『勝手に!カミタマン』研究

『勝手に!カミタマン』(1985〜86)を敬愛するブログです。

第7話「ドキッ!パパの大変身」(1985年5月19日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)

【ストーリー】

 庭で将棋を指しているパパ(石井喧一)とカミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。パパは「王手だ!」と笑い、カミタマンは悶絶。カミタマンがステッキを振り上げると、将棋盤が回転する。

カミタマン「王手」

 パパは唸り、カミタマンは「吹けば飛ぶよな将棋の駒に」と唄い出す。カミタマンが熱唱しているとママ(大橋恵里子)が「あなた、今晩カレーライスにしたいんだけど」と現れる。

ママ「パパは?」

 パパの姿がない。

カミタマン「あ? わっ逃げた!」

ママ「じゃカミタマンにお使いお願いしちゃおうかな。買う物はね、この紙に」

 カミタマンの姿もない。

ママ「でもダメよ。カミタマンの弱点、知ってんだー」

 ママはポリバケツの前で手を合わせる。

ママ「カミカミタマタマ」

 ポリバケツの中からカミタマンが出て来る。

カミタマン「これをやられると、つい神さまの癖で出てきてしまうのよね」

 ママが手を合わせるとカミタマンは「ああ、やめてやめて。ダメもうダメ、そんな」と悶える。

 ママは「お願いね」と買い物かごを置いて行ってしまう。

カミタマン「ダメったらダメ、あ、よして。あ…冗談じゃないよ。おらっちは神さまだよ」

 怒るカミタマン

カミタマン「にんじん3本、玉ねぎ2個、じゃがいも4個。どーして買わなくちゃいけないの。福神漬けひと袋。買えるわけないっしょ。何なに、なければ花らっきょ。てやんでえ、ふざけんな」

 

 部屋でゲームをしている伸介(岩瀬威司)。窓からカミタマンが現れる。

カミタマン「伸介」

伸介「何だよ」

カミタマン「伸介ちゃん」

伸介「だから何だよ」

カミタマン「伸介くん」

伸介「何なの」

カミタマン「伸介さん」

伸介「どうしたんだよ」

カミタマン「伸介さまぁ」

 カミタマンはウィンク。

カミタマン「買い物、行ってこい」

 伸介は買い物かごでカミタマンを殴る。

カミタマン「あっ、その神さまをバカにした態度」

 カミタマンは伸介をネモトマンに変身させる。

伸介「あーあ」

カミタマン「ネモトマン、正義を守るためだ。カレーライスの材料を買ってきなさい」

 ベランダから飛んでいくネモトマン。

 

 肉屋へ飛び込んでくるネモトマン。

ネモトマン「神に代わって悪を斬る。正義のスーパーヒーロー、爆発、ザ・ネモトマン。豚肉の細切れ400グラムください」

 次は八百屋でポーズを取るが、女の子にそっぽを向かれる。

ネモトマン「がくっ」

 その後の酒屋では、ポーズもいい加減に。

ネモトマン「福神漬けひと袋。なかったら、らっきょでいいそうです」

 とぼとぼ帰るネモトマン。

ネモトマン「何で正義のためにカレーライスの材料を買いに行かなくちゃならないのか」

 ネモトマンは電柱に寄りかかる。

ネモトマン「考えれば考えるほど理解に苦しむ」

 そして公園で懊悩。

 

 部屋でへらへらゲームをしているカミタマン

 帰ってきたネモトマンは倒れ込む。

 

 ダイニングでママは「おつりもちゃんと入ってるし、サンキュー」。

カミタマン「いやあ、おつかいぐらい」

ママ「はい、じゃあこれご褒美」

 見ている伸介。

伸介「カミタマンの奴。カレーライスのどこが正義だ」

 伸介はネモトマンの衣装を持ってきて、カミタマンに押しつける。

伸介「きょう限りネモトマン辞めさせてもらう」

 目を白黒させるカミタマン

カミタマン「こらっ伸介。正義のスーパーヒーローやりたいって言うから、ネモトマンやらせてやったのに」

伸介「ネモトマンのどこが正義のスーパーヒーローだ。豚肉の細切れ買いに行くスーパーヒーローがどこにいる。自分の都合のいいときだけぼくをネモトマンにしやがって。もうやだ。ぼくは普通の少年に戻る!」

カミタマン「ああ戻れ戻れ戻れ。お前なんか普通の少年に戻って、平凡な余生を送ればいいんだ」

 べーと言い合うカミタマンと伸介。

カミタマン「まったく根性のない奴だ。正義のスーパーヒーローが豚の細切れぐらい買ったっていいじゃないか」

 庭から入ってくるマリ(林美穂)。

マリ「カミタマン、どうしたの。ひとりでぶつぶつ言っちゃって」

 カミタマンはマリに、正義のスーパーヒーローを依頼する。

カミタマン「まあ仕事と言えば豚肉の細切れ買って来たり、玉ねぎなんかも買って来たりだな」

 マリはカミタマンをヘルメットで殴る。

カミタマン「こりゃ町に出て、新しい正義のスーパーヒーロー見つけなくちゃなあ。ああ、痛い」

 

 公園で“正義のスーパーヒーロー募集中”と書かれた看板を掲げて呼び込みをするカミタマン

カミタマン「きみもなってみないか、スーパーヒーロー」

 だが通りすがりの女の子には「ださいわね」などと言われて、相手にされない。そこへ横山(末松芳隆)が通りかかる。カミタマンは横山に「スーパーヒーローにしてやるよ」と持ちかける。

横山「正義のスーパーヒーローって疲れるんだろう?」

カミタマン「ああ、そりゃまあ、悪漢と戦ったり」

横山「そういう積極的な生き方嫌い。おれ、なるべく疲れないように生きてんの。人は省エネ人生って言っている」

カミタマン「バーカ、勝手に好きなだけ生きろ」

 横山も行ってしまう。今度はパパが。

パパ「最近の子どもは正義とかスーパーヒーローなんて、あんまり興味ないんじゃないか」

カミタマン「そうかなあ」

パパ「もしあるとすれば、ほら、よくうちに来るあのネモトマンとかいう変な子。ああいうどこかで教育を間違えた、何て言うか、はっきり言えばバカ」

 呆れるカミタマン

パパ「あのネモトマンとかいう子の親の顔が見たいものだ。はははははは」

 カミタマンは「まじまじ」とパパを見つめる。

パパ「ん?」

 パパは自分がスーパーヒーローになってあげると言い出す。

パパ「正義のスーパーヒーロー、私の夢だった」

 パパは自分がターザン、スーパーマン、桃太郎になった姿を夢想する。

パパ「早く私を正義のスーパーヒーローにしろ」

 路上に寝転がるパパ。

カミタマン「ちょっと待ってよ」

 パパは「早く、さあ早く」を身をよじらせるが、カミタマンの姿は消えていた。

 

 アスレチックに逃げてくるカミタマン

カミタマン「冗談じゃないよ。あんな老けたスーパーヒーローなんてさ」

 だがパパは「こんなかっこでいいのかな」と嬉しげにポーズをとる。

 

 また逃げてくるカミタマン。だがパパは飛行機の前で「何をそんなに困ってるんだ」と、またポーズ。

 

 カミタマンが「おらっち責任とらない」と茂みに隠れていると、パパの「心配するな。きみには私がついている」との声が。

 噴水の向こうで、変な頭巾をかぶって哄笑するパパ。

パパ「新ネモトマンとでも呼んでくれたまえ」

 噴水の前でパパがポーズをとる。

カミタマン「すっかり出来上がっちゃってさ」

 

 「新ネモトマーン」と浮かれて踊るように歩くパパとついていくカミタマン。パパは横断歩道の前に立っている女性の荷物を勝手に運ぶ。

パパ「お嬢さん、荷物をお持ちいたします。さあ、ご遠慮なさらず」

女性「ちょっと待ってよ」

 カミタマンは「若い娘見ると、すぐこうなんだからもう」と追いかける。

パパ「私の名前は新ネモトマン。どうです、ごいっしょにコーヒーでも」

 女性は怒る。

パパ「コーヒーが嫌いなら、せめて心太でも」

 女性は人を待ってただけだとパパを平手打ち。倒れるパパ。女性は車に乗って行ってしまう。だがパパは元気。

パパ「新ネモトマーン。ぼくは強いんだぞー」

 

 今度は団地へ来たパパ。ふと見ると、ランニングをしている男性(高月忠)の上に植木鉢が落ちてきた。パパは「あぶない」と男性を突き飛ばす。

男性「この大バカ野郎!」

 結局、男性の頭に植木鉢が命中。屈強な男性は「何てことしやがるんだ」とパパに向かってくる。

パパ「新ネモトマーンぼくは強いんだぞーさあごいっしょに歌いましょう」

 パパはカミタマンに「あとは頼んだよ」と言って隠れる。男性はカミタマンに襲いかかるが、カミタマンはカミタンブーメランで応戦。ブーメランが顔に当たった男性はのびた。

パパ「いやあ、お見事お見事」

カミタマン「よーし、新ネモトマンもやっつけろい」

 だがパパは飛んできたブーメランをくすぐる。くすぐったがるカミタマン。次にパパは「うまい」とブーメランをかじる。

カミタマン「うわあ、いたたたた」

 ブーメランを取り返したカミタマンは「1週間に1度しか仕えないの忘れてた」と行ってしまう。

 

 公園にいた伸介のもとへ、カミタマンが逃げてくる。追ってくるパパ。

伸介「あれが新ネモトマン」

カミタマン「ああ」

伸介「誰なの」

カミタマン「伸介のパパ」

 すごい形相で「新ネモトマン」とまたポーズをとるパパ。

伸介「パパやめてよ」

パパ「バカ者、きょうから私はお前のパパじゃない。新ネモトマンなのだ」

 嘆息する伸介。

カミタマン「それがさ、ブーメランも今週中ダメだし」

 パパは「ぼくは強いんだぞー」と歌って「ぼくは力持ちだぞー」と大きな石を持ち上げる…と見せかけて小さめの石を持ち上げる。

 

 どうしようと困り果てる伸介とカミタマン

伸介「パパをもと通りのパパにしてくれ」

カミタマン「ああ、責任は感じてる。しかしなあ」

 伸介はふたたびネモトマンに戻る決心を固める。

伸介「新ネモトマンを救えるのは、ぼくしかいない!」

 

 リヤカーを漕いで、意気揚々のパパ。ネモトマンになった伸介が「新ネモトマンくん」と登場。

パパ「正義のスーパーヒーローはこの私だ」

 ネモトマンは「いや違う」と反論。

パパ「何」

ネモトマン「きみはただのパパだ。伸介くんを困らせないで、早くパパに戻りなさい」

パパ「何をこしゃくな」

ネモトマン「仕方ない。私たちは戦う運命にあるようだ」

 戦いが始まるが、パパはネモトマンのおしりを叩いて圧倒する。カミタマンは「新ネモトマンをやっつけるには」とお守りを取り出し、ネモトマンに放る。

 ネモトマンはパパにお守りを突きつける。そこにはママの写真が。ママの顔に角と牙が生える。

ママの声「あなた!!」

 「あああ」と震え上がり、倒れ込むパパ。

 

 グロッキー状態のパパをリヤカーに載せて引っ張っている伸介とカミタマン

 伸介はカミタマンに、ネモトマンをつづけていくと告げる。

伸介「またパパが新ネモトマンになったら困るもん」

カミタマン「まあな」

 パパは夢でも見ているのか「新ネモトマーン…」と笑みを浮かべる。

伸介「正義のスーパーヒーローなんてくだらないもの、ぼくぐらいしか務まらないよ」

カミタマン「まあな!」

 笑い合うふたりだった。 

ドキッ!パパの大変身

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【感想】

 ここまでの6本でろくな目に遭わなかった伸介が、カミタマンを辞めると言い出す。重圧に苦しんだヒーローが任務から逃れようとするのは1960年代から(あるいはそれ以前から)あったパターンだろうが、苦しむ民の姿に触れて使命感に目覚める…というようなのが定石である中で、今回は調子づいたパパの暴走を見かねてヒーローに戻るという斬新な?もの。「スーパーヒーローなんてくだらないもの」と揶揄する視座は、不思議コメディーシリーズの『ペットントン』(1983)の第44話「ナイターか!?正義の味方か」にて既に描かれており、本作はその発展形として評価できる。ただしパパを倒す手段がママであるとか、横断歩道の前に立つ女性の荷物を運んだら渡るつもりはなく迷惑がられるとかは、ありがちだと言わざるを得ない。

 カミタマンのブーメランは、週1度しか使えないという設定が出てきている。

 監督には不コメ常連で、浦沢義雄先生と名コンビの坂本太郎監督が登板。前作『どきんちょ!ネムリン』(1984)では大半のエピソードを撮る活躍ぶりで本作『カミタマン』でも最終話を担当している。今回の浦沢脚本のラストのト書きは、

「笑うシンスケ、カミタマン――その笑顔には戦後の日本の教育が産んだひずみがまったく感じられても感じられなくてもいい」

というものであった。坂本演出による完成映像はハプニング撮影であったらしく、伸介とカミタマンが笑い合う後方で子どもたちが見ていて、もしかすると「戦後の日本の教育が産んだひずみがまったく感じられても感じられなくてもいい」という意味か!と邪推した。

 

 パパ役の石井喧一氏は、アドリブなのか「新ネモトマーンぼくは強いんだぞー」と変な歌まで歌って熱演した。石井氏は東京ヴォードヴィルショー随一の怪優として知られるだけに、前回の第6話につづく怪演ぶり。『カミタマン』はキャラが豊富すぎてやや持て余し気味の面があり、石井氏の資質も十全に生かされたとは言い難いのだけれども、今回はその実力が発揮された。

 石井氏は『ネムリン』の第21話「アッパレ!桃太郎」(1984)ではゲストの桃太郎役を演じたが、今回の妄想シーンでも同様に桃太郎に扮して「アッパレ」と叫んでいる。

 通りがかる屈強なランナーはピラニア軍団に在籍し、多数の東映映画・テレビに出演した高月忠氏。不コメでも『ペットントン』の第24話「返せ!ぼくらの広場」のゲストや『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)の準レギュラー、『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第20話「在原業平の陰謀」のゲストなどの出演歴がある。特に『覇悪怒組』ではしたたかな技量を感じさせる演技だったが、今回は端役に近く、誰がやってもよさそうな扱いだった。 

アッパレ桃太郎

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 前半でカミタマンが呼び込みをしている公園は、第4話などにも出てきた不コメ定番の赤塚新町公園。特に本作には登場する頻度が高い。

 中盤の噴水のある公園は、不コメのみならず東映作品によく使われる所沢航空公園。パパが噴水の前でポーズをとっているが、不コメでは『ペットントン』の第34話「パパになった根本君」や『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第30話「ワルサの恋人」などでも同じ場所が出てくる。後者は今回と同じ坂本太郎演出によるもので、戦闘と噴水とがシンクロしていて、今回のパパのバックに水流が吹き出すシーンを思い出した。

 パパが航空公園の飛行機の前にそびえ立つ場面では、画面の下部がぼけている。何かが映り込むのでワセリンを塗ったのだろうか…? 

ワルサの恋人

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