第3話「ザ・対決 とらばる聖子」(1985年4月21日放送 脚本:寺田憲史 監督:佐伯孚治)
【ストーリー】
スーパーで「これも、こいつも」と食材をかごに放り込むカミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。ごはんですよにドッグフードと手当たり次第のカミタマンに、マリ(林美穂)と伸介(岩瀬威司)が振り返る。
マリ「ちょっとカミタマン、それお金払わなきゃダメなのよ」
カミタマン「ほげ、好きなの持ってっていいんじゃないのか?」
伸介「まさか」
マリ「資本主義が判ってないのよね、この人」
ドアから店長(木村修)と制服姿の女性が出てくる。
店長「それじゃあとらばる聖子さん、よろしくお願いしますよ」
とらばる聖子(小出綾女)は敬礼。
聖子「この私がとらばった以上、万引き・置き引き・詐欺・ゆすり・強盗・たかり・殺人すべてシャットアウト。このお店はきょうから100パーセントガードされるでありましょう。では、まいります」
店長はあきれ顔。聖子は「守るも攻めるも」と歌いながら店内を闊歩。するとトイレットペーパーが缶詰めの、スリッパがレモンのコーナーに置かれていた。
聖子「誰だ、こんないたずらをしたのは」
魚や瓶が浮き始める。
聖子「お魚がとらばってる!」
カミタマンが品物をかごから戻していたのだった。
カミタマン「なーにが資本主義だい。おらっちのカミタン島じゃ、えい、ほしいもんは何だってただで手に入ったのにな」
駆けつけた聖子は「タヌキ!」と驚き、「事件発生」と走り回る。立ち読みしていた伸介とマリは、振り返る。
聖子は「裏山さ帰れ」とモップでカミタマンを攻撃。
聖子「この極楽だぬき!」
カミタマンは「伸介、マリ。早く止めてくれ、このオバンを」と逃げだし、聖子は「花も恥じらうとらばる聖子に何たることを」と追いかける。そして遂に「今夜はタヌキ鍋だ」とつかまえる。
カミタマン「あ、そこ感じるって」
カミタマンは台車を動かし、聖子は台車で外へ運ばれてしまう。外の段ボールに突っ込む聖子。「どうした?」と走ってくる店長。
伸介とマリ、カミタマンは公園へ逃げた。
伸介「お前のせいで、あの店で買い物できなくなっちゃったよ」
カミタマンは目から涙を噴射して泣き出す。
マリ「オーバーね、泣くことないじゃないの」
カミタマン「おらっちはタヌキじゃないよ。極楽ダヌキなんかじゃないよ」
マリ「そう言えば極楽鳥に似てる」
カミタマン「きみたち、おらっちを侮辱すんのか」
伸介・マリ「しないしない」
カミタマン「じゃあ訊くが、とらばるって何だ?」
伸介「「とらばーゆ」を読んで、仕事をどんどん変えること」
カミタマン「仕事をどんどん変える? うちの島じゃそんなやつはすぐ死刑だ! あのオバン、やっぱり悪い女だ」
マリ「何言ってるのよ。いま流行ってるの。テレビで宣伝してるでしょ」
カミタマン「それが資本主義か」
伸介は「知るもんか、そんなんテストに出ないもん」、マリは「カミタマン、あんた神さまなんでしょ。自分で考えてよ」と答えて、ふたりは行ってしまう。
店長「タヌキが万引き?」
聖子はタヌキ狩り装置を提案する。
店長「冗談じゃない、自分の失敗をタヌキのせいなんかにして。うちはね、かちかち山じゃないんだよ。タヌキがうろちょろしてないの」
聖子「全然判ってない、ことの重大さが」
店長「え?」
聖子「こんなとこで働いていたら、私の青春は腐ってしまう」
聖子は敬礼して「店長さん、長らくお世話になりました」。
根本家の居間では、ママ(大橋恵里子)がビデオを見ながらストレッチ。ごはんを食べているマリ。
マリ「じゃあダンスのテープ、10日経ったら送り返しちゃうわけ?」
ママ「もちろん。その間は無料ですからね。いまのうちにバンバン覚えなくっちゃ」
マリ「セコい発想。私はやせなくていいもん」
そこへ呼び鈴が鳴る。セールスレディになった、とらばる聖子だった。
ママ「タヌキホイホイ?」
聖子「はい、これをお部屋の隅に備えつけていただきますと、壁の隙間や流しの下などに隠れたタヌキがぞろぞろ出てまいりまして、この口先に吸い込まれていくざますのよ」
ママ「うちにはタヌキもゴキブリも出ませんの」
聖子「ところがどっこい、出たんざますのよ。すぐ近くのスーパーに、極楽印のタヌキが」
聖子は、靴がなくなったり下着が消えたりするなどの心当たりはないかと問い、ママは笑う。伸介が帰宅。
伸介「あ、ザ・ガードマン」
聖子「うふふ、またとらばっちゃったのよねえ」
戸の陰から下着がのぞく。
ママ「私のパンティ!」
カミタマンが「ママしゃーん」と下着を持って現れる。
カミタマン「とらばるオバン!」
聖子「またオバンって言ったな」
聖子は「あの痴漢ダヌキはこの私が、タヌキホイホイで必ずつかまえてみせますざますわよ」とカミタマンを追っかけ、ママは慌ててパンティを取る。
ママ「カミタマンって痴漢だったのかしらね」
伸介「洗濯物が風で飛んだんだよ、全く」
伸介は追っていく。
カミタマンを追跡する聖子は、公園で「この機械はタヌキの弱みにすべて反応することになってるんだ」とカミタマンにホイホイを向ける。
聖子「しっぽ反応、スイッチオン!」
カミタマンのしっぽが動き出す。
カミタマン「あらやだ」
聖子「ほーら、しっぽを出したぞ」
見ている伸介。
カミタマン「隠したりなんかしてないもん」
聖子「次は音楽反応」
「♪たんたんたぬきの何とかは〜」と歌声が流れ、踊り出すカミタマン。
聖子「風もないのにぶらぶらしてきただろう」
踊るカミタマンに伸介は「お前やっぱり、タヌキだったのか」。
カミタマン「ちゃうちゃう、ほんとはこっちがあのオバンに化かされてるんだよ」
次は髪の毛反応。トサカが動き出し、
カミタマン「はげになっちゃうよ!」
宙に浮かび、引き寄せられるカミタマン。驚く伸介。
カミタマン「カミタンブーメラン!」
ブーメランは聖子を攻撃。
カミタマン「オバン殺し」
タヌキホイホイはオバンホイホイとなって、聖子は捕まる。
聖子「またお仕事さがさなくっちゃ」
勝ち誇るカミタマン。
伸介「お前ってパーだな」
カミタマン「誉めるなって」
ママとカミタマンは美容院へ向かい、伸介もついていく。
カミタマン「とらばるオバンにめっちゃくちゃにされちゃったからな」
ママ「おかげで予約までさせられちゃったわ」
野球のメンバーが足りないから、カミタマンに来てほしい伸介。
カミタマン「カミタマン一族はヘアスタイルにはうるさいんだから」
美容院に着くと「いらっしゃいませ」とお辞儀する店員は…聖子だった。驚くカミタマンは、ママの後ろに隠れる。
ママ「あなた! 今度は美容師さん」
聖子「はい、やっと自分の進むべき道を見つけましたの」
「ほな、さいなら!」と逃げようとするカミタマンを、聖子は抱き上げる。
聖子「やっぱりお坊っちゃまはただのタヌキじゃなかったのね」
ママは「あ、その子ね、神さまカット」。聖子はカミタマンのトサカにシャンプーする。
カミタマン「ああ、感じるってそこ」
やがて熱いタオルを出してきた聖子は「あつあつ」と言いながら、カミタマンの顔に押しつける。
カミタマン「あちゃー!」
最後に乾燥機。
カミタマン「大丈夫なんでしょうね」
聖子が「あれ、どうしたのかな」と機械を叩いていると、煙が出始める。
カミタマン「あちちちちち」
逃げ出したカミタマンは、店の中を飛び回る。驚くママや店員。
公園で、カミタマンは変な髪型を伸介や横山(末松芳隆)たちに笑われる。
横山「それ、アフロヘアって言うんですよ」
伸介「似合う似合う、カミタマンにぴったし! それ、試合続行」
みなは行ってしまう。
駅前にいる伸介とカミタマン。
伸介「今度ネモトマンにしたら絶対遊んでやんないからな」
カミタマン「ああ、約束する約束する」
歩いてくるパパ(石井喧一)。横から女性が「あのう」と駆け寄ってくる。また聖子だった。
聖子「私、英会話のカセットの説明をしている者なんですけれども。部長さんみたいな、これからの人」
パパ「まいったなあ」
聖子「私、また部長さんなんて言っちゃって。だってえ、どう見たって部長さんの貫禄なんですもの」
見ているカミタマンと伸介。全部揃えて30万だと言う聖子。
聖子「それくらい余裕なくせに」
パパ「そりゃまあ、そのくらいはね」
やや困惑気味のパパ。
カミタマン「パパしゃん、あの調子だと乗せられて買わされちゃうぞ。大変だ、そんなことになったら」
居間で「それがカルチャーって顔!?」と、カセットテープを投げつけて激怒するママ。
カミタマン「家庭崩壊に一直線だ」
カミタマンは「あいつと戦え」と伸介をけしかける。
伸介「戦うのはやだ」
カミタマン「武器を取るんだ、伸介」
伸介「暴力はやだ、戦争絶対反対」
カミタマンは、伸介をネモトマンに変身させる。伸介はネモトマン(岩瀬威司)になった途端、かっこよく飛び立つ。
パパと聖子の間に割って入る伸介。
パパ「何だお前は」
ネモトマン「ザ・ネモトマン」
聖子「変態坊やね」
聖子はネモトマンの頭をつかみ、突き飛ばす。
カミタマン「退却するな。出撃!」
また飛んでくるネモトマン。聖子に体当たりするネモトマンだが、全く相手にされない。
聖子「ユーアーフール」
パパ「シャワーのことだ」
談笑するふたり。パパは微笑みながら、ネモトマンを鞄で攻撃。改めて「とらばーゆ」で殴られたネモトマンは茂みに突っ込む。
ネモトマン「ばんざーい」
カミタマンは「おらっちもとらばっちゃう。戦争の神さまに!」と宣言。
伸介とマリは「戦争だ戦争だ」「カミタマンが戦争するんだって」と町内を走り回る。
カミタマン「出てこい、とらばる聖子!」
聖子も竹刀を持って、公園で対峙。子どもたちは見守る。横山が実況アナを務める。
横山「まさに近代社会のロマネスク。さあ、カミタマン・聖子の明日はどっちだ!」
伸介「おう、お前ってそういう才能あったんだな」
「嫌いじゃないんだなー」と乗る横山に、隣席のマリはあきれ顔。
カミタマンと聖子の勝負が始まる。カミタマンは聖子の腕に噛みつき、聖子は竹刀を取り落とす。聖子は「とらばーゆ」でカミタマンを吹っ飛ばす。聖子は鏡餅を取り出し、カミタマンは浮かぶ鏡餅を追いかける。聖子はラジコンで鏡餅を操縦していた。
カミタマン「お供え餅には弱いんだーい」
聖子「ふふ、どうやら神さまの端くれっていうのは本当のようね」
横山がインタビューすると、聖子が解説。
聖子「神さまは昔からね、お供え餅に手が出せずに悔しがっている」
伸介「そうか、本当は手が出せるものなら、手を出したいわけだ」
カミタマンが鏡餅にかじりつくと、爆発。吹っ飛んだカミタマンは、ちり紙交換のトラックの荷台に墜落。
マリ「だっさい話」
満足した聖子はラジコンを放り出す。
聖子「そうだ、ちり紙交換。これいけそうだ」
荷台で「やだやだ」とわめいていたカミタマン。「ご町内のみささま、お騒がせしております」と聞き覚えのある声が。カミタマンがふと見やると、運転席にはいつのまにか聖子が。
聖子「きょうもさわやかちり紙交換」
「もうとらばってる!」とカミタマンは驚愕。ウィンクする聖子にカミタマンは「おえー」。聖子の元気なアナウンスを流しながら、トラックは進んでいくのだった。
【感想】
準レギュラー・とらばる聖子が初登場。登場する度に転職しているというキャラで、今回は主にカミタマンとの攻防が描かれた。スーパーでは店長に「とらばる聖子さん」と呼ばれており、本名なのかは不明。本作には海賊やら妖怪やらが出てくるので、聖子も人外なのかもしれない。
やたらに転職していると言えば、筆者などは『古畑任三郎』の第3シリーズ(1999)で毎回多様な職場にいて都合よく事件に絡んでくる八嶋智人などを思い出したが、とらばる聖子もあのように使い勝手のいいキャラとして配置するつもりだったと想像される(シリーズ中盤に至って、扱いに苦慮している節が見られる…)。
この当時は就職情報誌「とらばーゆ」が大きな話題を呼び、1984〜85年は「とらばる」という動詞が流行語だった。もはや完全に死語だけれども、劇中で何度となく連呼されているあたり世相を濃厚に反映していて微苦笑を誘う。セールスレディ、カセット販売、ちり紙交換という転職先も何だか昭和の香りが漂う。
今回は寺田憲史脚本で、不思議コメディーシリーズの前作『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第30話「アイドル故郷に帰る?!」(寺田脚本)でも「とらばーゆ」を読んで、ネムリンがアルバイトを重ねるシーンがあった。とらばる聖子のネーミングも設定も、寺田先生によるものであることが推測できる。
とらばる聖子とカミタマンの戦いは、特に目を引くアイディアがあるわけでもないのだが、美容院でのシーンは乗りがよくて面白い。子どもたちの台詞の「資本主義」「ロマネスク」などは、子ども番組に不似合いな語彙を放り込む浦沢義雄脚本を意識していることが伺える。
劇中では本物の「とらばーゆ」を小道具に用いており、実在の商品とシュールな存在とを接合する不思議コメディーシリーズらしい。
監督には、不コメ全作に参加している佐伯孚治氏が登板。『ロボット8ちゃん』(1981)や『ネムリン』などで既に優れた仕事を遺していたけれども、『カミタマン』では特に多数のエピソードを撮った。本人も後に『カミタマン』には思い入れがあると回想している(「東映ヒロインMAX」Vol.6〈辰巳出版〉)。ただ佐伯監督は、堅実な演出やシュールな画づくりに優れているのだが、シナリオが単調だと一本調子になってしまう傾向もあり、今回はその例に漏れない。
とらばる聖子役の小出綾女氏は、『ペットントン』(1983)では準レギュラーの看護婦・トモコ役を好演。大人しめな中に時おり弾ける回があって面白かったけれども、活かしようがなかったのか中盤でいつのまにか退場してしまった。『カミタマン』でレギュラーとして不コメに復帰したのは喜ばしいが、トモコ役につづいてこのとらばる聖子も制作側が扱いに困っていた節があり、いまひとつ見せ場不足だったのは惜しまれる。小出氏は他に、大映ドラマ『ヤヌスの鏡』(1986)や山田太一脚本の舞台『早春スケッチブック』(1984)などに出演。
スーパー店長役は、シリーズ常連の木村修氏。『ロボット8ちゃん』からたて続けに出演している。