第8話「激愛!タタリの青春」(1985年5月26日放送 脚本:浦沢義雄 監督:坂本太郎)
【ストーリー】
食卓でごはんを食べている伸介(岩瀬威司)と、野球のユニホーム姿で待っている横山(末松芳隆)。
横山「伸介くん、早くしないと試合の時間に」
伸介「判ってるよ」
横山「おれ、手伝おうか?」
横山も猛然と食べ始める。
ふらふらの状態で家を出るふたり。
伸介「ちょっと食い過ぎたかな」
横山「おなかいっぱいだよ」
食卓でカミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)が「おらっちの朝ごはんが行方不明!」と泣きそうになっていた。ママ(大橋恵里子)は「誰が食べちゃったんでしょ」。
カミタマン「あとに遺されたおらっちは、どうやって生きていけばいいんだ」
ママは何やら白い粉状のものを出す。
ママ「これ食べて生きていけば?」
カミタマン「うわお、おいしそう」
ママ「おいし、そう?」
カミタマン「あああ、絶対においしい」
食べるカミタマン。
カミタマン「微妙な味」
ママ「そりゃそうよ。あたしが3か月前につくったんだから」
驚くカミタマン。おなかの調子がおかしい。
ママ「やっぱりくさってたみたいね。ああ、よかった。マリや伸介に食べさせなくて」
にこやかなママ。そこへパジャマのパパ(石井喧一)が「どこへゆかれる?」と歌舞伎のポーズをとりながら2階から降りてくる。
カミタマン「おトイレ」
パパは「いまのうちだ」と自分がトイレに駆け込む。カミタマンはトイレの前で「早くしてくれー」と叫ぶがパパは「まだまだ」。
カミタマン「ででで出ちゃう」と言いながら公園に来た。だが公園のトイレにも行列が。カミタマンは頭を回転させて目を白黒。すると何者かが「誰だ?」とカミタマンの目をふさぐ。
カミタマン「この手の気持ち悪さから言って…」
タタリ(花房徹)だった! カミタマンは「うわー」と叫び、赤いガスを噴き出す。
カミタマン「よかった、おならで済んで」
タタリは「きょうこそお前におたたりするぞ」と巨大入れ歯を持って迫ってくる。
逃げ出すカミタマン。
カミタマン「神さま食うなんて、何て奴だ」
だがふと上げると、電柱の上から入れ歯が「ぱっくんぱっくんぱっくん」と襲来。
「お助けー」住宅街に逃げてくるカミタマンだが、マンホールの下からタタリが襲ってくる。
駐車場へ走ってきたカミタマン。今度はちり紙交換のトラックに積んである新聞紙の山から、タタリが飛び出してくる。
カミタマンは公園へ逃走。ボールが飛んできて、タタリの頭に命中。
カミタマン「ばち当たりー」
マリ(林美穂)が駆けてくる。
マリ「カミタマン、こっちにボール来なかった?」
タタリは痛がっていた。
マリ「もしかして」
タタリ「もしかしてじゃない」
マリ「ごめんね」
マリが微笑むと、タタリはうっとり。井上陽水「恋の予感」が流れ出す。
タタリ「大丈夫、ほらこんなに元気」
タタリは「ランラランララン」と唄いながら駆けていく。「何だあいつは」と不思議そうなカミタマンとマリ。
茂みのほうへ来たタタリは「確か名前はマリ。マリちゃーん」と叫ぶ。カミタマンとマリは見ている。
カミタマン「ほんとうに大丈夫なのかよー?」
タタリは「大丈夫ぅ」と変なポーズをとりながら去る。
マリ「陽気な人ね」
カミタマン「ああ、まあ陽気と言えば陽気なんだろうけど。陽気のせいかな」
庭でママは洗濯物を干していた。
パパは伸介の部屋で「へへへへ」と笑みを浮かべながら、貯金箱を開ける。入ってきたカミタマン。
カミタマン「見ーちゃった、見ーちゃった」
パパはパチンコのための小銭を借りるだけだという。そのとき、何やら怪しい影が差し、ママの悲鳴が。
庭ではタタリがママに迫っていた。
カミタマンは布団叩きでタタリを追い出す。
カミタマンが部屋に戻ると、空っぽの貯金箱が床に放ってあった。
カミタマン「ひどい、息子の貯金箱からお金をとるなんて、なーんてひどい親なんだ」
食卓では、帰宅した伸介が牛乳を飲んでいた。
ママ「伸介、早くユニホーム脱いで。洗濯しちゃうから」
カミタマンは伸介に話があると言うが、伸介は先に風呂に入るという。
カミタマン「やっぱり、言わないほうがいいかなあ…」
伸介が「♪涙のtake a chance」と唄いながら裸で浴室に来ると、雷鳴がとどろき、浴槽からタタリがばしゃっと飛び出す。
タタリ「伸介さん」
カミタマンはホースで水をぶっかけ、タタリを追い出す。
パチンコの景品を持ったパパが帰宅。
パパ「それで、伸介には?」
カミタマン「気がついちゃいないよ」
パパ「ああ、そりゃよかった」
パパは「こうしておけば」と小銭を貯金箱に戻す。
カミタマン「こんな父親を持った伸介がかわいそうだ」
パパが「カミタマンにもお土産とってきたんだけどなあ」と言うとカミタマンは「伸介は幸せ者だなあ」と豹変。
だがパパが紙袋を開けると、中からタタリの服が。服からタタリが実体化。
タタリ「パパさま、よろしく」
パパは「カミタマン、早く棄ててこい!」と震え上がる。
公園の池で恍惚の表情を浮かべるタタリ。
カミタマン「マリに恋を?」
うなずくタタリ。
タタリ「ひと目ぼれって言うのかなあ」
カミタマン「お前、前にも会ったことあんだろ」
タタリ「ん? じゃふた目ぼれだ」
タタリは「それー」などと妙な動きで花を池に投げ込み、木を引っこ抜こうとする。
カミタマン「公園の木を抜いてどうしようってんだよ!?」
タタリは「じゃあおれの言うこと、何でも聞いてくれるか?」と迫る。
カミタマン「ばかばかしい、どうしておれがお前の言うこと聞かなくちゃいけないんだよ。ふん」
タタリは木を抜こうとする。
カミタマン「おいタタリ、判った。聞く聞く」
振り向いて恥ずかしそうなタタリ。
タタリ「お願い、マリちゃんにぼくの気持ち、伝えて」
カミタマン「ええっ?」
食卓で話を聞いたマリは、浮かない顔。
マリ「勘弁してよ」
カミタマン「勘弁してよ。このひとことでぜーんぶ物語っちゃってるもんなあ。勘弁してよ。これ言われたらもうおしまいだもんなあ。ちょっとタタリかわいそうな気もするなあ」
後ろから“すべての悩みを私に! 聖子の同情屋”と書かれたのぼり旗を持ったとらばる聖子(小出綾女)が。
聖子「こらタヌキ、何悩んでんだ」
カミタマン「タヌキじゃないって」
聖子は「きょうから私、同情屋やってんの」という。
聖子「何でも同情してあげちゃうんだ」
「同情しちゃう」と聖子は泣き崩れる。
カミタマン「違うの。おらっちが泣かせたんじゃないの!」
カミタマンはステッキで花壇の花を飛ばし、聖子の口に入れる。「どうだこの野郎」と逃げ出すカミタマン。
タタリは「愛してる」「愛してない」と花びら占いをしていた。駆けてくるカミタマン。
カミタマン「走り回ったんでああ腹減った。おい、なんか食わせろ」
タタリ「どう、この鍋焼き?」
タタリ「よかった、気に入ってもらえて」
レストランでケーキを食べるカミタマン。
カミタマン「勘弁してよ。ああ…」
タタリ「え、何それ?」
カミタマン「あ、いや何でも。ねえねえ、チョコレートパフェも食べていいかな」
タタリは「お姉さん」と注文しに行く。
カミタマン「鍋焼きうどんやケーキまでごちそうになっちゃったんだもん。マリちゃんの返事が勘弁してよ、だなんて言えないよなあ。あああ、どうしよう」
「おまちどおさま」とパフェを持ってくるタタリ。
木陰で寝そべるカミタマンと扇いでいるタタリ。
タタリ「もしかして」
カミタマン「ああ、そのもしかしてなんだけどさ」
タタリは「もしかして、マリちゃんがぼくのことを愛してる!」と早合点。
タタリ「カミタマン、その先は言うな。照れるじゃないか」
カミタマン「うわ、何だこの一歩的な誤解は」
タタリ「ようし、ぼくもタタリだ。マリちゃんがそこまで望むなら」
カミタマンは「もう、おら知らね」と倒れる。
庭でタタリは「結婚してください」とマリに迫る。マリは「ふん」と花瓶を振り上げ、タタリの頭に叩きつける。ひっくり返るタタリ。
マリ「まったくもう。お庭が汚れちゃったじゃない」
カミタマンは「だからいわんこっちゃない」と来る。タタリは「マリちゃん」とカミタマンにキスしようとする。慌てるカミタマン。
タタリ「あれ、マリちゃんは?」
マリ「怒ってうちの中入っちゃったよ」
タタリ「ぼくのプロポーズが、そんなに嬉しかったのかなあ」
カミタマンは「嬉しい奴が人の頭花瓶で殴るか」と呆れる。
タタリ「そういう人がいてもいいじゃないか」
そこへほうきを持ったマリが「こらっ」と現れる。
タタリ「そんなに照れないで。ぼくを愛しているなら、正直に愛しているって」
マリ「誰がそんなこと言ったの?」
タタリ「ん、カミタマン」
カミタマンは慌てて「言ってねえよ!」と否定。
タタリ「いいや、心が言っていた」
タタリは何故か巨大入れ歯を出す。その歯を抜いたマリは「カミタマン!」と投げつける。飛んできた歯がタタリにぶつかり、タタリは退散。カミタマンは「やべ」と逃げる。
昼間なのに部屋で寝ている伸介。「助けてくれよ」と入ってくるカミタマン。
伸介「うるさいな。寝つかれないで困ってるんだから、静かにしてくれよ!」
カミタマンは「いますぐ寝かしてやる」と伸介をネモトマンに変身させる。ネモトマン(岩瀬威司)は窓から空へ飛んでいく。
カミタマン「飛ばなくたっていいんだよ」
マリが「カミタマン!」と追ってくる。
庭へ逃げるカミタマンと追うマリ。そこへネモトマンが。
マリ「またあんた。あんたいったいどこの子?」
マリは「この子をどうにかしてくれれば助けてあげるわ」とカミタマンに告げる。
カミタマン「お前、眠いんだろう?」
ネモトマン「うん、そりゃまあ」
カミタマン「だったら目をつぶれ」
カミタマンは「よいしょっと」とほうきを持つとネモトマンを殴り倒す。
マリ「カミタマン、その子どこかに棄ててきなさい」
のびているネモトマンを見てカミタマンは「ぐっすり眠れただろ。神さま、嘘つかない」。
夕食をとっているカミタマン、パパ、ママ、マリ。伸介の姿がない。
部屋で寝込んでいる伸介。
伸介「ぼくもう、神さまなんて信じない。神さまなんて」
屋外でタタリが巨大入れ歯の手入れをしていた。
タタリ「カミタマン、この恨みはいつかきっと」
食卓で上機嫌のカミタマン。
カミタマン「一日一善、いいことするとほんとに食事がおいしい!」
【感想】
2度目のタタリ編で、今回はタタリがマリに惚れる。浦沢義雄脚本ではよくある人外が片想いするパターンだけれども、今回は散漫さが否めない。
食べものをめぐる騒動から始まってタタリの求愛、パパのパチンコ、ネモトマンを巻き込んだ争いなど個々のねたが強引につなげられている。この時期の浦沢脚本で顕著なのは、全体の構成をあまり考慮せずにその場その場で思いつくままにアイディアをつなげていく傾向だった。その手法が成功すると、例えば不思議コメディーシリーズの『ペットントン』(1983)の第25話「根本君のガールハント」などのように発作的な脈絡のなさが面白くなるのだが、今回はそれぞれのねたが半端な状態で、笑いが不発に終わっている感がある。「根本君のガールハント」は坂本太郎演出で、クールにねたをつなげて一種の運動体に仕立て上げる手腕には瞠目させられ、浦沢脚本との相性のよさに唸ったが、今回は坂本演出をもってしても盛り上げるのが困難だったということだろうか。
『カミタマン』は登場人物を豊富に出してしまったゆえ、十分に活かしきれていない気がするのだけれども、例外的にマリは全編に渡ってかなり目立っている。『ペットントン』の小百合(川口智子)のイメージを受け継ぐ怖いキャラだが、このように男性側の気持ちを踏みにじっても無痛覚な女性像というのは、ある意味で男性の抱く理想像であるのかもしれない。ただしマリの態度は本作の中盤(第28話など)で軟化している。
とらばる聖子の挿入は無理くりで、8話目にして早くも扱いにやや困っているのが伺える。
「恋の予感」はもとは安全地帯のための曲で、この前年のアルバム「9.5カラット」にて作詞・作曲の井上陽水がセルフカバーした。今回流れたセルフカバー版は、第28話でも使われている。 ちなみに『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第20話「モンローの純愛物語」でも同じ「9.5カラット」に収録された「いっそセレナーデ」が流れた。
パパのパチンコの景品の中からタタリが飛び出すシーンは、まず景品の袋の中からタタリの衣装が出てきて、そこからタタリが実体化するように処理していて、現場の苦心を感じさせた。
タタリの巨大入れ歯は、不コメでは『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第11話「川崎大三郎の秘密」でも使われていた。この歯が最初につくられたのは本作なのか、あるいは他の作品のものを流用したのかは不明。