『勝手に!カミタマン』研究

『勝手に!カミタマン』(1985〜86)を敬愛するブログです。

第30話「タクアンの西海岸物語」(1985年11月3日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

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【ストーリー】

 カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)はテニスコートのそばで、久々にインチキ神社を開業。神官役はモスガ(声:矢尾一樹 スーツアクター:高木政人)が務める。女性たち(本田景子、染谷早苗)が祈っていた。

女性たち「どうか神さま、テニスが上手になりますように」

カミタマン「みんなまとめて面倒見ましょう」

 厭らしく笑うカミタマン。その後、テニスコートではモスガがボールを発射し、女性たちがテニスを練習する。カミタマンは「もうちょっと腰を入れるのよ」とアドバイスしながら「あらら、見えちゃったわよ」「ステキなあんよ」と喜ぶ。

カミタマン「このモスガオートテニスマシンで、ナブラチロワになろう」

 カミタマンは「かわゆいかわゆい」と興奮し「上手になった暁には」と妄想。

 妄想の中でカミタマンは、女性たちに「カミタマン、ありがとう」「カミタマン、好きよ」などとキスされる。だが、その次に珍々亭のおかみ(柴田理恵)も「カミタマン」とキスを迫ってくる。

 「怖いよ」とわれに返るカミタマン

珍々亭「タクアン、タクアン」

カミタマン「こら、珍々亭。おれは神さまだ。タクアンじゃねえよ」

 珍々亭はカミタマンを放り捨て、タクアンをさがしつづける。テニスコートではモスガが女性たちに囲まれていた。どさくさにまぎれて女性の太ももにキスしたり、おしりに触ったりするモスガ。

カミタマン「あ、ずるーい」

 

 公園に来たカミタマン

カミタマン「モスガの奴、若い女の子見るとすぐその気になりやがって。だいたい珍々亭があんなところにタクアンさがしに来るから。テニスコートにどうしてタクアンが」

 驚くカミタマン

カミタマン「あっ、しぇー、どひゃー」

 

 カミタマンは、店から珍々亭を連れ出す。

 公園に来た珍々亭は、驚いてカミタマンを落っことす。

珍々亭「ひえー、どひゃー」

 公園の池ではタクアンがサングラスをかけて、サーフィンをしていた。

 

 店で珍々亭がタクアン(声:神田和佳)に説教する。

珍々亭「いったい何さまだと思ってんだい? タクアンの分際でウィンドサーフィンなんかしやがって」

 タクアンはうつむいて、こけてしまう。

 

 食卓でカミタマンから話を聞いたパパ(石井喧一)とママ(大橋惠里子)、伸介(岩瀬威司)、マリ(林美穂)。

伸介「信じてくれっていうほうが」

カミタマン「ほんとなんだってば!」

パパ「ママ、このお茶おいしいね」

ママ「そう? いただきものなのよ」

マリ「お兄ちゃん、おせんべいとって」

伸介「マリ、お前どうしてのりせんべいが好きなの?」

マリ「しょうがないじゃん、好きなんだから。ちょうだい!」

カミタマン「もう!誰も信用してくれないんだから」

 珍々亭が「カミタマン!」と駆け込んでくる。

珍々亭「逃げちゃったのよ」

カミタマン「え?」

珍々亭「タクアンの奴」

カミタマン「また?」

 珍々亭は「どうも」と挨拶。カミタマンは「タクアンつかまえて、みんなを信じさせてやるぞ」と決意。

 

 カミタマンは虫取り網を持って「タクアーン」と道をゆく。見るとクレープ屋の車の周りをタクワンが飛び、クレープ屋が「うちはクレープ屋なんだから、タクアンなんかいらないの」と断っていた。タクアンは「お願いしますよ、ねえ」と追いすがる。

クレープ屋「その根性は認めるけど、ダメったらダメ」

 放り投げられるタクアン。

カミタマン「お前クレープになりたいなんて、いったい何考えてんだよ」

 タクアンは「ふん」とそっぽを向いて「タクアーン」と行ってしまう。追いかけるカミタマン。タクアンは茂みに入って「べー」。カミタマンは一度網に入れるが逃げられる。追うカミタマンは、公園のゴミかごにはまってしまう。

 

 「タクアーン、タクアーン」と言いながら気ままに飛び跳ねるタクアンは、突き当たりに来る。追いつめるカミタマン

タクアン「タタ、タ・ク・ア・ン…」

カミタマン「さあ、タクアンちゃん。なーんにもしないから大人しーく、カミタマンのおじちゃんといっしょに行こうねえ」

 タクアンはおびえる。

カミタマン「さあ、だいじょぶだいじょぶ。こわくなーい」

 だがふと見るとおしんこたち(声:山口晃西尾徳、山崎猛、太地琴恵)が宙に、窓に、庇に現れて、カミタマンを包囲していた。

おしんこたち「おしんこおしんこおしんこ!」

 圧倒されるカミタマン 

 

 カミタマンが公園に逃げてくると、おしんこたちがアスレチックにぶら下がっていた。

おしんこたち「おしんこおしんこおしんこ!」

 

 「水、水、水」とカミタマン自動販売機へ。お金を入れると、取り出し口からおしんこが飛び出してくる。

カミタマン「うわああああ」 

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 カミタマンは「わっせわっせ」と先ほどの突き当たりへ。

カミタマン「行き止まりだあ」

 追いつめるおしんこたち。

おしんこたち「おしんこおしんこおしんこ!」

 おしんこたちの大合唱が響き渡る。

おしんこたち「おしんこおしんこおしんこ!」

タクアン「おやめ!」

 タクアンが登場すると、今度は「タクアン! タクアン! タクアン!」と合唱するおしんこたち。

タクアン「カミタマン、驚いた?」

カミタマン「あ、あ…いや」

タクアン「そう、私はお漬け物、おしんこ界の超スーパーアイドルなの」

カミタマン「何故、タクアンが?」

タクアン「お漬け物、おしんこ界で私くらいでしょ。おしんこ巻きとして、あのお寿司になれるのは」

カミタマン「なーるほど」

 またタクアンコールが湧き起こる。耳をふさぐカミタマンおしんこたちは感動の余り、ぴゅっぴゅっと涙を吹き出して泣く。

カミタマン「おれも泣きたいよ」

 カミタマンは「もうダメ」と嘆息。

 

 橋の上にいるカミタマンとタクアン。

タクアン「カミタマン、タクアンの涙って知ってる?」

カミタマン「ううん」

タクアン「ほら、天丼とか玉子丼の横にちょこんとタクアンがひと切れくらい乗っかってるでしょ」

カミタマン「うん」

 

 天丼の映像。

タクアンの声「あのタクアンを外してごらんなさい。するとそこにはほら、黄色いタクアンの跡がついているでしょう? そう、それがタクアンの涙なの」

 

 切々と語るタクアン。

タクアン「せいぜい出世しておしんこ巻きくらいにしかなれない、哀しいタクアンの涙なの」

カミタマン「し、知らなかった。あの黄色いタクアンの跡が哀しいタクアンの涙の跡だなんて」

タクアン「だからあの黄色いところを食べると、ちょっぴりしょっぱいでしょ」

カミタマン「うーん、言われてみればそんな気がしないでも…」

タクアン「厭、こんな人生厭。せいぜい出世しておしんこ巻きなんて人生厭」

カミタマン「そんなこと言ったって、かんぴょうのようにのり巻きだけで満足してる奴もいるんだから」

タクアン「ああ、あたしアメリカ西海岸に生まれたかったー」

 驚くカミタマン

タクアン「アメリカ西海岸。そうすれば私はいまごろ、サンフランシスコあたりでタクアンクレープに」

カミタマン「え、タクアンクレープ!?」

 

 タクアンクレープがつくられる映像。サングラスの外国人が笑ってタクアンクレープを差し出す。

 

タクアン「いけない? タクアンがクレープになっちゃいけないの?」

 カミタマンは言葉に窮する。

タクアン「あなた、あたしがおしんこだからってバカに」

カミタマン「偏見だよ」

タクアン「そう、そうね。厭だあたしって、いつからこんな性格に。やっぱりあの漬け物石に押されると」

 

 路地裏の漬け物石がインサート。

 

カミタマン「性格が変わるのかしら」

 タクアンは嘆く。

タクアン「あたし、大根のままでいたかった。カムバック、あたしの青春」

 

 大根がインサート。

 

タクアン「カムバック、あたしの大根時代」

 カミタマンは「なんか、いたたまれない気分」とそっと逃げ出す。涙を流すタクアン。

 

 「いくら何でも、タクアンが西海岸にあこがれちゃなあ」と空き地に歩いてくるカミタマン。そこへ「どうしていけないんだ」と声が。資材の向こうに、またおしんこたちが出現。

おしんこ「タクアンはおれたちの星なんだ」

おしんこカミタマン、タクアンの夢を何とか」

おしんこ「タクアンはおしんこ界の希望なんです」

おしんこ「あたしたちの命です」

 おしんこたちはまた「おしんこおしんこ!」と合唱して、涙を噴き出す。

 

 食卓で呆れ顔のパパとママ、伸介、マリ。

カミタマン「あのおしんこたちの美しい涙を見たら、なんかこう、胸がぎゅーんと熱くなってきて」

 熱弁を振るうカミタマン

カミタマン「みんなに見せたかったなあ。あのおしんこたちのぬかみそくさい、美しい涙。ああ…」

パパ・ママ・伸介・マリ「ふん。見たくない、見たくない」

 

 公園でカミタマンから話を聞いた珍々亭は、タクアンの気持ちが判るという。

珍々亭「カミタマン、あたしたちの手でタクアンの夢を叶えてあげましょう」

カミタマン「ああ。でも、どうやって?」

珍々亭「あたしの妹がケーキ屋をやってるの。あそこへ行けばタクアンの夢も」

 

 まだ橋の上にいるタクアン。

タクアン「いくらおしゃれしたって、タクアンはタクアンね」

 バンドがずり落ちてしまう。

タクアン「すべて終わったのね。つめたそう」

 そこへ「タクアーン」とカミタマンが。

タクアン「これでもあたしはおしんこ・お漬け物界の超スーパーアイドル。ひとりで死んだんじゃスキャンダルにならないわ。ここはカミタマンもいっしょに」

 何も知らないカミタマンが寄ってくる。

タクアン「死んで。あたしと死んで」

 慌てるカミタマンは「珍々亭の紹介でタクアンの夢が叶うんだってば」。驚くタクアン。弾みでカミタマンだけが川に転落。タクアンは橋の上で「渚のハイカラ人魚」を唄い出す。川でごぼごぼともがくカミタマン 

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 ケーキ屋には、珍々亭によく似た妹(柴田理恵)がいた。

珍々亭の妹「話はぜーんぶ姉さんから聞いてるわよ」

カミタマン「何とぞ、未熟なタクアンですので」

タクアン「よろしくお願いします」

珍々亭の妹「ま、何とかなるでしょ、ね?」

 

 居間で経緯を語るカミタマン

マリ「ちょっと待ってよ。まさかそのケーキ屋さんでタクアン入りシュークリームやタクアンのショートケーキが」

カミタマン「その通り」

マリ「気持ち悪い」

ママ「あたしも」

パパ「背中かゆくなってきた」

 パパ・ママ・伸介・マリは4人で背中をかく。

カミタマン「どいつもこいつも、最近の人間というものは感動というものが判っちゃいない」

 

 空き地で珍々亭の妹と話すカミタマン

珍々亭の妹「どうしてもクリームやスポンジケーキと折り合いが悪くてねえ」

 タクアンは出て行ってしまったという。

 

 ショーウィンドウを見つめるタクアン。

タクアン「タクアンパフェ、タクアンフラッペ、トロピカルタクアン」

 パフェやフラッペにタクアンが載っているイメージ。

タクアン「すべては夢だったのね。そう、あたしは漬け物、おしんこ。ケーキやシュークリームになろうとしたあたしがバカだったのよ」

 カミタマンが「おーいタクアーン」と駆けてくる。

タクアン「カミタマン、あたしを食べて。お願い、あたしを食べて」

 タクアンはカミタマンに抱きつく。

タクアン「すべては終わったの。さあ、カミタマン食べて」

 タクアンはカミタマンに当たる。

タクアン「あんただって心の中じゃ笑ってたんじゃないの。そうよ、お笑いよ。アメリカ西海岸にあこがれるタクアンなんて」

 カミタマンは「バッキャロー」とタクアンを平手打ち。

タクアン「何すんのよ!」

カミタマン「お前なんか、お前なんか、食べてやる」

 迫ってくるカミタマン。するとおしんこたちがまた来る。

おしんこたち「タクアンを食べるなら、おれたちを食べろ」

 カミタマンは「お前たち」と驚く。泣き伏すタクアン。

カミタマン「タクアン、友だちを大切にしろよ」

 歩み去っていくカミタマン

タクアン「カミタマン、あたしもう一度やってみる。アメリカ西海岸の夢、もう一度アタックしてみるわ!」

 

 居間で気まずそうなカミタマン

マリ「私たち忙しいんだから。もうちょっとましな話」

伸介「ああ、無駄な時間をつぶしてしまった」

ママ「カミタマン、あなたの責任よ」

 マリは「てめえ、許さねえ」とヨーヨーで攻撃。カミタマンはみなにものをぶつけられる。

 

 西海岸が描かれた絵をバックに踊るタクアン。それは珍々亭の店の前である。珍々亭も出てきて、いっしょに踊るのだった。 

タクアンの西海岸物語

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  • 発売日: 2020/01/01
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【感想】

 本作3回目の無生物路線は、スイーツ志望で情緒不安定なタクアンとおしんこたちが登場する超大作。麺類が活躍する19話、扇風機が躍動する25話を経て、無生物3部作の掉尾を飾る本話は夢に向かって苦闘するおしんこが描かれる。3本とも無生物なりに生き方に悩むさまが描かれているが、不思議コメディーシリーズの前作『どきんちょ!ネムリン』(1984)では既にバス停の自殺未遂やタコ焼きの彷徨ドラマがあった。今回はクライマックスで仲間たちが止めに入るのも19話を彷彿とさせ、その意味では新味がないとも言えるのだけれども、タクアンがやや気難しい性格なのに加えて、おしんこの群舞は悪夢的で、本作『カミタマン』の集大成たる貫禄を示している。 

燃えろ!タコ焼きの青春

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 アメリカ西海岸と言えばいまはシリコンバレーだが、この当時はサンフランシスコやロサンゼルスの華やかな観光地であろうか。『ネムリン』第16話での肉まんとアイスとの戦争は東西冷戦がどこかでモデルになっているのでは、と想像できるけれども、今回の日本的な漬け物がアメリカの行楽地にあこがれるという構図はバブル直前の日本の白人文化への強い憧憬を反映しているようにも感じられる。

 第19話でも人間関係ならぬ無生物関係の難しさが出てきたが、今回は無生物同士の折り合いが悪くて職場でうまくいかないというしゃれにならない展開で唸らされた。無生物の愛憎は、やがて『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)の第12話「レイモンドとチャーハン」や『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第21話「いじけたジューサー」などでさらなる高みに到達する。 

 このタクアンねたは浦沢義雄先生としては思い入れがあったのか、1990年ごろに大和屋竺監督の予定で準備された未映像化脚本「朝日のようにさわやかに」にも、西海岸にあこがれるタクアンが登場する。

レイモンドとチャーハン

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 カミタマンおしんこに包囲される路地の突き当たりはセットで、今回のために建てられたとおぼしい。おしんこの集結がロケでは難しいゆえの措置かと思われるけれども、後半では屋外の空き地や街路にもおしんこが集まっていて、ロケでもできるのかと驚かされた(ただしセットでのシーンのほうが、おしんこの頭数がやはり多い)。

 タクアンは当然吊っているのだろうが動きが巧みで、中盤でタクアンが橋の上で浮かれてカミタマンが下の川でおぼれそうになっているのを同じ画面に収めたワンカットは、操演も困難だったはずで、どうやって撮ったのかと感嘆。

 マリが『スケバン刑事』(1985)の真似?をしてみせるのは、林美穂氏が『スケバン』にも平行して出演していたのに加えて、坂本太郎監督も参加していたゆえであろう。

 ラストでタクアンと珍々亭が店の前で踊るというのは苦し紛れの処理かもしれないけれども、古巣にいていまだ夢は叶っていないが前向きに頑張っているという意味だともとれる。

 

 カミタマンの女性に興奮する厭らしい声も、タクワンやおしんこたちに振り回されるさまも、それぞれ巧みにやってのける田中真弓氏の名演には唸る。

 柴田理恵氏は珍々亭のおかみ役としては2度目の登場で、今回はキス顔も披露し、妹役も担当。

 タクアンの声の神田和佳氏はテレビ『重戦機エルガイム』(1984)や『おにいさまへ…』(1991)などで知られるが、特撮ドラマ出演は珍しい。

 おしんこの声は山口晃西尾徳、山崎猛、太地琴恵の各氏。山口氏は第19話には警官役で出演していた。 

 冒頭のロケ地の新宿ナイアガラの滝は『ペットントンスペシャル』(1984)、『ネムリン』の第25話、『じゃあまん探偵団魔隣組』(1988)の第7話などにも使われている。

いじけたジューサー

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