
【ストーリー】
つめたい風が落ち葉を舞い上げる野原で、佃煮博士(及川ヒロオ)は網を持って「モスガー」とモスガをさがしていた。そして空腹で倒れる。
佃煮博士「肉じゃが、肉野菜炒め、肉まーん」
カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)が公園で肉まんを食べようとすると、網を頭からかぶった佃煮博士がふらふら来る。
佃煮博士「モスガどこ?」
カミタマン「ざーんねんでした。モスガ、寒いの厭だって渡り鳥と南のほうに行っちゃった」
佃煮博士は「モスガが南のほうに行っちゃったいま、私はどうやって生きていけばいいんだ」と嘆く。
カミタマン「まあ、適当に生きればいいんじゃないの」
佃煮博士「それができれば。モスガを佃煮化することだけに人生の目標を置いてきた私だ」
カミタマン「うーん。考えてみれば佃煮、お前って奴は愛する奥さんを台所のゴキブリに取られ」
佃煮博士「ああ、また思い出しちゃった」
踊る妻(本多知恵子)とゴキブリ(奈良光一)。
カミタマン「おまけに奥さんが残していった借金のため、聖子のサラ金苦に苦しめられ」
肉まんを頬張る佃煮博士。
とらばる聖子(小出綾女)が「やれ!」と鞭を打ち、サラ金苦の怪人たち(高木政人、藤山健剛、笹本和良)が佃煮博士を襲う。
佃煮博士「やらないでー」
カミタマンは拡声器で呼びかける。
カミタマン「みなさん、佃煮博士に同情しましょう!」
「やめろ!大体、人の不幸をギャグにするなっての」と佃煮博士はカミタマンを押さえつけ、噛みつかれる。
佃煮博士「あいたいたいたいた。カミタマン、お前本当に神さまなの? おれ訴えちゃうよ」
カミタマン「そんなこと言わないで、佃煮ちゃん。サラ金苦から逃れる方法、教えてあげっから」
苦々しい顔の佃煮博士。
カミタマン「あれっ、疑ってんな」
佃煮博士「そりゃ疑うだろ」
カミタマン「だから悪かったって」
佃煮博士「じゃ本当に?」
「おせーて」と迫る佃煮博士。カミタマンは「拝みなされ」と言い出す。佃煮博士はなけなしの小銭をお賽銭として出すが、カミタマンが目を閉じた隙に100円玉を自分のポケットに戻す。
佃煮博士「聖子のサラ金苦から逃れる方法を教えてください」
カミタマン「んんんん、その答えは聖子と結婚することでーす」
驚く佃煮博士。
根本家でお茶を飲んでいるパパ(石井愃一)とママ(大橋恵里子)、伸介(岩瀬威司)、マリ(林美穂)。
パパ「カミタマン、そりゃないんじゃないの」
ママ「そうよ、いくら佃煮博士が悪い奴だからといって」
マリ「神さまの答えにしてはちょっとイージーじゃない?」
伸介「いい加減っぽいんだよ」
カミタマン「そうかなあ」
伸介「最近、神さまとしての力失ってきたんじゃないの?」
「そりゃないよ」とカミタマンは気色ばむ。
道で佃煮博士は「とらばる聖子と?」と困惑。
佃煮博士「おれ、面食いなんだよなあ。しかし女房に逃げられたことだし、炊事、洗濯、掃除。それにアレとアレ。やけど、顔がちょっと腫れぼったいんだよなあ。ま、いいか」
網を放り出して軽く踊りながら歩む佃煮博士。
庭に建立した神社に収まっているカミタマン。
カミタマン「大丈夫大丈夫。まだまだ神さまでやってける顔してる…よな?」
とらばる聖子はトランポリンで、サラ金苦3名を鍛えていた。
聖子「もっと高く飛んで!」
「ジャンプジャンプ」などと言っていると「聖子さん。とらばる聖子さん」との声が。振り向いた聖子は驚愕。
モーニング姿の佃煮博士が花束を持って現れる。佃煮博士は「私です。つくだーにです」とトランポリンに乗って跳ぶ。
聖子「何よあんた。七五三みたいなかっこしちゃって」
佃煮博士「せ、聖子さん。ぼ、ぼくとけ、結婚してください」
佃煮博士はジャンプしながら花束を渡す。
聖子「結婚?」
佃煮博士「そうそう」
聖子「私と?」
佃煮博士「ウィウィ」
聖子は「佃煮博士!」と花束で打ち据える。
カミタマンはテーブルで鏡に向かって「カミタマンは神さまだよ、な? 鏡よ鏡よ鏡さん。どうかそうだと言ってちょうだいな」などと問いかけていた。そこへ「呼んだけ?」と佃煮博士が。
佃煮博士「見やがれ」
佃煮博士のモーニングはぼろぼろ。
佃煮博士「き、き、貴様のおかげでこんなになっちゃった。へっくしょん」
とらばる聖子は「どうして私があんたと結婚しなくちゃいけないのよ」と、サラ金苦たちに佃煮博士を押さえさせて、鞭打ちにする。
報復として佃煮博士はカミタマンを鞭で打つ。
カミタマン「痛いよ」
佃煮博士は「痛いってのはこういう」と執拗に攻撃。カミタマンがよけると、その拍子に鞭が佃煮博士の首に絡まる。カミタマンは鞭を引っ張って「どうしたどうした」と佃煮博士と締め上げる。食卓で争う両者を、階段から無言で見ている伸介。
やがて氷嚢をつけてダウンしている佃煮博士。伸介はカミタマンをじろりと見る。
カミタマン「やっぱりいい加減っぽかったかな。聖子と結婚させちゃうなんて。どう思う、伸介?」
伸介「お前ちょっといい気になりすぎてんじゃないか」
カミタマン「えっ」
伸介「いくら相手が佃煮博士だからって神さまがあんないい加減な返事しちゃ」
カミタマン「ど、どこがいい加減だよ」
伸介「自分の胸に聞いてみろ」
カミタマンは木槌で聴診器を出し、「お前こそカミタマンの胸の中の心の声を聞いてみろ。そうすればカミタマンがいい加減かどうか」と求める。
カミタマン「どうだ、判ったろう?」
伸介は「聞いてみろ」とカミタマンにも聞かせる。聴診器は「いい加減、いい加減」。
伸介「見損なったよ!」
伸介は行ってしまう。佃煮博士は「がばっ」と言って起きる。
佃煮博士「聞いたぞ聞いたぞ。よくもいい加減な根性で神さまやってたな。許せん、いや許さーん」
佃煮博士は「伸介はもう戻って来ない。伸介はお前を見離した」とカミタマンの首を締め上げる。
カミタマン「伸介はダメでも、カミタマンにはネモトマンという…」
カミタマンは呪文をかける。
外を走っている伸介がネモトマンに変身。
ネモトマンはカミタマンと佃煮博士の前に現れる。ネモトマンは「えい!」とカミタマンにパンチ。カミタマンは「そんなー」とのびた。微笑むネモトマンと伸介。
落ち込んだカミタマンは公園で池やアスレチックの子どもたちを眺める。マリが「カミタマン」と来る。
マリ「話はお兄ちゃんから聞いたわ」
振り向かないカミタマン。
マリ「元気出しなさい」
カミタマン「出したくても」
マリ「いくじなし」
カミタマン「うん」
マリ「いい加減」
カミタマン「うん」
マリ「ペテン師」
カミタマン「うん」
マリ「でまかせ」
カミタマン「うん」
マリ「カミタマン、じゃあ認めるのね」
カミタマン「え」
マリ「カミタマンが三流だってこと」
カミタマンは「一流じゃないことは確かだし、二流と言えるほど力もないし」と自嘲。
マリ「そう、三流よ。いい加減な出まかせばっかり言って」
マリ「そうだから私の仲間になれたんじゃないの。一流や二流の神さまは、尊敬はされるけど、私たちと遊んでくれないわ。三流の神さまは私たちと遊んでくれるのよ」
カミタマンはマリ!と振り向く。

マリ「意味はいい加減でも、これだけ熱っぽく言えば感動するでしょ」
カミタマン「まあ」
マリ「じゃ三流神さまのやることは?」
札束をうっとり数えている聖子のところへ、また佃煮博士が現れる。サラ金苦たちは休憩中。
聖子「お金できたの?」
佃煮博士は「さあ、どうにでもしろ」と迫る。
聖子「何よ、その態度。サラ金苦、出動」
サラ金苦たちは佃煮博士に襲いかかり、痛めつける。「待て!」カミタマンが来て、サラ金苦を攻撃。
聖子「どうしてカミタマンが佃煮博士の身代わりに?」
カミタマン「三流神さまの生きる道はこれしかない。みんなの身代わりになって、この世から不幸をなくす、それが三流神さまの生きる道なのです」
見ていた佃煮博士は「何という美しいお言葉。カミタマン、いやカミタマンさま」と感銘。襲われているカミタマンには後光が射す。
佃煮博士「貧しい。あ、いやいやまぶしい」
カミタマン「佃煮よ、サラ金苦のことはこのカミタマンにお任せなされ。汝は借金を返すために働きなされ」
カミタマンの口調は歌舞伎っぽくなっている。
佃煮博士「おお、何というお優しいお言葉。この上はこの佃煮が働いて働いて働いて、カミタマンさまをサラ金苦からお救いいたしますわいな」
同様に歌舞伎口調になった佃煮博士は逃げるように走り去る。
カミタマン「さらばじゃ、さらばじゃ」
根本家の台所でママは「え、アルバイト?」と驚く。佃煮博士が襖に向かって土下座。
ママ「こっちよ」
佃煮博士はママのほうを向いて土下座。
サラ金苦は攻撃の手を止めて、カミタマンを愛おしむようにまとわりついていた。
カミタマン「ああ、われは三流、三流神さまです」
聖子「カミタマンさま。みな、引け」
サラ金苦たちはワンワン言いながら離れる。
聖子「聖子、あなたの優しいハートに打たれました。いままでのご無礼をお許しくださいませ」
とらばる聖子とサラ金苦たちは揃って土下座。
カミタマン「かくなる上は一刻も早く佃煮に代わって働き、借金を返すぞよ」
台所で皿洗いをする佃煮博士。
佃煮博士「早く借金を払って、カミタマンさまをサラ金苦からお救いしなくては」
カミタマンが来る。
カミタマン「もう大丈夫、ここはカミタマンに任せて休んでいられよ」
佃煮博士「ああもったいないお言葉」
カミタマンは洗い始める。伸介がカミタマンを呼ぶ声が聞こえ、代わりに佃煮博士が行く。
伸介が自室で宿題をしていると佃煮博士が入ってくる。
カミタマンが「せっせせっせ」と洗っていると、伸介が。
「佃煮のことなんだけど」
カミタマン「ああ」
伸介「ぼくがカミタマンに宿題頼もうと思ったら、自分がやると言い出して」
伸介の宿題をやる佃煮博士。
佃煮博士「13足す8.5」
指で数えていて手を合わせたら「何だ痛い」と悶え苦しむ。カミタマンが階下から来る。
カミタマン「いけない。神の仕事は神がする。きみは下で休んでいたまえ」
佃煮博士「ああ、はいはい。難しいですよ、これ。13足す8.5」
カミタマン「ああ、いいからいいから。カミタマンに任せなさい」
佃煮博士がふと下を見ると、パパが庭で植木の手入れをしていた。
宿題に苦戦するカミタマン。「じゃあ頼んだよ」とパパの声がする。佃煮博士がパパの代わりに植木の手入れを始めたのだった。
伸介が部屋に戻ると、カミタマンの姿がない。
庭で佃煮博士とカミタマンは「この仕事は私がやります」「いいえ、私が」と仕事を奪い合っていた。そこへマリが帰宅。
マリ「ああ痛い。この歳で四十肩だなんて人には言えないわ」
カミタマン「マリよ、私が揉んでしんぜよう」
カミタマンが揉もうとすると、佃煮博士が「そんなこと私が」とつかみかかる。
パパが煎餅を持って来て「植木の手入れしてくれてたんじゃないのか」。佃煮博士は急にはさみを持ち出して、植木を倒してしまう。
パパ「植木がー」
伸介が2階から顔を出して「何やってんの。せっかくこのケーキあげようと思ったのに」
佃煮博士とカミタマンは、パパを放置してベランダをよじ登る。伸介の部屋で「こういうのは私が」とケーキの奪い合い。カミタマンがケーキまみれになっていると「カミタマン、佃煮博士」とママの声が。

ママ「いったいこの食器、どっちが洗うの?」
カミタマンと佃煮博士は「私がやります」「いいえ、私が」とまた揉める。
カミタマン「神がやります」
佃煮博士「もったいない」
ママだけでなくパパ、伸介、マリも顔を揃える。
マリ「ふたりでやればいいじゃないの」
カミタマン「なるほど」
佃煮博士「最初からそうすれば」
カミタマンと佃煮博士は「いただきます」と皿を食べ始める。
カミタマン「おいしい」
佃煮博士「うまい」
驚くパパとママ、伸介、マリ。
佃煮博士「これ全部食べられるんだから」
伸介「まさか」
伸介は背もたれ、マリは鍋敷き、パパは灰皿、ママは小皿を食べる。一同は「おいしい」とそこらの生活雑貨をどんどん食べるのだった。
【感想】
いつもモスガを狙う佃煮博士だが何と今回はモスガが不在で、博士が怪行動をとった果てに驚愕のラストを迎える奇編である。
モスガは出てこないけれども、モスガのスーツアクターの高木政人氏はサラ金苦役として出番は少ないながらも出演しており、平行して『スケバン刑事』(1985)や『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』(1986)などを抱えていた高木氏のスケジュールが十分に取れないゆえにモスガ欠席という措置をとったのではないかと想像される。これまでもモスガが不自然に姿を見せない回はあったが、今回は避寒で南に行ったとエクスキューズがついている。
モスガ不在の条件下で佃煮博士を活躍させるのは困難だったあろうけれども、まずカミタマンの適当な助言でとらばる聖子に結婚を申し込み、カミタマンが反省し、佃煮博士がカミタマンと仕事を奪い合うという成り行き任せのような変な展開が描かれた。80年代の浦沢義雄脚本の顕著な傾向で構成を決めないで勢いで書いてしまっていて、特に今回はカミタマンと敵対していた佃煮博士が仲良くなるだけである意味で十分なのでその時点で終わるのかと思いきや、唐突にみなで食器や家具を食べ始めるという落ちで、見ている側が呆気に取られているうちに閉幕するのだった。浦沢先生は「本当のいいアイデアって思いつきだと思うんだよね。思いつきとしてどんどん出る。だからそれを押していっちゃえばいいんですよ。組み立てるってことはしたくない。いいアイデアでどんどん押していって。最後はバーンと終わっちゃう。それが最高のパターン」と後年に述懐しているが(「東映ヒーローMAX」Vol.13)、今回は中盤まではゆる目かと思わせて、ラストにみなで食器を食べるという「思いつき」が視聴者に投げつけられて「バーンと終わっちゃう」わけで、ゲーテを超えたような結末でまさに天才作家と驚き呆れるほかはない(ここまで至ると、感激するか引くかの二択であろう)。
佃煮博士は悲惨な身の上(ゴキブリに妻を寝取られて借金まで押しつけられた)だとはいえ悪役だけれども、今回はカミタマンらといっしょに家具を食べ、何となく和解したような印象をもたらした。不思議コメディーシリーズの前作『どきんちょ!ネムリン』(1984)の好敵手・イビキは途中で主人公と共闘した後に再度戦っていたが、佃煮博士はこの後でカミタマンとまた対決したのちに第48話で思わぬ結末を迎えることになるのだった。
中盤では佃煮博士にとらばる聖子との結婚を勧めたことで、カミタマンは根本家の面々に「いい加減」だと糾弾される。万事に杜撰な点はパパやママ、伸介も大概だろうと思ってしまうけれども、「俺自身がホントに恋愛とかそういうのをいい加減に考えている」と浦沢先生がいみじくも述べているように(「東映ヒーローMAX」Vol.14)、今回のカミタマンのこうなったら結婚しちまえという言動は何となく浦沢先生自身の感覚に近いように思われる。また神としての力がなくなっていると言われて、今後もやっていけるかと懸念するのも浦沢先生が作家として不安に駆られていた投影ではあるまいか。非難されたカミタマンが悩むのはいつも突っ込み役のカミタマンにしては珍しいが、マリの「意味はいい加減」でも「熱っぽ」い励ましによって恢復する。
カミタマンは街を走っている伸介を、自宅からリモートでネモトマンに変身させていて型破りである。
突如として歌舞伎ふうになるのは本作では第8話や第14話にあったほか、不コメでは『ペットントン』(1983)の第15話「大発明!ハッパバーガー」、『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第17話「消えた鯉のぼり」などにもあった。
序盤で佃煮博士とカミタマンが語り合うのは新宿の戸山公園。近い時期では『電撃戦隊チェンジマン』(1985)の第43話「スーパーギルーク」などでも使われている。



