
【ストーリー】
根本家にて、カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)は牛乳を飲みながら伸介(岩瀬威司)と電話で話していた。
カミタマン「伸介、カミタマンは商店街のあんちゃんじゃないんだ。一応、神さまなんだぞ。その神さまに野球の審判やれなんて」
だがお賽銭がわりにアイスクリームをごちそうすると言われて「しんちゃん。カミタマン、神さまとして審判でも何でも心からやらせてもらいます」とあっさり翻意。カミタマンが「行ってきまーす」と飛んでいくと、ママ(大橋恵里子)とマリ(林美穂)も出かける。パパ(石井愃一)はこたつで寝ている。
グラウンドでカミタマンは「伸介、アイスクリーム」と強調。横山(末松芳隆)が投げたボールを、伸介が空振りする。
カミタマン「ボール」
横山「ええ?」
周囲のみなも「ええ」と困惑。
横山「どうしていまのがボールなんだ? 振ったじゃないか」
カミタマン「おれは審判だ。文句あっか」
不満げな横山。伸介は「たったひとつのアイスクリームのためにそこまで強気になれるんだもんなあ」と呆れる。
佃煮博士(及川ヒロオ)が空き地でテントを張っていた。「♪静かな湖畔の森の影から」と歌いながらどじょう鍋をつくる。
佃煮博士「♪もう起きちゃいかがとかっこうがなく カッコウ カッコウ カッコウ 過去 現在」
テントはビルの谷間の空き地にある。
佃煮博士「この寒いのにキャンプ生活してるのはおれぐらいなもんだよなあ。アパートは家賃を溜めすぎちゃって追い出され、それというのもみんな、カミタマンが私の佃煮計画を邪魔するからだ」
どじょうを食した佃煮博士は美味に呻く。
佃煮博士「どじょうで何とかカミタマンをやっつけられないもんかね」
佃煮博士はグッドアイディア思いつきヘルメットをかぶる。ヘルメットがぽこぽこ動く。
佃煮博士「よし、これでカミタマンをやっつけてやる」
グラウンドでは根本ファイターズと横山フェニックスの攻防がつづいていた。
カミタマン「さあ、1対0。7回の裏ツーアウト」
伸介が投げたボールは打者に当たる。
カミタマン「ストライク!」
横山は「そりゃないだろ」と抗議。
カミタマン「ルールブックはおれだ」
伸介は「おれ、そんなことまでして勝ちたくない」とうんざり顔。
カミタマン「ワーオ、ものすごいスポーツマンシップ! こら横山、少しは見習え」
横山「何ー!」
いら立った伸介は「はい、そこのバッター。いつまで倒れてんの。デッドボールだよ、デッドボール。一塁行ってよ」とせきたてる。打者の少年は痛がりながら立ち上がる。
横山「打ってやる。さよならホームランを打ってやる」
カミタマン「はい、伸介くん。横山させ押さえればゲームセット。おいちいアイスクリーム食べに行きまちょう!」
横山はホームランを打つ。みなは「大逆転だ」と沸く。
カミタマン「あ、あの伸介くん、負けたってアイスクリームは」
伸介の姿がない。
カミタマン「伸介の奴!」
カミタマンは「何も逃げることはないんだよな」と憤慨しながら歩く。そこへ茂みから、どじょうのヘルメットをかぶった佃煮博士が「ぬるぬるべろ」と現れる。
佃煮博士「おれは怪物どじょう鍋だ」
平然としたカミタマン。
佃煮博士「おれはきのうまでの佃煮博士じゃない。カミタマンをやっつけるために復讐の鬼となった怪物どじょう鍋だど、ぬるぬる」
カミタマン「何だか知らないけど、いまのカミタマンはそのばかばかしさが頭に来るんだ! どじょう鍋なら煮て食っちゃうぞ」
佃煮博士「ん、わさび入ってんだぞー」
カミタマンは木槌を振り上げ、佃煮博士のおしりに火をつける。佃煮博士は慌てて、水飲み場の水で火を消す。
カミタマン「ちょっとやりすぎたかな」
カミタマンが「だいじょぶか」と来ると佃煮博士は「カミタマン」と顔を近づける。
佃煮博士「お、お母ちゃん」
佃煮博士「じゃあお父ちゃんか」
カミタマン「お父ちゃんでもなーいの」
佃煮博士「そう。佃煮には父も母もいなかった」
カミタマン「え」
佃煮博士「どじょうしたな」
カミタマン「どじょう?」
佃煮博士「どじょう、いや同情したな」
カミタマン「同情?」
佃煮博士「どじょう」
カミタマンは「どどど同情」と逃げ出す。
こたつに入っているパパとカミタマン。
カミタマン「自分の不幸をああまで自信を持って言われると」
パパ「はあ?」
テントに戻った佃煮博士は「同情を武器にしてカミタマンと戦えば」とひらめいた様子。根本家の面々を自分に同情させてカミタマンを追い出させるべく「同情される研究」に打ち込むのだった。
伸介のことを思い出したカミタマンは「こらパパ。どうして伸介をあんなせこい性格に教育したんだ。責任とれ、とれとれとれとれ」とつかみかかる。パパは「何だよ」と庭へ逃げ出す。
テントで佃煮博士は、どじょうの形状の新兵器を完成させる。
佃煮博士「名づけて同情スプレー。このスプレーから噴出される霧を受ければ、その者は直ちに同情したくなるというものすごーいスプレーだ」
佃煮博士が実験としてその場にいた犬に噴射すると、犬は即座に懐く。通りがかった横山はそれを見ていた。
横山「ったく、くだらないもの発明しやがって」
佃煮博士は塀を乗り越えて根本家に忍び込む。パパは戻ってくると、インスタントラーメンを食べようとする。「鍋は」と流し台の下の戸を開けると、中に隠れていた佃煮博士がすかさずパパに同情スプレーを噴射。
パパ「同情ー」
カミタマンが帰宅すると、パパは佃煮博士にインスタントラーメンを食べさせていた。
パパ「小学校にも行けない家庭に育って、ひとりで勉強して。佃煮博士、知らなかった。あんたがそんなに苦労してるとは」
パパは号泣。
佃煮博士「スープちょうだい」
パパは「はいはい」と飲ませてあげる。「パパ、だまされちゃいけないよ」と室内に入ってくるカミタマン。
佃煮博士「パパ、カミタマンがいじめっ子する。拳骨あげて」
広場でカミタマンは買い物帰りのママとマリに遭遇。
ママ「どうしたの、こんなとこでぼーっとして」
パパは佃煮博士の肩を揉む。
佃煮博士「そりゃもう中学のときなんか、給食費も払えないでなあ」
パパ「苦労しているんだねえ」
そこへ電話がかかり、佃煮博士が出る。
佃煮博士「はい根本です。あんた誰って、佃煮博士ですけども」
公衆電話からマリがかけていた。
マリ「ママ、カミタマンが言った通り、うちに佃煮博士いたわよ」
ママ「ええ?」
パパ「誰から?」
佃煮博士「マリから」
パパ「何の用だろう」
パパはまた佃煮博士の肩を揉み始める。
佃煮博士「思い起こせば40年前」
パパはもう泣き出す。
佃煮博士「それで泣くなよ…」
ママは「どうしてパパが佃煮博士に同情しなくちゃいけないの! うちはこれまであの人のためにどれだけ迷惑かけられたことか」とオーバーに激怒。マリは「うわ」と怖がる。マリに「お兄ちゃんは?」と訊かれたカミタマンは、伸介のことを思い出してさがしに行ってしまう。
マリ「ママ、何でもいいから急いで帰りましょ」
ママ「そうね」
だがふたりの前に佃煮博士がぬっと現れ、ふたりにスプレーを噴射。
ママ・マリ「ああ、同情ー」
ママとマリはひっくり返る。
カミタマンが「どこ行ったんだ伸介め」とさがしていると、伸介はアイスクリームの食べ歩きをしていた。伸介はカミタマンに見つかると「だあ」と逃亡。
喉が渇いたカミタマンが水を飲もうと帰宅すると、根本家ではパパが佃煮博士の耳掃除をして、マリはお茶を淹れていた。
マリ「佃煮さん、ずうっとこのうちにいていいのよ」
佃煮博士「ああ、そうするよ」
ママは「お風呂の用意ができました」とタオルを持って来る。 接待状態を窓から見たカミタマンは「どうして!」と驚く。
カミタマンが「ママやマリまで!」と言いながら公園に来ると、横山に空き缶をぶつけられる。
横山「怒るなって。ついゴミ箱と間違えちゃって」
カミタマン「何だ、カミタマンのどこがゴミ箱に似てるんだ!?」
横山「どうしたの、いつものカミタマンと違うみたい。何かあったの? おれでよかったら相談に乗るよ」
カミタマン「実は」
佃煮博士はパパに背中を流してもらう。
マリは着物を運んでくる。
マリ「ママ。佃煮さまの湯上がり、これでいいかしら」
ママ「いいんじゃない? それからこの部屋、もう少しあったかくして。佃煮さまに風邪ひかせちゃ申しわけないから」
カミタマンは横山から同情スプレーの話を聞いた。
佃煮博士はこたつで食事し、マリにビールを注いでもらう。ママは料理を運び、パパはカラオケセットを持って来る。
パパ「佃煮さま、カラオケの用意ができました」
カミタマンと横山は窓からのぞく。佃煮博士は「セーラー服を脱がさないで」を歌い出す。
カミタマン「佃煮の奴、すっかりその気になっちゃって」
横山「これはえらいことになるぞ」
公園に戻った横山とカミタマン。
横山「あのまま伸介のおじさんおばさん、マリちゃんが佃煮に同情しつづけると同情が愛情に変わり」
佃煮博士にすがりつくパパとママ、マリ。
マリ「佃煮さま」
ママ「私たちもう、佃煮さまなしでは」
パパ「生きていけないのです」
横山「すると居候であるカミタマンは」
カミタマンを追い出そうとするパパとママ、マリ。
マリ「あんたなんか出て行って」
ママ「うちには佃煮さまがいるんですからね」
パパ「全く三流の神さまのくせしやがって」
パパはほうきでカミタマンを殴る。
横山「カミタマン。おれ、お前に同情しちゃうよ」
カミタマンは「やめろ、そんな目でカミタマンを見るのは!」と動揺。
横山「同情の涙」
カミタマン「いい加減にしろ」
横山はティッシュで鼻をかんで、ティッシュをカミタマンにぶつけ、そして何故かどつく。吹っ飛んだカミタマンに後光が差し、何か思いついた様子。
横山「同情だ! 同情だ!」
カミタマンは帰宅。佃煮博士はカラオケで「夕焼け雲」を熱唱していた。
カミタマン「あんにゃろう、調子に乗りやがって」
脱衣場に同情スプレーが残されていた。
カミタマン「これが同情スプレーか」

カミタマンは「わっせ」と佃煮博士のテントへ。同情スプレーの設計図があった。
カミタマン「この同情スプレーの設計図さえあれば、改良してより強力にして」
こたつで佃煮博士はパパとママ、マリに接待させ、「秋田音頭」を歌ってご満悦。そこへ背負い式噴霧器を携えたカミタマンが現れ「いい加減にしろ、佃煮野郎!」と一喝。
カミタマン「人の同情を利用して生きようなんてふてえ野郎だ。神さまであるカミタマンが懲らしめてくれる」
佃煮博士はスプレーをさがすが、ない。
カミタマンは「見ろ、強力同情スプレーの威力を」と思いっきり噴射。パパとマリ、ママは同情スプレーを浴びる。
カミタマン「もっと佃煮に同情するんだ!」
パパとママ、マリは佃煮博士にすがりつき「♪涙くんさよなら」と歌い出して泣く。
カミタマン「同情の涙だ、そしてその次は」
パパとママ、マリは鼻をかんで、ティッシュをぶつける。
カミタマン「そして過激に同情して」
パパとママ、マリは「頑張って」と佃煮博士をどつく。逃げ回る佃煮博士。カミタマンには佃煮博士に対する憐れみの感情が湧いてきた。
カミタマン「これから先、どうやって生きていくんだろうか」
カミタマンは背負っていた強力同情スプレーを置く。

伸介が「カミタマンに悪いことしちゃったな。アイスクリームぐらいごちそうしてやろう」と帰宅。家の中の騒ぎが聞こえてくる。強力同情スプレーを見つけた伸介は「何だこれ」と触って浴びる。
食卓ではテーブルの下へ逃げようとする佃煮博士をパパとママ、マリがつかまえていた。カミタマンは「もういいから、もうやめてよ」と止めようとする。
伸介「カミタマン、おれが悪かった」
パパたちは佃煮博士につかみかかり、狂乱は止まらない。鼻をかんで、カミタマンに迫ってくる伸介。
カミタマン「伸介、お・お・お前まで」
伸介「同情、同情!」
【感想】
初登場時はモスガやとらばる聖子と絡んでいた佃煮博士が、今回は全面的にカミタマンと対決することに。モスガが出てこないのはスーツアクターのスケジュールが過密であるゆえであろうと想像できるが、借金取りのとらばる聖子まで不在というのはやや意外ではある。直近3話連続で聖子が登場していたので、こちらの不在もスケジュールの都合かもしれないけれども、結果的にマンネリ回避に成功したと言えなくもない。そしてモスガを狙っていた佃煮博士は、今回は何故かカミタマン打倒に執念を燃やすわけだが、浦沢義雄脚本の不思議コメディーシリーズでは当初の目的を忘れて主人公につきまとうようになる粘着的キャラが定番で、前作『どきんちょ!ネムリン』(1984)のイビキや派生作品『TVオバケてれもんじゃ』(1985)のザ・グレートデンキなどが挙げられる。
佃煮博士が前回登場した第36話ではカミタマンと和解したかのようだったけれども、今回はまた争っている。悪役でありつつ悲惨な身の上でもある佃煮博士に対して、36話でもカミタマンは「佃煮博士に同情しましょう!」と叫んでいたが、今回はその同情が主題で、博士が新型兵器でみなの同情を誘いカミタマンを追放させるという奸計をめぐらせる。浦沢脚本において同情は頻出で、同情と「どじょう」が台詞に出てくるのは『ネムリン』や『人造昆虫カブトボーグ V × V』(2007)、『俺たちは天使だ! NO ANGEL NO LUCK』(2009)などだけれども、今回のようにどじょうのモデルが画面に登場するのは異色である。
どじょうの形状のスプレーによって根本家の面々が佃煮博士に同情してちやほやし、その状態を横山は「同情が愛情に変わ」っているのだと喝破。筆者が想起したのはセクシー女優・AV監督の晶エリー(写真家の照沼ファリーザ)氏が2010年ごろに述べていた、「かわいそう」の感情は「かわいい」の一種であるという信条である。同情が愛情に収斂するのは目から鱗で面白いが、初期から同情を好んで描いた浦沢先生は、80年代の時点で同情と愛情とをダイナミックに描出していた。浦沢先生自身は作中で登場人物の心情を描く気はなく、自身には「ハートがない」と述べていたけれども、心理描写を忌避してありきたりでない面白さをただ追求しているうちに結果的にユニークな形で人間の心理(真理)を衝いてしまっていて、浦沢文学の面目躍如ではあるまいか(そして過度の同情=愛情が狂気に帰着するのも笑える)。
今回の佐伯孚治監督は自らの演出スタイルを「生真面目」だと自己分析していたが、佃煮博士が潜伏しているテントの中にランプ、カップラーメンや卵などの食材、湯たんぽなどリアルに飾り付けがされていて、美術スタッフ(北郷久典氏)の功績であるけれども、佐伯監督の姿勢も影響しているのではと想像される(佐伯演出の第35話でも劇中の駄菓子屋が細かく飾られていた)。不コメでは過去に『ペットントン』(1983)の第44話などにテントが登場したがわりとあっさりした処理で、今回の凝り方には感服。また同情スプレーの設計図も詳細に描かれていて、さりげなく驚嘆に値する。
前回につづき、伸介役の岩瀬威司氏のスケジュールゆえか伸介の出番は少なめで、しかしそれでも冒頭と中盤とラストにそれぞれ登場するので締まっている。伸介の出番を補うかのように横山が活躍するけれども、公園でカミタマンと語り合うシーンでは息が白く、冬場の撮影の大変さを偲ばせる。



