第33話「ママのオシャレ大作戦」(1985年11月24日放送 脚本:浦沢義雄 監督:冨田義治)
【ストーリー】
小学校の下校の時間。「どうするの」「宿題?」「やるっきゃないわよ」などと言いながら、友だち(平子美幸、鈴木真紀子、長谷川奈穂)と学校を出るマリ(林美穂)。
マリ「私も、今月3回も立たされてるから」
友だち「 “働くお母さんの美しさ” 。なんか戦争中を思わせる作文のテーマね」
何点だった?などと話しつつ、マリは帰宅。
「そうなのよ、八王子のおばさんたら」などとママ(大橋恵里子)が電話で談笑していた。マリが部屋に入ると、ママは電話を切って掃除機をかける。吸い込みが悪いので確認していると、そのママの顔をマリは見つめる。
伸介の部屋でカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)は読書。
カミタマン「まったく、泣かせるマンガだぜ」
するとマリが「先週お兄ちゃんが使ってたでしょ」とポラロイドカメラをさがしに来る。カミタマンは、パパとママの部屋に返したという。
マリが、パパ(石井喧一)とママの部屋の戸棚を開けると、カメラといっしょに写真が落ちてくる。ママの若き日のスナップだった。カミタマンが来る。
マリ「あ、カミタマン。いいとこに来たわ。カメラマンやって」
居間では、ママが掃除機をかけていた。調子が悪いので「もう、あったまきちゃった」と不機嫌。カメラをかまえるカミタマンとマリ。「この野郎」と掃除機を投げるママが写る。
公園にいる伸介(岩瀬威司)と横山(末松芳隆)。
横山「お前怒られるんじゃないのか」
伸介「お前には関係ねえだろ」
横山「あ、根本んちのおばさん!」
「えっ!?」と伸介は思わずころがって隠れる。
ママ「ああ、横山くん。あら、伸介もいたの」
横山は「ぼくきょうのテスト50点とっちゃった」「すごいでしょ。ちょうど平均点なんだ」と自慢。
ママ「ふうん、伸介は?」
伸介ほら、こう来るんだから」
答案を見せる伸介。
ママ「13点!?」
横山「当然クラスで最低です」
ママは「あんた黙ってなさい」と横山をひっぱたく。「伸介!」とママは、逃げる伸介を追いかける。写真に撮るカミタマンとマリ。
ママは食卓でうたた寝。そのさまを、マリとカミタマンは見ている。
マリ「今度はママの顔を大きくクローズアップして」
撮るカミタマン。振り向くと、マリが涙を流している。
先ほどの公園でマリは、ママの写真を見比べる。
マリ「結婚するって、こんなふうになっちゃうことなのかしら」
カミタマン「しょうがないよ」
マリ「でも」
カミタマン「しょうがないじゃないか」
マリ「カミタマン、やっぱりあなたも男ね。こんな大切な問題を、しょうがないのひとことで片づけることができるなんて」
カミタマン「だって、結婚すれば誰だって」
マリは「ママかわいそう」とつぶやく。カミタマンは言葉もない。
マリ「いつか私もこうなるのかな」
想像の中で掃除を投げるマリ。買い物かごを持って、伸介を追いかけるマリ。食卓でうたた寝するマリ。
マリは「ああ!!」と絶叫。
マリ「人生に絶望したら、急に熱出てきた」
マリはダウンし、カミタマンは慌てる。
カミタマンに支えられて、ふらふらの状態で帰宅するマリ。ママが「おやつよ」とケーキを切っている。
マリ「いらない」
カミタマンは「人生に絶望しちゃって」。
カミタマンは食卓で、ママに経緯を説明。ママは「ええっ」と衝撃。
ママ「あああ、知らなかった」
カミタマンは「くっさー」とあきれ顔。
ママ「考えてみれば、生活に追われまくったこの結婚。いいえ、パパと結婚したことを後悔してるんじゃないの。生活に負けた自分がくやしいの」
ママはエプロンで涙をぬぐう。
ママ「マリ、ごめんね。ママ、これからはこれからは」
大仰なひとり芝居の果てに、ママは走り去る。
寝込んでいるマリ。横にはケーキと紅茶が。カミタマンは「おやつぐらい食べたほうが」と声をかける。マリは首を振る。
マリ「いいの。どうせ私はこのまま美しさを失い老けていくんだから」
ママ「老けるってマリはまだ小学生じゃないの」
マリ「そう、私は小学生老婆」
階段を降りてくるカミタマン。
カミタマン「何が小学生老婆だよ。女の子って奴はすぐ自分を悲劇の…」
言いかけたところで、驚いて目を見開くカミタマン。すぐ階段を駆け上がる。
カミタマンは「あ! あ!」とマリを起こす。
「何よ、何すんのよ」とつれてこられたマリも驚愕。
居間にはドレスを着て、見違えるようなママの姿があった。
ママ「マリ、ママこれからは生活の中でもめいっぱいおしゃれするわ。だからマリももう人生に絶望しないで。ね?」
立ち直ったマリは、お腹が空いた様子。
カミタマン「ほげー」
マリは自室で猛然とケーキをほうばる。
カミタマン「驚いた。急にいなくなるから」
マリ「人生の絶望から立ち直ったら、急にお腹がすいちゃって」
今度はブルカのような衣装で米をとぐママ。
カミタマン「おしゃれもいいけど、ママのその姿じゃ家の仕事やりにくいんじゃない?」
ママ「しょうがないでしょ。マリが人生に希望さえ持ってくれれば」
カミタマン「ふうん、母親の愛情ってすごいんだな」
ママ「そうよ。母の愛は海よりも深いの」
そこへ「じゃーん」とマリの声が。マリもドレス姿になっていた。
マリ「母親がファッションして子どもがファッションしてないと、後でママが何と言われるか判らないわ。それでなくてもこの近所は口うるさいじいさんばあさんが多いんだから。マリもきょうからファッションさせていただきまーす」
ママ「マリ、その服よそゆき用じゃない?」
マリ「いいじゃない? ママだってそのドレス、結婚式とか何かのパーティー用じゃないの」
マリ「ママ、生活をファッションするのよ」
ママ「そうね」
マリ「そうよ!」
「なんか…」と一抹の不安がカミタマンによぎる。
公園でカミタマンから話を聞いた伸介。
伸介「なーんか、悪い予感が」
カミタマン「するする」
横山が来る。
横山「お前んちのおばさんとマリちゃん、熱でもあるんじゃないの」
顔を見合わせるカミタマンと伸介。
カミタマン「ほら」
商店街を、赤いドレスに身を包んだママとマリが闊歩していた。道行く人は変な目で見る。驚いて腰を抜かす商店街会長(近松敏夫)。夫人(橋本菊子)は駆け寄る。電柱の陰に入る伸介とカミタマン。
八百屋でママは「お大根1本」と買う。
伸介「あのかっこで大根買っちゃいけないよな」
カミタマン「ああ」
豆腐屋では「がんもどきください」とマリ。ママは化粧を直す。
カミタマン「あのかっこうでがんもどき」
伸介「おそろしい、おそろしい」
公園を悠々と歩くマリとママに、伸介が進言。
伸介「ママ、マリ。そんなかっこうなんかやめてくれ。そんなかっこうして、大根やがんもどき買ってはずかしくないの。ママ、マリ。もっと冷静になって」
ママ「マリ、母と娘がファッショナブルになったんだから」
マリ「ここは息子も」
伸介「えっ?」
ママ「さあ、伸介ちゃん」
マリ「ファッションしましょう!」
やだよと伸介は逃げだし、ママとマリは追いかける。茂みから顔を出すカミタマン。
カミタマン「あーあ、最悪だぞこりゃ」
家に連れて来られた伸介。
伸介「ママ、マリ! 何する気?」
伸介は椅子に縛りつけられた。
伸介「ママ、おれたち親子だろ。マリ、おれたち兄妹だろ」
口に布をつめこまれる。
マリ「さあ、どうファッションしっか?」
ママ「そうね、私は大胆に髪をばっさりと」
マリ「ううん、カールしたほうが」
ママとマリとで伸介の髪型をいじり放題。
ママ「ママ、それじゃちょっと古いわよ」
マリ「むっかー」
ママ「ここはこっちのほうが」
悪乗りはつづく。
ママ「だめよマリ、そこはもう少しシックにいかなくっちゃ」
マリ「むかー」
はではで衣装も着せられた伸介は茫然。
ママ「ああ、だめだ。これじゃテーマがなさすぎるわ」
マリ「いいじゃない、テーマなんてどうだって」
ママ「だめよ。ファッションは芸術よ!」
マリ「そんなこと言うからあたし嫌いなの。東京オリンピック以前に生まれた人って」
「何よ、その言いぐさ」とつかみ合いになるふたり。
池の前で「女ってのはどうしてファッションの話になると」とたたずむカミタマン。変なかっこうにされた伸介が「カミタマン」と駆けてくる。カミタマンは驚く。
ママ「わかったわ、マリ。表へ出ましょう」
マリ「上等よ」
話を聞いたカミタマンは、伸介をネモトマンに変身させる。
テーマ曲に乗ってネモトマン(岩瀬威司)は居間で名乗るが、誰もいない。音楽もストップ。
ネモトマン「あれ…」
ママとマリは公園で乱闘に! 凄絶な戦いが繰りひろげられる。「ふたりとも、やめなさいってば」とうろたえるカミタマン。ネモトマンがやっと登場。
カミタマン「ネモトマン、どこ行ってたんだよ?」
ネモトマン「家行ったら、ママもマリもいなくて」
ネモトマンは名乗ろうとするが「それもいいの」とカミタマンに止められて、慌てて仲裁に入る。しかし「邪魔しないで」と蹴り飛ばされてしまう。
ネモトマン「ブレイク、ブレイク」
ママとマリは「女の戦いに男は邪魔」と追い出されるネモトマン。ふたりの肉弾戦はつづき、ネモトマンは「ファイトファイト」「反則反則」と突っ込む。業を煮やしたカミタマンはブーメランを飛ばし3人とも気絶。
カミタマン「このままじゃ、パパが帰ってきたら」
イメージの中で、帰宅したパパは驚く。はではでな衣装で食卓を囲む3人。
カミタマン「こうなっちゃうよな」
商店街会長が「根本さーん」と倒れているママとマリを起こす。
商店街会長「あんたたちのおかげで、商店街のかみさんたちが」
八百屋の奥さん(小申登枝恵)も豆腐屋の奥さん(八百原寿子)も、ドレス姿で接客していた。
商店街会長「八百屋のかみさんや豆腐屋のかみさんばかりじゃない。うちのばあさんまで」
会長夫人が塩沢ときのような姿で「ダーリン」と追いかけてくる。逃げ回る商店街会長。絶句するママとマリ。
マリ「ママ、何だかばからしく」
ママ「そうねえ」
カミタマンは「奥さん、いい歳をしてやめなさい」と夫人のスカートを引っ張る。
夜になって、バスから降りてくるパパ。飲み屋に入ろうか迷うが、結局通りすぎる。
だがまっすぐ帰宅したパパは驚く。
パパ「何だ、この貧乏」
「赤いリンゴの唄」がかかる中で、ママと伸介、マリ、カミタマンの前には粗食が。
ママ「マリ。どう、この雑炊?」
マリ「具がちょっとぜいたくじゃない?」
カミタマンは「どうもママとマリのやることは極端すぎちゃって」と嘆息。マリはカミタマンをこづく。
【感想】
ママとマリが主役の暴走編。根本家の面々が活躍するエピソードはあってもママがメインの話はほとんどなかっただけに、今回は貴重だと言えよう。不思議コメディーシリーズではそれぞれに母親役たちの主役回があるけれども、本作『カミタマン』では今回が唯一であろうか。本作は家族全員のコント場面が多いのに加えて多数の準レギュラー陣を抱えているゆえ、ママが割を食ってしまったということかもしれない(第31話など「きょうのママは朝からちょっとおかしいんだって」という台詞があるにもかかわらず、結局ママの出番はさほどなかった)。
不コメでの母の活躍する回としては『美少女仮面ポワトリン』(1990)の第23話「ノリコの一日本田警部」がウェルメイドで見やすく、一方で『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第39話「バルセロナを目指せ!」や『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)の第23話「アジサイ仮面の心」はクレージーだった。今回は、雪だるま式に騒動が拡大していく点は『ポワトリン』よりもアナーキーだけれども『トトメス』『シュシュトリアン』の母回ほどのあくの強さはなく、両者の中間あたりに位置づけられるかもしれない。
ファッションをめぐってエスカレートする騒動やカミタマンの「女の子って奴はすぐ自分を悲劇の…」という台詞など、男性側の視点から女性の滑稽さを批評するような面もやや伺え、筆者は筒井康隆『エディプスの恋人』(新潮文庫)を想起した。
今回のテーマそのものが「生活をファッションする」というコンセプトが行きすぎるというもので、生活スタイルを追求して競い合う80年代を戯画化したともとれる。終盤の貧乏落ちも、いかにもバブル直前の豊かだった時代をしのばせる。
ママ役の大橋恵里子氏は1970年代後半から80年代前半にかけてアイドルとして活動しており、劇中の写真はその時期のものであろう。今回のドレス姿は実にいきいきしていて、本作の後にあまり演技を遺さなかったのは惜しまれる。
マリのドレスは『どきんちょ!ネムリン』(1984)のエンディングのタイトルバックで、マコ役の内田さゆり氏が着用していた。
商店街会長役の近松敏夫氏は、大河ドラマやテレビとして制作されて劇場公開もされた『密約 外務省機密漏洩事件』(1978)などの他に『快傑ズバット』(1977)や『スパイダーマン』(1979)など東映の特撮ドラマに頻繁に出演。今回は前に出過ぎない熱演で印象に残る。
会長夫人役の橋本菊子氏は『特別機動捜査隊』(1967〜1976)の多数のゲスト出演や『おしん』(1983)などがあるが、近松氏の熱演に負けじと?塩沢ときルックになっており驚かされた。
- アーティスト:大橋恵里子
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- メディア: CD
ママとマリが買い物するのは武蔵関の駅前商店街で『ペットントン』(1983)の第42話「エッ?ガン太が乙姫様」や『ネムリン』第21話「アッパレ!桃太郎」などに出てきている。
前半の公園も武蔵関で、やはり過去に『ペットントン』では何度となく登場。後半でママとマリが乱闘するのは所沢航空記念公園で、前話ではマリが中学生にナンパされる場面でも使われた。ナンパのシーンと今回の乱闘とを同日に撮影したのかと思うと笑ってしまう。