『勝手に!カミタマン』研究

『勝手に!カミタマン』(1985〜86)を敬愛するブログです。

第34話「恐怖の神様ハンター」(1985年12月1日放送 脚本:浦沢義雄 監督:佐伯孚治)

【感想】

 根本家の居間でテレビゲームに興じる伸介(岩瀬威司)と横山(末松芳隆)。だが伸介のコントローラーが壊れてしまう。テレビはノイズ画面に。伸介は「ごめん!」と土下座。

横山「このコンピューターゲーム、父さんが残業して」

伸介「だからこうやって」

横山「母さんなんか内職で夜なべしたんだぞ」

伸介「ごめんごめん」

横山「おばあちゃんなんか」

伸介「ごめんなさい!」

横山「体まで」

 「あ?」と顔を上げる伸介。

伸介「あー伸介、この先は言わせないでくれ」

 横山はゲーム機本体で伸介を殴る。

 

 「いて」と伸介は、壊れたゲーム機を前に自室で困り果てる。カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)は「おもちゃの神さまなら、こんなもん簡単に直しちまうよ」と言い出す。

伸介「その人、どこにいんの」

カミタマン「さあ」

伸介「何だ、結局ダメなんじゃないか」

カミタマン「いや、それが大丈夫なの」

 カミタマンによると「うちには神さまさがしの名人がいる」という。

伸介「神さまさがしの名人? 誰それ」

 「いちにさんし」とモスガ(声:矢尾一樹 スーツアクター:高木政人)の声が聞こえる。カミタマンは外を指す。

伸介「モスガ?」

カミタマン「うん」

 庭でモスガが元気に体操している。窓から見るカミタマンと伸介。

カミタマン「そう、モスガこそ神さまさがしの名人と言われたその人である

 名人と言われて嬉しげなモスガ。カミタマンは「おもちゃの神さま、さがして来てくれるかな」と依頼。モスガは「あいよ」と浮かび上がる。

伸介「なんか単純な奴だな」

カミタマン「だろ?」

 

 商店街に降り立ったモスガは「いるいる」「神さまの匂い」とおもちゃ屋に入って行く。

モスガ「どこだどこだ」

 おもちゃの箱を崩すと飴を舐めて幼児のような格好の中年男性が現れる。おもちゃの神さまだった。

 伸介の部屋でおもちゃの神さまは飴を舐めながらゲーム機を修理。

カミタマンコンピューターゲーム直してもらったお礼に、ちゃんとお賽銭あげろよ」

伸介「判った」

 

 夕ごはんの食卓でパパ(石井愃一)やママ(大橋恵里子)、マリ(林美穂)は感心。

ママ「すごい特技持ってんのね、モスガって」

 モスガは「いやいや」と照れ笑い。

マリ「見直そうかな、モスガのこと」

 嬉しさに羽ばたき、ひっくり返るモスガ。伸介とカミタマンは呆れてため息をつく。

 

 翌朝、ママにうるさく言われて学校へ行く伸介とマリ。

伸介「待てよ、いっしょに行こうぜ」

マリ「厭」

伸介「いいだろ」

 

 「♪街はDing-Dong 遠ざかってゆくわ」と唄いながら掃除機をかけるママ。見ると床で花瓶が割れて、木槌が落ちている。

ママ「これはカミタマンの。するとこの花瓶は」

 

 テーブルの上で何故か「喜びの歌」を唄いながら木槌を振り回すカミタマン。勢い余って花瓶を落っことす。「うわあ」とカミタマンは逃亡。

 

 ママは「カミタマン!」と2階へ行くがいない。

ママ「どこ行っちゃったのかしら」

 庭でモスガが「♪真っ赤に燃えた太陽だから」と唄って花に水やりをしている。

ママ「モスガ、早くカミタマンさがして来てちょうだい」

 驚くモスガ。

ママ「何ぐずぐずしてんのよ。早く!」

 

 土管の中をさがすモスガ。

モスガ「カミタマーン」

 土管から「うん? 何だよ」とカミタマンが顔を出す。モスガはママが呼んでると告げるが、カミタマンは「ほっとけほっとけー」。口から糸を吐いてつかまえる。

カミタマン「来い。こっちへ来い!」

 

 テーブルでママはカミタマンを叱責。

ママ「私は何も花瓶が惜しくてこんなこと言ってんじゃないのよ。割ったんなら割りましたとどうして素直に言えないの。黙ってりゃわかんないってその根性が厭なのよ」

 

 部屋でカミタマンはモスガに当たる。

モスガ「頭かまないで!」

 カミタマンはモスガの頭にくらいつき、モスガは「助けて」。

カミタマン「大体お前が一日中ぼけっとうちん中にいるからいけないんだ」

モスガ「ごめんなさい、ごめん」

カミタマン「全くお前には趣味とかそういうものはないのかよ」

モスガ「趣味?」

カミタマン「そう。趣味さえあればお前だって一日中うちにいることも…。ん、そうか。モスガお前、趣味を持て」

モスガ「え?」

カミタマン「持つんだ!」

モスガ「はい、はい」

 

 帰宅してランドセルを置くマリに、モスガは相談。

マリ「趣味?」

モスガ「カミタマンがどうしても持てって」

マリ「そうね。ないよりあったほうがいいわね」

 マリはビスケットをかじる。

モスガ「どうやって持つの?」

マリ「切手を集めるとか」

モスガ「うーん、集める」

マリ「そう、絵を集める人もいるのよ」

 考えるモスガ。

マリ「やっぱり特技を生かしたほうが」

 昨夜、ママに神さまさがしを誉められたのが思い浮かぶ。

 

 「どっかにいないかな」と歩いてくるモスガ。「匂う」「ここだ!」と横断歩道に糸を発射。交通安全の旗をたくさんつけた女性(赤沢衿子)がつかまる。

女性「こらー、何すんだ。私は交通安全の神さまよー」

 

 産婦人科が妊婦で混み合っている。モスガは「ここかな」とさがし、「エッチ」と妊婦に雑誌で叩かれる。またモスガは糸を発射し、赤ちゃん服を着た中年男性がつかまる。

男性「何すんの。あたしは安産の神さまよ」

 

 ガラスが割れた暗い家で初老の男性が酒を飲んでいる。モスガが糸を発射し、痩せた中年男性がつかまる。貧乏神だった。初老の男性は驚く。

 

 カミタマンは罰として食器洗い。

 

 モスガは貧乏神を空き地の小屋に引っ張ってくる。

貧乏神「助けてください」

モスガ「うるさいな、早く」

貧乏神「お願いだから」

 そのさまを横山が見かける。

 

 小屋の中ではカラオケの神さま(大館光信)、受験の神さま(佐藤法義)、天女(斉藤奈保)といった神さまたちが壁に打たれて標本にされていた。トンカチで貧乏神に杭を打つモスガ。

貧乏神「残酷すぎます」

 「モスガの趣味は神さま集めだー」と喜ぶモスガ。横山が小屋を覗く。

 

 部屋で牛乳を飲んでいたカミタマンは驚く。

カミタマン「え、モスガの趣味が神さま集め」

横山「いいの、そういうの?」

 マリが「大変大変、世の中が!」と駆けてくる。

 

 交通安全の神さまがいなくなった横断歩道付近では車やバイクが渋滞して、ドライバー同士がつかみ合いの喧嘩になっていた。

 安産の神さまがいなくなった産婦人科では妊婦たちが一様に「生まれちゃう」「おかしいわ」と苦しんでいた。

 貧乏神がいなくなった家ではお札が降ってきて、初老の男性は「金だ、金だ」と興奮。

 

カミタマン「モスガが神さまを集めちゃったから、世の中がおかしくなっちゃったんだ」

マリ「カミタマン、どうすればいいの?」

 カミタマンは「モスガの奴」と怒って飛んでいく。 

 

 カミタマンは空き地の小屋へ。

カミタマン「こら、モスガ。集めた神さまを世の中へ返せ!」

 モスガが「やだー」と出てくる。

カミタマン「やだじゃない」

モスガ「せっかく持ったモスガの趣味だ」

カミタマン「趣味はいいが、神さまを集めるということは」

モスガ「そういえばカミタマンも神さまだった」

カミタマン「だったとは無礼な」

 モスガはカミタマンに糸を発射。「やめろ」と逃げるカミタマン

 

 公園で遊んでいる伸介。カミタマンが飛んできてぶつかる。

カミタマン「ああ伸介、いいところに。ネモトマンになって助けてくれ」

 だがカミタマンは花瓶を壊したとき、木槌を置いてきてしまっていた。そのことを思い出した刹那、糸が飛んできてカミタマンはつかまる。

カミタマン「伸介。木槌、木槌を空き地の小屋まで!」

 「ああ」と駆けていく伸介。 

 カミタマンも空き地の子やで標本にされた。モスガは嬉しげにはたきをかける。

 

 根本家でジュースを飲んでいるマリと横山。伸介が「木槌木槌!」と来る。

マリ「木槌ならここに」

 壁の状差しに入れてある木槌を取る伸介。

 

 標本にされた神さまたちには怒りが渦巻く。

交通安全の神さま「あんたがモスガに趣味を持てなんて言わなければ」

安産の神さま「そうよ、全くリンチもんよ」

カミタマン「そんな」

貧乏神「そんなじゃない。リンチだ」

天女「そうよ、リンチよ」

 カミタマンは「そりゃないよ」と狼狽。

 

 小屋の前に来た伸介に、モスガが立ちはだかる。

モスガ「待て、神さま以外は入れさせないぞ」

伸介「このバカ。かっこつけやがって」

 だがモスガは伸介を突き飛ばし、伸介は吹っ飛ぶ。

 

 根本家のマリと横山。 

マリ「お兄ちゃんだいじょぶかしら」

横山「さあ!」

 がしゃんという音がして、伸介が「いってー」と庭に墜落。

 

 小屋で「リンチだ」「リンチだ」と気勢を上げる神さまたち。

カミタマン「ねえ、落ち着いてってば!」

 

マリ「じゃあ神さまになって入ればいいじゃない?」

伸介「ええ?」

横山「なるほど。神さまじゃないと入れてくれないんだから、神さまになって入ればいい。いやあ、さすがマリちゃん。インテリだな。やっぱり私立の幼稚園出た子は違うな」

マリ「残念でした。私、区立の保育園でした」

横山「そう、マリちゃん。区立の保育園出だからってくじけちゃいけないよ」

 マリは横山をお盆で殴る。

マリ「誰もくじけちゃいないわよ」

 横山はグロッキー。

 

 古墳時代の服装をした伸介が空き地を闊歩。

伸介「神さまです! 神さまでーす!」

 出てくるモスガ。

伸介「モスガさん、ぼく神さまです」

モスガ「何の?」

伸介「そうかあ…何でしょう?」

モスガ「うーん、怪しい奴」

伸介「怪しくない怪しくない」

 伸介は中へ入ろうとする。モスガは「くんくん」と嗅ぐが「神さまの匂いしない!」。

伸介「そんな匂いあんの?」

 モスガは「お前もしかして伸介」と見破る。すると網戸を突き破ってカミタマンが放り出される。拘束を脱したらしく、神さまたちが飛び出して来てモスガを袋叩きに。伸介は木槌をパス。カミタマンは「さんきゅ」と受け取る。カミタマンはネモトマンに変身させる。

カミタマン「ネモトマン、この際だ。思い切ってみんなやっつけちゃおう」

 カミタマンとネモトマン(岩瀬威司)は神さまたちと戦う。ネモトマンは貧乏神と交通安全の神さまをキスさせる。交通安全の神さまは「貧乏、厭」とダウン。キスできて嬉しげな貧乏神をネモトマンが倒す。そしてネモトマンはモスガを放り投げる。

 ネモトマンは「早く来い」と噴水のある公園へ神さまたちを連行し、縄を一挙にほどく。

ネモトマン「さあ帰って帰って。世の中をもと通りにしましょう」

 神さまは急に素直になって「ありがとう」と消える。ひと仕事終えたネモトマンは「あーあ」と伸びをする。

 

 小屋でモスガは泣いていた。

モスガ「もう、モスガ趣味やだ。モスガ、趣味なくともいい?」

カミタマン「ごめんごめん。モスガ、趣味なんてなくたって立派に生きてる奴はいるんだ。ごめんよ、モスガ」

モスガ「カミタマンさん」

 抱き合って悶えるモスガとカミタマン

 

 居間でトランプをしているマリと横山。

マリ「じゃ神さま帰したのね?」

 帰宅した伸介たち。

伸介「そう、これで世の中ももと通り。平和に」

モスガ「平和平和」

カミタマン「平和平和」

モスガ「ばんざーい」

伸介「ピース」

カミタマン「ピース」

 

 渋滞して喧嘩になっていた道ではドライバーたちが「悪かったんだよ」「いや、こっちのほうが悪かった」「今度さ、一杯やろうよ」などと和解し、車やバイクが動き出す。

 産婦人科では妊婦たちが挨拶を交わして落ち着いていた。

 家では貧乏神が「逃げないでくださいよ」と初老の男性を追い回していた。

男性「せっかく金持ちになったんだから!」

貧乏神「いままで通り仲良くしましょう」

 「貧乏は厭だー」と叫ぶ男性。

 

 さっきの噴水のある公園で伸介、マリ、横山、カミタマン、モスガは「鬼さんこちら」と遊ぶ。転んでしまうモスガだった。

【感想】

 趣味として神さまの採集を始めたモスガが「世の中」を混乱に陥れ、カミタマンとバトルを展開する。第31話では恨みを晴らすべく人間を採集していたモスガだが、今回は神さまの採集にわれを忘れて夢中になり、カミタマンファンクラブの会長を自称していたはずなのに平気でカミタマンを捕らえて標本にしてしまう。第26話でもカミタマンを縛りつけていたが、熱が入ると手段を選ばないモスガの狂気が窺える。ママに怒られたカミタマンはモスガに対して理不尽に八つ当たりし、モスガは採集でトラブルを引き起こし、争った両者はやがて抱き合ってあっさり和解してしまうのだけれども、双方ともにマイナスをやらかして引け目を感じているのであろうから強引な仲直りであっても見ていて許せてしまう。

 不思議コメディーシリーズでは、後期の『美少女仮面ポワトリン』(1990)や『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)などが毎回ゲストの敵役と対決する体裁になっていて、それはそれで面白いのだが、今回のようにレギュラー同士で戦うというのは本作や『どきんちょ!ネムりん』(1984)など80年代の初期・中期作品ならではと言えよう。

 モスガは「一日中ぼけっと」うちにいると言われていて、そのわりに出てこない回もあるので不可解ではある。第36話では寒いので南に行ったと不在の理由が説明されるので、他の回でも遠出していたのかもしれない(欠席は、演じる高木政人氏のスケジュールの都合かと想像される)。

 第9話でも工事現場や田んぼに神さまがそれぞれ潜んでいたけれども(今回と同じ佐伯妥治演出)、今回はそんな神さまたちを採集してしまうというアイディアで、針で刺された昆虫の標本よろしく神さまたちが壁に杭で打たれているのはコミカルな音楽が流れていても壮絶さを感じさせる光景ではある。

 カミタマンがモスガに趣味を持てと勧めたのが今回の騒ぎの発端となったわけだが、『ペットントン 』(1983)の第37話「ガン太は根本のお兄様」でも主人公が「趣味くらい持てよ」と言われていた。脚本の浦沢義雄先生は後年のインタビューで自分は無趣味でつまらない男だと自嘲しておられ(DVD『美少女仮面ポワトリン』Vol.2)、作中で趣味を持てと言われるのはご自身の経験を投影させたということではなかろうか。トークイベントでの回想によると、この時代は特に多忙で平日は帰宅せずに中野の旅館に泊まり込んで執筆していたそうで、仕事人間ぶりに関して反省するところがあったのではと想像される。終盤でのカミタマンの「趣味なんてなくたって立派に生きてる奴はいるんだ」という台詞は開き直りともとれるけれども、ドライな浦沢先生の表に出さない心情を垣間見たような感がある。

 伸介の神さまコスプレは第13話での横山の扮装と酷似していて、同じ衣装かと思われる。

 貧乏神役の名取幸政氏は映画『夢』(1990)や『まあだだよ』(1993)、テレビ『スケバン刑事』(1985)や『電光超人グリッドマン』(1993)の第4話、『仮面ライダーW』(2009)の第43・44話などに出演。『機動戦士Zガンダム』(1985)など声優としての仕事も多数ある。

 交通安全の神さま役の赤沢衿子氏は『変身忍者嵐』(1972)の第25話や『人妻捜査官』(1984)の第15話などに出演。

 カラオケの神さま役の大館光信氏は不コメでは『バッテンロボ丸』(1982)の第30話や派生作品『TVオバケてれもんじゃ』(1985)の第10話に出演。他に『星雲仮面マシンマン』(1984)の第7話、『兄弟拳バイクロッサー』(1985)の第13話、『スケバン刑事』の第6話などに登場した。

 受験の神さまの佐藤法義氏は映画『ミンボーの女』(1992)のほか、不コメでは『てれもんじゃ』の第6話、『もりもりぼっくん』(1986)の第6話、『うたう!大龍宮城』(1992)の第44話、『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第41話と頻繁に出演。

 天女役の斉藤奈保氏は『事件記者チャボ!』(1983)の第3話などに出演している。

 モスガが降り立つ商店街は板橋区成増のすずらん通り。