「おしっこ」と言うと、聖子は横山の首根っこを掴んで行かせる。横山は外へ出ると「カミタマン、早く!」。「どすこいどすこい」とカミタマンが来る。
聖子「カミタマン、とらばる聖子の商売の邪魔をする気?」
カミタマン「こら、聖子! 子どもたちを強引に集め、強引に勉強させるなんて。んー考えてみれば聖子、お前は大変偉い!」
聖子「でしょう?」
横山「どこが偉いんだ。おれたちにとっちゃ、いい迷惑じゃないか」
横山は「助けてくれるの、くれないの? どっち?」と迫る。
横山「いいんだよ、他の正義の味方呼んでも」
カミタマン「ああ、判った判った。助けりゃいいんだろ」
横山はうなずく。
カミタマン「というわけで、とらばる聖子。お前と戦うことになった」
とらばる聖子は「お黙り」と横山とカミタマンを鞭で攻撃。カミタマンはブーメランを放つが、ブーメランは墜落し、聖子に踏みつけられてしまう。カミタマンは「カミタンメランブ」とブーメランを頭に戻して逃亡。
逃げたカミタマンは階段を昇るのに苦戦。追ってきたとらばる聖子は「カミタマン。あんた、もしかして体どっか悪いんじゃ?」。
聖子「お医者さん行こう」
カミタマンが「よせ」と言っても「あたしがいい先生紹介してあげるから、ね」。カミタマンは「やめろって」と振り切る。
カミタマンは「聖子の奴、全くおせっかいなんだから」と歩き、ブーメランが不調だった理由が判らず「おかしいなあ」。ふと「武内医院」の看板が目に留まる。
とらばる聖子は根本家で講義するように「そう、あれは病気じゃないわ。あれはカミタマンが神さまとしてのパワーを失った証拠。このうちでこき使いすぎたのでは?」と疑問を投げかける。
パパ「そう言われれば」
パパはパチンコでカミタマンに「よく出る台、さがしてくれ」。カミタマンは「カミター」と木槌で突きとめる。
ママは部屋でカミタマンに「早くパパのへそくりさがしてちょうだい」。カミタマンが「カミター」と木槌を上げると、飾ってある絵の裏から一万円札がぱらぱらと落ちる。
パパとママが言い合いになりかかるとマリは「ふたりともやめて! あたしだって…」。
マリは店先でカミタマンに「いちばん中身が濃くって、大きい肉まんはどれ?」。カミタマンは木槌で当て、マリは「おいしい」と鴻大な肉まんを食べる。
パパ「せこいせこい」
ママ「マリ、ママはあんたをそんなせこい子に育てた覚えはありませんよ」
マリ「しょうがなかったのよ、あの場合は!」
聖子「いいわけなんかしている場合じゃないの。問題はあなたたちがカミタマンをこき使いすぎて、神さまとしてのパワーを失わせてしまったことよ」
パパ・ママ・マリ「しゅん」
カミタマンが医院の待合室でマンガを読んでいると、太った初老の男性が「ああ苦しい」と来る。
カミタマン「でぶ」
太った中年男性も「ああ、死にそう」と来る。
カミタマン「大でぶ。おら、まだだいじょぶだな」
女性の声で「カミタマンさん」「診察室へどうぞ」と呼ばれる。
パパがママに「あーん」とみかんを食べさせようとしたりしてふざけていると、とらばる聖子は「反省の色が見えない!」と指弾。
すると庭から「こんにちは、NHKです」と集金人(泉福之助)が現れる。
聖子「何、NHK?」
集金人「はい。N・H・K、です」
聖子は「いまここの家族、ちょっと家庭の事情で反省してますから」とガラス戸をぴしゃりと閉める。

診察室でカミタマンは驚く。
カミタマン「え、単なる太りすぎ!?」
医師(野口元夫)は「この時期になると多いのよね。おもち食べすぎて太っちゃう人」と言う。
カミタマンは水に映った自分を見て「それにしても醜いなあ」。
診察室で医師はどら焼きを食いながら「肉や甘いものは控えてください。太り過ぎは寿命を縮めますよ」と忠告し、喉に詰まらせていた。
カミタマンは「きょうから絶食だ、何も食べないぞ」と決意。そして文房具屋で輪ゴムを買うのだった。
根本家では聖子が「いいですね。くれぐれもカミタマンを傷つけないように。カミタマンはカミタマンで、これまで一生懸命生きてきたんですから」と教師よろしく諭していた。聖子が庭から帰ると、カミタマンが「ただいまー」。
マリ「ママ、パパ。判ってるわね?」
パパ「うん」
ママ「マリこそ気をつけてよ」
「どすこいどすこい」と食卓に来たカミタマンは、輪ゴムで体を縛っていた。パパ・ママ・マリはにっこり笑って「おかえり」。
カミタマン「どうしたの、その見え透いた笑い顔?」
マリ「そうかしら。私たち、自然よね」
パパ「そう、ナチョラル」
ママ「カミタマン、お腹減ってない?」
ママはおしるこを勧めるが、カミタマンは断固拒否。
カミタマン「大体、私はここの居候です。おしるこだなんてそんな贅沢」
カミタマンは「どすこいどすこい」と言いながら階段を行く。
マリ「きっと悩んでんのよ」
パパとママ、マリは心配そうに2階を見上げる。
伸介の部屋でエアロビクスをするカミタマン。パパとママ、マリが部屋に入って来る。
パパ「焼肉食べに行こう」
カミタマンは困惑。
マリ「カミタマン、行きましょう」
3人はカミタマンを縛る。
カミタマン「ああ、おやめくだされ」
焼肉屋でみな焼肉を食べ、「食べるのよ」「食べなさい」とカミタマンも口に押し込まれる。
さらに太ってしまったカミタマンは、ドラム缶に乗る。
カミタマン「こんなにぶよぶよになっちゃって」
輪ゴムも切れてしまう。マリが「どう、パワー回復した?」と来る。
カミタマン「するわけないでしょ。こんなに太っちゃって」
マリ「だからパワーアップして」
カミタマン「違うの。そうじゃないの」
マリは「あなたって人の善意を素直に受け取れない神さまなのね」と非難。
カミタマン「マリ。お前、なんか善意に酔ってる?」
マリ「問題をすり替えないで」
カミタマン「すり替えたのは」
マリ「カミタマン、あんたっていう神さまは」
カミタマンは怒るが、太って木槌まで手が届かない。
マリ「どうしたの。ブーメランで私を倒しなさいよ」
カミタマンは「この仇は痩せた後で」と言って去る。
根本家でパパとママ、マリは「この仇は痩せた後で」の言葉を意味を「うー」と考える。
カミタマンは森でターザンする。
ママは「カミタマンはヤセタさんちに行ったんじゃないかしら」と推理。
マリ「パパ。離婚しちゃいなさい、こんな女」
パパ「する」
ママはパパとマリを引っぱたく。
カミタマンは木々の間をジャンプしたり、「どすこいどすこい」と岩に張り手をしたり、滝に打たれたりして体を鍛える。
「この仇は痩せた後で」の意味を考えつづけるパパとママ、マリ。
パパ「頭使ったら腹減っちゃった」
ママ「うん」
マリ「私も。鍋焼きうどん食べたい」
ママは天ぷらそば、パパはかつ丼の上を食べることに。パパは「鰻重のほうがいいかな」などと言いながら電話する。
パパ「あ、もしもし。根本ですけど大至急たぬきそば3つ」
ママとマリはズコー。
ママ「けち」
広場で横山らが遊んでいると、またとらばる聖子が現れる。
聖子「はーい、美少年のみなさーん。とらばる聖子の塾に入って、午後のお勉強しましょうねー」
みな逃げるが、横山はつかまる。
横山「助けてー聖子やだー」
「しっかり勉強させてあげるからね」と言う聖子。「やめなさい、とらばる聖子!」とカミタマンの声が。傷だらけで精悍になったカミタマンがそびえ立つ。
聖子「ふん、この三流神さまめが。パワーダウンしたカミタマンにこのあたしが倒せるとでも?」
カミタマン「見ろ、とらばる聖子。このダイエットしたカミタマンの体を」
カミタマンはブーメランを発射し、とらばる聖子を瞬殺。だがブーメランはカミタマンも襲う。
カミタマン「こりゃパワーアップしすぎた!」
たぬきそばを食べているパパとママ、マリ。カミタマンが「助けてー」と帰宅。ブーメランが追ってくる。ブーメランはパパのそばとママの箸を奪い、そばを載せた状態で襲撃。カミタマンはついでにマリのそばを食べてしまう。カミタマンとブーメランで食卓はパニックに。
【感想】
カミタマンが太りすぎてしまい、とらばる聖子が塾を開講し、それに伴って騒ぎが起こるのだが、今回まず異色なのは伸介が冒頭にしか登場しない点である。演じる岩瀬威司氏のスケジュールの都合のようだけれども、本作では普段の氏の存在感は大きく、伸介が出てこないとまるで派生作品(スピンオフの番外編)を見ているかのような気になってきた。不思議コメディーシリーズでは『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第36話「お彼岸ライダーの謎」は今回と同じ浦沢義雄脚本 × 坂本太郎監督のコンビで、主役が序盤とラストにしか登場しないのだが、最後にもわずかに出てくることで締まっていたのに対して、今回はラストまで伸介不在でネモトマンに関する言及もないのがスピンオフ感を強める。ただし事態はおそらく1日で発生しているので、伸介がスケートで外出している間に起きた騒ぎだと思えば納得できなくはない。
カミタマンがもちの食べ過ぎなのか太ってしまい、それをパパやママ、マリはカミタマンを働かせすぎたせいだと思い込む。カミタマンの苦悩を他の者がまるで理解していないわけだけれども、浦沢脚本では後年の『激走戦隊カーレンジャー』(1996)でも登場人物が落ち込んだ後で立ち直って、他の者は急に元気になったなと訝しむ展開があり、家族や戦隊など同じグループに属していても相互に理解しているわけではない。情愛によるおせっかいではなく、無理解のせいで余計なことをして笑わせるというのが人情喜劇でないドライさを感じさせる(カミタマンはマリを「善意に酔ってる」と辛辣に非難している)。浦沢先生が敬愛する鈴木清順監督は生前「人情なんか大嫌い」だと述べていて、その影響もあるかもしれない。
浦沢脚本では学習塾をねたにすることが多く、不コメ『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)では塾の先生が準レギュラーであったが、今回とらばる聖子が雑木林に塾を開講したのは、本作に近い時期の『ロボット8ちゃん』(1981)の第28話「ねつれつもうれつ勉強大好き」で森に塾があってパニックが起こるのを想起した(『8ちゃん』のほうが破壊的な内容で、それに比すと今回の聖子は少年を拉致するだけで手ぬるいといえば手ぬるい)。また横山は「いいんだよ、他の正義の味方呼んでも」と告げていて、『8ちゃん』の第28話ではスーパーマンや仮面ライダーなど種々のヒーローが大挙して無駄にバトルしており、今回はヒーローが実際に画面には出てこないとはいえ『8ちゃん』第28話を連想させる。
とらばる聖子が根本家の面々に説教しているときに唐突に現れて即座に追い返されるNHKの集金人は、何の脈絡もなくて面白い。NHKの受信料は本作の第13話で既に台詞に出てきたけれども、今回はNHKと書かれた制服?に身を包んだおっさんが実際に庭にいて強烈。民放のドラマでNHKの集金人を画面に出してコケにする悪乗りは、出番が短いとはいえ辛辣である。
とらばる聖子は初登場回以後、存在感はありつつも前面に出る回はなかったが、今回は心配したり、そうかと思えばヒール的にカミタマンと戦ったりと活躍する(聖子は第46話でも敵役を担当)。
カミタマンは山でトレーニングを積み、1日の間にすぐに痩せてしまう。不コメの浦沢脚本では『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第21話「いじけたジューサー」ではジューサーが自分を鍛え直すために今回のカミタマンと同様に滝を浴びたりして、やはり数時間しか経っていないはずなのに修行僧の姿にすっかり変わっていた。かなりの出来事が起きて容姿が変化しているのに、劇中時間は1日も経っていないという時空間の処理があり得なくて笑える。
ママがパパとマリを叩く場面とラストのパニックシーンでは、演じる林美穂氏は笑顔になってしまっていて、現場の乗りの良さが感じられて微笑ましい。
医師役の野口元夫氏は映画『皇帝のいない八月』(1978)やテレビ『シルバー仮面ジャイアント』(1971)の第15話、『宇宙刑事シャリバン』(1983)の第41話などさまざまな映画・テレビに多数出演。肥満体が特徴の方で、太ったのがテーマの今回に相応しく、出番は短いながらかなりのはまりっぷりである。
NHKの集金人の泉福之助氏は映画『新幹線大爆破』(1975)や『大日本帝国』(1982)などのほか、『バッテンロボ丸』(1982)や『ペットントン』(1983)の第27話など不コメにも頻繁に出演した。




