第9話「三流神さま山田くん登場」(1985年6月2日放送 脚本:浦沢義雄 監督:佐伯孚治)
【ストーリー】
自室で何やらさがしている伸介(岩瀬威司)。
伸介「どこ行っちゃったんだろう? あ!」
伸介は「カミタマーン」と呼びながら、階下へ降りてくる。
伸介「隠れたって無駄。いるのは判ってるんだから」
「ようし」とポッケから100円玉を出す伸介。放って手を合わせると「はいはい」とカミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)が戸棚から出て来る。カミタマンが100円玉を取ろうとすると、伸介が釣り糸で100円玉を引っ張る。
カミタマン「お賽銭が」
釣り上げられてしまうカミタマン。
伸介「カミタマン、ぼくのおもちゃ勝手に使うなって言ってんだろ」
そこへカミタマンに電話が。
カミタマン「はいはい。え、公園で? はい、毎度。」
カミタマンは「お仕事」に行くという。
公園でひとりの男が銅像と同じポーズをとって「あああ困った」「ああ、いうえお」とうめいていた。
ふと見るとカミタマンの前に、子どもたちの行列ができている。
カミタマン「3回まわって、あっかんべーしなさい。そうすればきっと頭がよくなる」
カミタマンはいい加減なアドバイスをして、お菓子やら林檎やらのお供え物をせしめていた。
カミタマン「これだから神さまやめられないんだよなあ」
男は近づき、カミタマンが振り向くと口笛を吹いて知らんぷりをする。がつがつ食べてむせるカミタマン。
男「どうしました?」
カミタマン「お前なんかにやんないぞ」
男「違うんです、違うんです」
カミタマン「嘘だ。お前はこのお菓子を狙ってるんだろう!」
男「実は、私も神さまなんです」
「何!」と驚いて振り向くカミタマン。バス停で4つくらい行ったところの神社で神さまをやっているという山田(鈴政)は名刺を差し出す。
食卓についたパパ(石井喧一)、ママ(大橋恵里子)、伸介、マリ(林美穂)。カミタマンが不在なので、ママは「もうちょっと待ちましょうか」と言う。「う、うん」と残念そうなパパ。
カミタマンと山田は回転寿司を食べていた。
山田「やっぱり神さまはああでなくっちゃ」
山田は、カミタマンの無責任さがいいのだという。
カミタマン「山田さん、あんたカミタマンになんか文句でも!?」
山田はカミタマンを賞賛。
山田「あの無責任さ、あれで子どもたちみんな満足しちゃうんだろうなあ」
カミタマン「まあ気休めってのかな」
山田「それが神さまにとっていちばん大切なことなの、気休め。それができないんだよなあ」
カミタマン「あら、どうして?」
山田「責任感ありすぎちゃって」
カミタマン「ぽげ」
神社で少年が「どうか頭がよくなりますように」と願っていた。現れる山田。
山田「はいはい、わかりましたあ。私が責任を持って頭よくします。さあ、お勉強しましょー」
山田が問題集を出すと、少年は「やだよ」と逃げ出す。
次の少年は「どうか喧嘩が強くなりますように!」。現れる山田。
山田「よーしよーし根性! 喧嘩は体を鍛えて」
次の少年も「そんなのやだよ!」と逃げ出す。
山田「ちょっとちょっとちょっと」
回転寿司屋で、お茶で酔ってくだを巻く山田。
カミタマン「あのーお茶もうやめたほうが」
山田「文句あっか」
カミタマン「山田さん」
山田「カミタマン、おれ、あんたがうらやましいよお!」
山田は泣き出し、カミタマンは慌てる。
カミタマン「ちょっとお茶飲みすぎちゃって。いやもうほんとに」
食卓では、みながカミタマンの帰りを待っていた。
パパ「ママ、もういいんじゃないか?」
マリ「パパ、でもせっかくここまで待ったんだから」
ママ「そうね」
パパは空腹でダウン。
千鳥足の山田を連れて歩くカミタマン。
カミタマン「山田さん、しっかりして。しっかり」
山田「カミタマン、もう一杯お茶飲み行こう!」
テーブルの周りに空腹で倒れているパパ、ママ、伸介、マリ。
パパ「カミタマン、まだか」
翌朝、神社で目覚めるカミタマン。
カミタマン「たしか、きのうの夜…」
昨夜、山田は「泊まっていって」とカミタマンを引き留めていた。
カミタマン「帰るよ」
神社の外では珍々亭のおかみ(柴田理恵)が賽銭箱に手を突っ込んでいた。
珍々亭「今度会ったらただじゃおかないから」
カミタマンが「神さまの悪口を言う奴はどこのどいつだ」と歩いてくる。
珍々亭「あたしゃ珍々亭つって、近所のラーメン屋だけど。何よ、あんた!」
珍々亭「山田の知り合い?」
珍々亭によると、山田はラーメン屋のつけを踏み倒して夜逃げしたのだという。「夜逃げー」と頭を回転させるカミタマン。
珍々亭「だからこうやって山田のつけ少しでも取り返そうと賽銭箱さぐってるんだけどさ、山田の野郎、お賽銭全部持って逃げやがった」
珍々亭が賽銭箱を持ち上げると、確かにからっぽ。
珍々亭「ねえ、あんたも山田の知り合いじゃあ、神さま?」
カミタマン「まあ、一応ねえ」
珍々亭「じゃ、山田のつけ代わりに返して」
カミタマン「ど、ど、どうして?」
珍々亭「山田も神さま、あんたも神さま。おんなじ神さまのよしみでいいじゃなーい?」
珍々亭がカミタマンの頭に触れると、カミタマンは「あ、ダメ。そこダメ」と悶える。次の瞬間、珍々亭はカミタマンをおかもちにぶち込もうとする。逃げるカミタマンは珍々亭にかみつく。
珍々亭「こら待てー」
カミタマン「助けてー」
茂みに逃れるカミタマンは「山田の奴、何が自分は責任感の強い神さまだ」と憤る。追ってくる珍々亭。
カミタマン「山田つかまえてこらしめてやりたいけど。ああ、そうだ!」
ベッドで寝ている伸介。ベランダから入ってきたカミタマンは起こそうとするも、吹っ飛ばされる。カミタマンは「仕方がない」と伸介をネモトマンに変身させる。だが寝ぼけているネモトマンは「爆発、ザ・ネモトマン…」と力が入らない。
ネモトマン「お休みなさい」
ベッドに戻るネモトマンにカミタマンは「何やってんだ!」。
神社で珍々亭は、まだカミタマンをさがしていた。そこへどすんと落ちてくるネモトマン。珍々亭は驚く。
カミタマン「山田のつけの分、このネモトマンを働かせろ」
ネモトマンは立ったまま寝ている。珍々亭は「何よこれ」とネモトマンをこづく。
珍々亭「うちは神さまだって正義のスーパーヒーローだって何だっていいの。働いてくれさえすりゃいいんだから。じゃ、もらってくわよ」
珍々亭は「よっこらしょ」とネモトマンをかついでいく。
カミタマン「伸介、すまん」
工事現場をとことこ歩くカミタマン。“神さま探知機”を使って、山田をさがしているのだった。
珍々亭の店で働くネモトマン。空を飛んで配達している。
探知機が反応し、カミタマンは「このへんに神さまがいる」。探知機は「オサイセン」と100円玉を投げた。やがてヘルメットをかぶった工事現場の神さま(岡田勝)が「お賽銭」と現れた。
カミタマン「このへんに、山田っていう神さま見なかった?」
工事現場の神さまは見なかったという。すると「あなた、どこ逃げたの!」という怖い声が。
工事現場の神さま「すまんすまん。取り込み中なんだ」
「あなた、いい加減にしてよ!」と、空中からなべやらおたまやらが飛んでくる。
工事現場の神さま「離婚だ離婚だ!」
夫婦喧嘩の最中らしい工事現場の神さまは、消えてしまう。
カミタマン「しょうがない、田んぼの神さまのところにでも聞きに行くか」
カミタマンが田んぼに来ると、田んぼの神さま(石塚信之)が登場。
田んぼの神さま「すらねえなあ」
カミタマン「そう」
田んぼの神さま「生ゴミんとこでも行ってみな」
田んぼの神さまは、ごはんをかきこみながら消える。
ゴミ捨て場で探知機が「オサイセン」とお賽銭を放る。するとラジカセが動き出した。
ラジカセ「ただいま生ゴミの神は、伊豆の温泉で静養中です」
カミタマン「ぽげ」
ふらふらの状態で、珍々亭の店舗へ戻ってくるネモトマン。また指示を受けて出前に行こうとするが、空を飛べずに歩いて行く。
珍々亭「いやいや、実によく働く正義のスーパーヒーローだ」
海の近くへ来たカミタマン。
カミタマン「あーあ、もうこんなところまで来てしまった。山田の奴、どこにいるんだ」
すると探知機が反応。
カミタマン「こんなところに神さまが?」
だがお賽銭を投げても誰も現れない。カミタマンが「おかしいな」とつぶやくと、口笛を吹きながら山田が歩いてきた。山田は釣り竿を持って、カミタマンに気がつかないそぶりで行き、釣りを始める。
カミタマン「山田の野郎」
カミタマンは山田に体当たり。
カミタマン「お前なんか神さまじゃない」
だが山田は神さまをやめたのだという。
山田「おれ、神さまやめて、あの子犬の親になるんだ」
驚くカミタマン。
山田「あの子犬、おれの神社に来て」
夜の神社で、子犬が首を吊ろうとしていた。山田は止めに入る。
山田「早まっちゃダメだぞ」
子犬を撫でる山田。
山田「聞けばこいつの両親、交通事故で死んだっていうじゃないか」
カミタマン「それとラーメン屋のつけ払わないのは」
山田「おれほら、責任感あるだろ」
怒るカミタマンだが、
山田「カミタマン、おれいま感動的してるんだぜ」
カミタマン「それは判ってるけど」
山田「神さまやめて子犬の両親になるのと、神さまやってラーメン屋のつけ払うのと、どっちが感動的だと思う?」
「犬っていいよな」と言い出す山田。
山田「犬っておれたち神さまに絶対願いごとしたり頼んだりしないもんな」
カミタマンは言葉に窮する。
山田「おれもう、頼まれたり願われたりする人生飽きた」
草むらを歩いていくカミタマン。
カミタマン「お前はもう神さまじゃないよ。この神さま探知機に引っかからなかったもん」
カミタマンは探知機を捨てて、歩み去っていく。
公園へ戻ってきたカミタマン。また子どもたちが「カミタマーン」「また願いごとが」と集まってきた。またお供えものを渡されて「どうか頭がよくなりますように」「女の子にもてますように」。
カミタマン「そんなに頭がよくなりたければ勉強しろ。女の子にもてたければ優しくなれ」
カミタマンはお供えものを次々と蹴飛ばし、投げ返す。そこへ「カミタマーン」とネモトマンが走ってきた。
ネモトマン「ラーメン屋のおばさんが!」
珍々亭が追っかけてきた。
珍々亭「正義のスーパーヒーローさん。お願いだから、うちで働いてちょうだい!」
ネモトマン「おれやだよ」
「ちょっと待って」「あんたいてくれると助かるのよ」と珍々亭はネモトマンを追い回す。カミタマンが「カミタ」と唱えると、ネモトマンは伸介の姿に戻っていた。
珍々亭「正義どこいった。ああっ」
珍々亭はカミタマンを見つけると、今度は「あんたが働いてちょうだい」「ただ食いしていいわけないでしょ」とカミタマンを追っかけ始めた。
【感想】
今回は、人間なのか正体不明のとらばる聖子、タタリの怪人タタリを除けば初めて?他の神さまが登場(既にカミタマンの両親が出ていたが)。
だがゲストとして登場する山田は自ら神さまを降りる設定で、シリーズの初期にやるとは思えないような異色の内容。しかしその人物像を深めるわけでもなく、ただ犬の世話をするために神さまをやめるというワンアイディアを淡々と描くのが浦沢義雄脚本らしい。
山田は願いごとをされるのが厭になったとこぼしているが、不思議コメディーシリーズの『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第18話「さすらいの除夜の鐘」には除夜の鐘が叩かれつづけて耐えられなくなるという展開があった。
山田をはじめ他の神々はみな特殊メイクなどのない普通の役者だけれども、今回に限らず不コメに登場する神さまは概ね役者が演じていた。『バッテンロボ丸』(1982)の第10話「神様がスーパーカーでやってくる」、『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)の第17話「ミカンは総合芸術フルーツです」、『美少女仮面ポワトリン』(1990)の神さま(鈴木清順)、『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)のお酉さま(麿赤児)などが挙げられるが、クリーチャーのカミタマンも山田たちも同じ種族のような扱いであるので、その不統一ぶりは面白い。神様ではないけれども『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)のナイルな悪魔が回によって役者の場合も人形の場合もあり、今回はその先鞭をつけた感が。
本作に限らず不コメの神さまたちは夫婦げんかしたりギャンブルにはまったりと毎度なかなかのダメっぷりを発揮している。神さまも人間と同じだと意味で80年代的な“相対化”を象徴しているのかもしれない。
一方で工事現場や田んぼ、ゴミ捨て場にそれぞれに人知れず神様がいて、平然と役者が演じているというのは幻想味もある。ちなみに『ナイルなトトメス』の第9話「いけない雛祭り」では海のお大尽(東野英心)という謎の存在が登場していて、同じ系譜かなと想像した。
ネモトマンが中華料理の岡持ちを抱えて空飛ぶシーンは笑ってしまうが、浦沢脚本における岡持ちの存在は『がんばれいわ!ロボコン』(2020)まで一貫している。
山田役はWAHAHA本舗に所属する鈴政(現:すずまさ)氏。舞台・バラエティー番組の出演や放送作家としての仕事などさまざまな活動をされているが、特撮ドラマは珍しいかもしれない。
そして珍々亭のおかみさん役は、本作以後の不コメ作品皆勤の柴田理恵氏。鈴政氏と同じくWAHAHA本舗で、脚本の浦沢義雄先生が主宰の喰始氏とかねてから面識があったので、その関係の起用であろうか(浦沢先生や坂本太郎監督は、初期からWAHAHA本舗の公演を見に行っていたという)。説明が不要なほど著名な柴田氏だけれども、不コメとの相性のよさは抜群で、レギュラー・準レギュラー・ゲストとして90年代まで名演・怪演を披露している。
工事現場の神様役は、大野剣友会の岡田勝氏。不コメ作品の多くでアクション・コーディネーターを務めるかたわら、俳優としても出演。『ネムリン』の第19話「激突!イビキミサイル」では工事現場のおじさん役で怖かったが、今回はコミカルな役どころ(工事現場関係は同じだが)。これ以後の岡田氏は『ポワトリン』『トトメス』などで愉快な演技を見せている。
田んぼの神様役は、同じく大野剣友会の石塚信之氏。『ペットントン』(1983)でギャングやタイムスリップさせる謎の男を演じたほか、『ロボ丸』や『ネムリン』でレギュラーのスーツアクターなどを務めている。
ロケ地としては赤塚新町公園がまた登場。
寿司屋は元禄寿司の浜松町店。
神社は『ロボット8ちゃん』(1981)の第51話「夕焼け小焼けのバラバラマン」、『ペットントン』の第36話「豆腐がおこった日」、『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)の第17話「危険なサイクリング」などに使われている練馬区の八坂神社。
後半の海辺のシーンは台場公園で『8ちゃん』の最終話「さらば!またあう日まで」、『ペットントン』の第28話「宇宙から来たオミッチャン」、『もりもりぼっくん』(1986)の第33話「バイキングの贈り物」、『覇悪怒組』の第42話「ヤスコの冒険」などに多数出てくる。