『勝手に!カミタマン』研究

『勝手に!カミタマン』(1985〜86)を敬愛するブログです。

第27話「はばたけ!演歌の星」(1985年10月13日放送 脚本:寺田憲史 監督:佐伯孚治)

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【ストーリー】

 西部劇によくある拷問の要領で、公園で子どもたちにロープで引きずられるカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)。

カミタマン「うわあ、助けてくれー」

 子どもたちは「♪もしもし神よカミタマン 世界のうちでお前ほど のろくてださいものはない」と唄う。見ている伸介(岩瀬威司)と横山(末松芳隆)。

横山「神さまも住みにくい世の中になりましたね」

 

 川沿いに逃げてきたカミタマンは「くやしい」と憤慨。そこへ「♪あなた変わりはないですか」と女性の声。

カミタマン「変わりあるぜ」

 橋の上で「北の宿から」を情感たっぷりに唄う女の子・サチコ(岡崎由喜枝)が。靴は上履き。

カミタマン「暗い。この暗さは何だ。いまどきこんな暗くて貧しい小学生がいたのか」

 

サチコ「初めは勢いよく、そして大きく広がるとすーっと消えてしまう波紋。まるで、人の人生のよう」

カミタマン「人生…」

サチコ「でもこの私には、生まれたときからそんな勢いのいいスタートなんかなかった。いつだって、いつだってひっそりと暮らしてきたんだもの」

 せきこむサチコは「♪幸子の幸はどこにあるー」と「赤色エレジー」を唄い出す。

 

 雪降る交番の前に置かれている赤ちゃん。見つけた警官がよしよしとあやす。

 

 拾った警官にサチコと名づけられたと聞いて、涙するカミタマン。伸介と横山が向こうで見ている。

横山「少女Aと1対1ですよ」

 伸介は驚く。

伸介「あ、あれは」

横山「ヒ、ヒロコじゃん」

伸介「げえ、すっかり暗くなりきってるよ」

横山「よくやりますよ。ったく」

 顔を見合わせて嗤うふたり。サチコは切々と語る。

サチコ「私には神さまなんていないんだわ、きっと」

カミタマン「ちょ、ちょっと待ってよ。ここにいるんだってばさ」

 サチコは咳き込む。

サチコ「でもこんな私にも、たったひとつ夢があるの」

カミタマン「夢?」

サチコ「今度の全国カラオケキャラバンに出場すること。そこでいい唄を唄うことだわ」

 「それが、それが私の小さな幸せなの」と微笑むサチコにカミタマンは涙ぐむ。

 

 居間で話を聞いたパパ(石井喧一)とママ(大橋恵里子)も泣く。

パパ「まるで絵に描いたような不幸な子だな」

カミタマン「そうなのそうなの、まるで絵なの」

ママ「幸子の幸はどこにある 唄みたいに不幸ね」

カミタマン「そうなのそうなの、これは唄なの」

 クールに服をたたんでいるマリ(林美穂)。

マリ「どこかで聞いたようなストーリーね」

 みなはむっとしたように振り向く。

カミタマン「そうなの、これは文学なの」

 ママは、不幸な子もいるんだから贅沢を言うなと言い出す。隣のお姉さんのお古の服に、マリは不満げ。

パパ「ところでカミタマン、その子そんなに咳ばかりして結核なのかね」

カミタマン「げ」

ママ「バカね、いまどき結核で死ぬもんですか。ガンよ」

パパ「ガンか。それならつじつま合うぞ」

 納得するふたりにカミタマンは「ぬくぬくと幸せにあぐらかいてる連中を相手にしている暇なんかないんだ」と行ってしまう。

 

 伸介の部屋でカミタマンは “神さま武芸帳 人助けの巻” と書かれた巻物を出す。1階からみなの笑い声が。

カミタマン「いま泣いたカラスがもう笑って」

 

 居間では伸介と横山が真相を話していた。

伸介「本人は嘘つく気ないんだけどさ。こないだなんかな、横山」

 

 視力検査をしている医師(三輝祐子)。並んでいるサチコ=ヒロコ(岡崎由喜枝)は女医を凝視。その後ろには伸介と横山が。

横山の声「身体検査に来ていた女医にあこがれちゃったんですけどね」

 ヒロコは白衣で登校。伸介と横山は驚く。ヒロコは給食でも医師っぽく仕事しながら食事する。

横山の声「それからしばらく、何から何まで女医さんになりきっちゃったんですよ」

 

マリ「でもさ、何だってその子、不幸少女になりきってるわけ?」

伸介「演歌の星目指してんだってさ」

 町内での全国カラオケキャラバンに出るからだという。

マリ「いまどきそういう演歌、流行んのかしら」

横山「流行るも流行らないも、思い込んだらとことん行っちゃうのが彼女なんですねえ」

伸介「カミタマン、すっかり同情しちゃってさ」

 笑う一同。2階からカミタマンが服を持ってくる。

マリ「何カミタマン、それ私の服じゃない?」

カミタマン「親がいるだけでも文句を言うな。いまひとりのかわいそうな少女が舞台に立とうとしてるんだ。せめてまともな服を着せてやろうとするのが人情だぞ」

 マリは「やだ、みんないい服ばっかじゃない」と取り上げて、さっきのお古の服をカミタマンに投げつける。

 

 ブランコで「15、16、17と私の人生暗かった」とひとり唄うサチコ。見ているカミタマンは「サチコちゃん」とつぶやく。

 

 店頭で赤い靴を見かけたカミタマン。サチコにプレゼントするさまを想像する。

サチコ「ありとう、カミタマン。私の大切な神さま」

 カミタマンは「これだ!」。見ている伸介と横山。

伸介「でもカミタマン、ちょっとマジに思いすぎちゃったなあ」

 

 カミタマンは、車でハンバーガーやホットドッグを売るとらばる聖子(小出綾女)に懇願していた。

聖子「買う気がないんだったら商売の邪魔しないでよ」

カミタマン「だからさ、いっちゃん手っ取り早くお金になりやすいバイト見つけてくれれば消えるってばさ」

 聖子は「うるさいわね」と言いつつも「とらばーゆ」を取り出してさがしてくれる。心配そうな伸介と横山。

 

 市場でカミタマンは「わっせわっせ」と野菜を運んでいた。だがおじさんが落とした野菜が転がって、カミタマンを直撃。

 

 ホテルの廊下やエレベーターで掃除するカミタマン。映った姿を見て「お、いい男!」。 

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 食卓でみながごはんを食べていると、カミタマンは眠そう。

 

 朝、自室で伸介が目を覚ますと、既にカミタマンはいない。

伸介「カミタマン、こんな早くに」

 

 今度は工事現場で「よいしょよいしょ」と働くカミタマン。ドリルの振動で「うーとー」と揺れる。

 

 道をゆく伸介と横山。

横山「ねえ伸介くん、本当にもうばらしちゃうんですか」

伸介「うん、これ以上もう見てられないもんな。お前よく笑って見てられるな」

 そこへ給料袋を持ったカミタマンが「伸介、遂にやったぞ」と歩いてくる。

横山「あれは相当疲れてますね」

 

 店で靴を買うカミタマン

「わっせわっせ」と靴を抱えて歩くが、つまづいた拍子に道へ投げ出してしまう。靴はトラックに踏みつぶされる。カミタマンはショックでひっくり返り、伸介と横山は駆け寄る。

 

 お寺でカラオケキャラバンの準備が進んでいた。パパとマリも参加。パパは「わが読フジ旅行社がきょうのカラオケ予選大会に向けて企画したスペシャルツアーだ。パパのアイディアだぞ」と特別席を準備。

マリ「セコいツアー。大丈夫かな」

 

 伸介はヒロコに赤い靴を渡す。家はいかにもお金持ちという立派な邸宅で、素のヒロコもおしゃれ。

ヒロコ「へえ、カミタマンが」

伸介「うん、すっかりきみのこと、不幸少女と信じちゃってさ」

ヒロコ「それは悪いことしちゃったわね。でもこの靴はけないわ」

伸介「どうして」

ヒロコ「これじゃあ、私の舞台イメージに合わないもの」

伸介「それじゃカミタマンが」

ヒロコ「悪いけど帰って。サチコになりきるには時間がかかるのよ」

 ヒロコは家に入ってしまう。

 

 カミタマンは公園で寝込み、横山がうちわで扇ぐ。怒った伸介が「カミタマン! あんな奴ほっとけ」と走ってくる。「靴が、靴…」と繰り返すカミタマン

伸介「横山、非常事態だ」

横山「え?」

 伸介は横山を突き飛ばし、横山はゴミ箱に頭から突っ込む。その隙に伸介は「カモンカカモカ」と自分に呪文をかけてネモトマンに変身。

 

 道を歩くヒロコの前に「来たなヒロコくん」とネモトマン(岩瀬威司)が。

ヒロコ「私はサチコよ。あんた誰?」

 ネモトマンが名乗るとヒロコは「スーパーヒーロー?」と胡乱な目で見る。靴を取り出すネモトマン。

ヒロコ「あ、それは」

ネモトマン「この靴をはいて、きょうの舞台に立ちたまえ。そうすれば、きみはきっとサチコになりきれる」

ヒロコ「まさか、そんな靴で。さっきもそんなこと言いに来たバカな子がいたわ」

 ヒロコは行こうとする。

ネモトマン「それじゃ訊くが♪赤い靴はいてた 女の子はどこ行ったか知ってるか」

ヒロコ「♪異人さんにつれられて行っちゃった、に決まってるじゃない?」

ネモトマン「その通り。この赤い靴をはいて舞台に立てば、外人のマネージャーがスカウトに来てきみを外国につれて行くんだ」

 じっと見るヒロコ。

ネモトマン「きみは世界的な演歌の星になりたくないのか。見たまえ、この靴はきみを応援するファンの気持ちがいっぱいになって、こんなに破けているんだ。ファンを大切にしない奴はスターになれないぞ!」

 ヒロコは靴を受け取る。ネモトマンは「行くぞ」と飛び去る。

 

 夜になって、カラオケキャラバンの予選大会が行われていた。特別席にいるのは根本ファミリーだけで、パパは飲む。

カミタマン「ほんとに靴とどけてくれたのか、伸介?」

伸介「ああ、だけど」

カミタマン「だけど、どうしたの?」

 司会(木村修)に「可憐な少女がせつせつと唄います。「サチコの夢は夜ひらく」、どうぞ」と紹介されてサチコになりきったヒロコが登場。あの赤い靴をはいている。

カミタマン「あ、はいてるー!」

伸介「うん、うん」

 唄の合間に語る。

ヒロコ「サチコはいまとっても幸せです。そして、この舞台に立つために一生懸命サチコをはげましてくれたファンの方に、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとう、ありがとうカミタマン。私の大切な神さま」

 カミタマンは「サチコちゃん」とまた泣く。あきれ顔の伸介。酔っぱらったパパは「がんばれ、サヤカちゃん!」。

ママ「あの子はヒロコよ。それにこれは唄、お芝居なの」

 パパは「芝居だって、悲しけりゃいいじゃないか」と興奮。

横山「しかし彼女も、あれだけなりきると立派ですね」 

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 後日、ショッピングモールでスケボーに乗るカミタマンと「早く来いよ、おせえなあ!」とはしゃぐ伸介。走ってくる子どもたちに押された伸介は、ふと人だかりのほうを見て「あ!」と驚く。

 アイドルのヒロコが、小泉今日子「魔女」を唄っていた。伸介はたまたまいた横山に声をかける。

横山「演歌の星はもう飽きちゃったんだって。これからはかわい子ちゃんタレントで海外遠征目指すそうですよ」

 横山は行ってしまう。

伸介「赤い靴がきつすぎちゃったか」

 明るく唄うヒロコ。スケボーに乗ったカミタマンが「何だ何だ」と来る。

伸介「子どもの見るもんじゃない」

 だがてこの原理で吹っ飛んでしまったカミタマンはステージへ。ヒロコを見て驚くカミタマン

カミタマン「演歌のサチコがキョンキョン?」

 「なかなかいい乗りだ」とカミタマンは踊り出す。 

【感想】

 第5話以来の寺田憲史先生の脚本で、不思議コメディーシリーズ最後の登板となった。『どきんちょ!ネムリン』(1984)の終盤に参加し、本作『カミタマン』でも初期の3本を手がけているが、メインの浦沢義雄脚本と異なるウェルメイドぶりに逆に異物感を覚えてしまう。

 スカウトキャラバンが町にやって来るという設定は『ネムリン』の第28話「決定!? 街の大スター」と同様で、カミタマンがさまざまなバイトに挑戦するのはやはり『ネムリン』の第30話「アイドル故郷へ帰る?!」を彷彿とさせる(「とらばーゆ」でさがすのも同じ)。いささか焼き直しの感は免れないけれども、普段は突っ込み役の多いカミタマンが主体になるのは本作としては異色でゲストの女の子の人物像も面白く、エピソード総体の満足度は高い。 今回が最後となった経緯は詳らかではないが、不コメにおける寺田脚本の集大成の趣がある。

 『ペットントン』(1983)では第9話のようにペットントン主体の片想い話もあったけれども、『ネムリン』の浦沢脚本では主人公のネムリンが傍観者のような突っ込み役に回ることが多く、寺田脚本でネムリンがトラブルを引き起こしたりバイトしたりするのが新鮮に映った。『カミタマン』でもカミタマン以外のレギュラー陣の奇態が目立っていただけに、カミタマンが女の子に夢中になるという設定は過去になく、寺田脚本ならではと言えよう。いつになく真人間の横山など、レギュラー陣にしっかり出番を振るのも手堅い。佐伯孚治監督の正攻法トーンも、本話に適している。

 今回と同じ佐伯演出による『うたう!大龍宮城』(1992)の第9話「サメ」ではスターをめざすしたたかな女の子にだまされる筋立て(こちらは浦沢脚本)で、かなりパセティックだったが、今回は悪意があるのかないのか不分明な天然なりきりタイプ、というのが独特で面白い。

 スターの定義としては、浦沢脚本でやはり同じ佐伯演出の『大龍宮城』の第27話「マンボウ」では、

「歌えない、踊れない、演技力がない。それだからこそスターなんです。歌えない、踊れない、演技力がない。それでも輝いている」

「その「輝いている」っていうことがよくわからないの」

「ふふっ、よくわからないのがスターなんです」

などと語られていたけれども、今回のネモトマンの「ファンを大切にしない奴はスターになれないぞ!」という台詞は寺田脚本らしく真っ当すぎていい意味で驚いてしまう。 

 サチコ=ヒロコ役の岡崎由喜枝氏は、サチコの不幸そうな雰囲気と素のヒロコの高慢な態度、終盤のアイドルぶりをそれぞれに異なったトーンで演じ分けていて感嘆させられる。今回の成否は岡崎氏の演技力にかかっていただろうが、期待に見事に応えていると言えよう。本作の直前に、出番はわずかだがテレビ『たけしくん、ハイ!』(1985)に登場したほか『おんな風林火山』(1986)、『愛伝説』(1987)、『魔夏少女』(1987)、『機動刑事ジバン』(1990)などに出演されている。

 医師役の三輝祐子(三輝みきこ)氏は第20話にも別の役で出演。不コメでは『じゃあまん探偵団魔隣組』(1988)に顔を見せている。代表作は『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)の小田切長官役であろう。

 パパ役の石井喧一氏は、キャラバンのシーンでサチコでなくサヤカと、おそらくは誤って言っている。