第12話「ノロイ君都会へ」(1985年6月23日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫)
【ストーリー】
松任谷由実「雨に消えたジョガー」が流れる朝の住宅街。「♪うつむいたランナーがあらわれる」のくだりで“闘魂”のはちまきをしたタタリ(花房徹)が現れる。新聞配達をしているのだった。
タタリ「頑張るぞー」
根本家では、パパ(石井喧一)とママ(大橋恵里子)がリュックや水筒などを愉しげに準備中。眠そうなカミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。パパとママは抜き足差し足で出かける。
カミタマン「子どもたちにないしょで、筑波の科学万博に行くなんてさ」
パパとママは「しー」。
雑貨屋のおばさん(谷本小代子)がシャッターを開けると、タタリが駆けてくる。
タタリ「おはようございます」
タタリが新聞を渡して行こうとすると、
おばさん「まだアパート見つからないのかい」
「疲れてるもんですから」とふらつくタタリ。
おばさん「2、3日だって言うからうちの縁の下貸してやったのに、なんだかんだでもう2週間になるんだよ」
縁の下に入って行くタタリ。
食卓でごはんを食べている伸介(岩瀬威司)とマリ(林美穂)。
マリ「でも変ね。パパとママ、こんなに早く出て行くなんて」
伸介「いったいどこ行ったんだろ」
マリが「まさか科学万博に」と言うとカミタマンは「どき!」。
伸介「ふふ、帰りにお土産買ってくるから、マリや伸介にはないしょね」
カミタマンはまた「どき!」。
伸介「お前、何驚いてんだよ」
カミタマンは困惑。
カミタマン「言えない、言えない。パパとママ、科学万博の招待券2枚もらったから、子どもをおいてないしょで行ったなんて言えねえ言えねえ」
伸介「カミタマン、いまなんか言った?」
カミタマン「ああ、いやなんも」
雑貨屋のおばさんが電話に出る。
おばさん「たたり? あ、タタリさん。はい」
おばさんが洗濯もの叩きで床を叩くと、床下からタタリが出てくる。受話器を差し出すおばさん。
タタリ「これ、ちょっと煮てみたものですから、お口に合いましたらどうぞ。はい、タタリですが。え、お兄ちゃん」
変な男が電話ボックスからかけている。タタリの兄・ノロイ(坂本あきら)だった。
ノロイ「田舎からいま筑波の科学万博見てきたところだ。ついでだから、お前んとこ行くぞ」
驚くタタリ。
タタリ「え、うちに来る!? 」
鍋の煮物を食べているおばさんはぎろり。
タタリ「いやいやいや、別に困りはしないけど。ええ、うん、元気元気。元気だけど。ああ、そう。ノロイあんちゃんも元気! 元気ならそのまま田舎へ帰ったほうが」
ノロイは「弟のくせして」と一喝。
迎えに行くことになったタタリは「こりゃ大変なことになったぞ」とそのまま床下へ。
おばさん「こら! 礼儀知らずが」
タタリは横の靴箱?から外へ出ていく。
「困った困った」「手紙って嘘つきやすんだよなあ」とタタリが歩いていると、カミタマンとばったり。カミタマンは「よう、タタリ!」と声をかけるも、気づかないタタリはカミタマンを蹴飛ばす。
タタリ「カミタマン。お願い、助けて。ね、お願い」
カミタマン「わあ、やめろよ。タタリ、気持ち悪いな」
タタリは「氷いちご、おごるから」と迫る。氷いちごを思い浮かべたカミタマンは「どうしたの、タタリちゃん」。
カミタマン「カミタマン、神さまっち。タタリは神さまの子分っち」
タタリ「そう、タタリとは本来神さまにお仕えし、神さまをバカにする者をおたたりする者のこと」
カミタマン「そのタタリちゃんが困ってるっち。カミタマン、何でも相談に乗るっちよ」
「実はね」と話したタタリにカミタマンは「なーんだ」。
根本家の食卓に来たタタリ。
タタリ「いいのか? たった氷いちご1杯でここ使っちゃって」
カミタマン「いいっていいって。パパとママは出かけちゃってるっち。マリと伸介は遊びに行っていないっち」
風呂敷づつみを持って、バスから降りたノロイ。「あんちゃーん」と手を振って来るタタリ。ノロイとタタリは体をぶつけ合うポーズで、再会を喜び合う。
居間でカミタマンは「氷いちご氷いちご」と掃除機をかけていた。「きたないところだけど上がって上がって」とタタリがノロイを迎え入れる。
カミタマン「きたないところ? まいっか。おれんちでもないし」
ノロイは「立派なマイホームじゃねえか」と感嘆。
タタリ「いやいや、大したことないよ。ほら、まだローンも残ってるしね」
得意げに謙遜してみせるタタリ。ノロイは涙ぐむ。
ノロイ「タタリ、おめえ立派なタタリになったなあ」
ノロイは大麻を振って「ノロイー」。岩が出てきて、タタリの頭にぶつかる。笑顔のタタリ。タタリも「おたたりー」と言うと鍋が落ちてくる。ふたりは体をぶつけ合うポーズで歓喜する。
カミタマン「変な兄弟」
ノロイは「何だこいつは」と驚く。
タタリ「いまおれがお仕えしている神さま、カミタマン」
ノロイ「これはこれはおみそれしました。私は人の呪いごとを神に代わってやるノロイです。いつも愚かな弟がお世話になりやして」
カミタマン「いやあなんのなんの」
そこへマリが帰宅。
マリ「何なの、あんたたち」
ノロイ「タタリ! いつの間に結婚を!!」
タタリは「違うんだよ」と慌てる。
マリ「カミタマン、何なのこのバカ」
カミタマンもパニック。
タタリ「この子はタタリの飼ってる人間」
マリ「飼ってる人間!?」
タタリ「タタリのペット」
「ペット?」と怒るマリ。ノロイはマリの髪をいじったりし始め、マリは「やめて!」。
タタリ「カミタマン、氷いちごにアイスクリームつけるから」
アイスクリームのついた氷いちごを思い浮かべるカミタマン。カミタマンはマリの口にハンカチを突っ込んで黙らせた。
ノロイ「タタリ、おめえ人間をペットにするなんて大した出世だ」
ノロイ「かわゆくない」
タタリは、ノロイがこれ以上家にいると面倒なので東京見物に連れ出せと言う。
タタリ「氷クリームいちごにパイナップルや桃やみかんつけて、氷クリームいちごフルーツ・ア・ラ・モードにするからさ」
喜ぶカミタマンは「東京見物、行こうっち!」。
新宿に来たノロイとカミタマン。吉幾三「おら東京さ行くだ」の流れる中、ノロイは「ここが新宿か」と喜ぶ。
つづいて原宿で、街や道ゆく女性の写真を撮るノロイ。
カミタマン「田舎者丸出しで写しまくっちゃってさ」
口にハンカチを入れられて椅子に縛られているマリ。タタリは「このままあんちゃん、田舎に帰ってくれればなあ」と嘆息。
タタリ「それにしてもノロイのあんちゃん、どうして突然おれに会いに来たんだろう。うーん、あんなに東京嫌いのあんちゃんがなあ」
田舎でノロイとタタリはつかみ合う。
タタリ「違うんだよ、あんちゃん」
ノロイ「お前なんか東京行って死んじゃえ」
ノロイはタタリを殴り倒す。タタリは「あんちゃん、ごめんよ」と去っていく。
ノロイ「タタリのバカ野郎! おめえなんかにこの山や畑や田んぼ、ひとつもやんねえ」
カミタマン「え、田舎の財産全部失った!?」
ノロイ「全く、笑っちゃうよ。全部ギャンブル、田舎競馬でパー」
哄笑するノロイ。
ノロイ「まあしばらくはタタリのとこにでもやっかいになって」
カミタマン「え」
ノロイ「あれだけ広い家だ。ま、おれひとりぐらい何とかなるだろう」
ノロイは「おれも東京でやるぞー」と意気盛んに走っていく。
カミタマン「こりゃあ大変だ」
寝ているタタリ。カミタマンが「大変だ」と帰宅すると、縛られているマリのハンカチが落ちそうになっていたので、カミタマンはさらに口に押し込む。
カミタマンはタタリを起こして、ノロイが財産を失ってタタリといっしょに住むつもりだと明かす。驚くタタリ。
家の表ではノロイがメガフォンで叫んでいた。
ノロイ「きょうからこの町内、この家にやっかいになります。不束な田舎者ですがよろしくお願いします。タタリの兄、ノロイです」
出てきて止めるタタリ。
“エキマエストア”の大きな看板の前にいるふたり。
ノロイ「じゃあ、あの家は」
タタリ「そうだよ、あんちゃん。東京はそんなに甘いところじゃないんだよ」
ノロイ「タタリ、お前はよくもあんちゃんをだましたな。この野郎!!」
ノロイはタタリにつかみかかる。
タタリ「あんちゃんだって田舎の財産なくしたくせに。あの山や畑や田んぼは死んだ父ちゃんや母ちゃんが苦労して。それを…」
対峙する兄弟。
「ただいま」と伸介が帰宅。マリは縛られていて、伸介は驚く。
鍋を出したり岩を出したりして、争うノロイとタタリ。タタリは「かくなる上は」と巨大入れ歯で攻撃。ノロイもしめ縄の岩で応戦。カミタマンは「ふたりともやめろよ」と止める。
マリは怒る。
マリ「ほんと頭きちゃう、カミタマンの奴」
伸介は「お兄ちゃんがカミタマンをこらしめてやる。それまでの辛抱だ」とハンカチをマリの口に詰め込んで行ってしまう。
ノロイとタタリの戦いはつづく、ノロイの岩によってタタリの入れ歯の歯が欠けてしまう。そこへ伸介が「ぼくをネモトマンにしろ」とステッキを奪う。伸介は自ら呪文を唱えて変身するが、ヘルメットはずれて衣装もぐちゃぐちゃ。
カミタマン「自分でやるからそういうことになるんだ、もう」
ネモトマンは前が見えず「どっちだ」と、兄弟喧嘩のふたりに体当たり。ノロイとタタリは「あああ」と、いかにも破壊してくれと言わんばかりに設置してあった“エキマエストア”の看板に突っ込む。喧嘩はストップ。
カミタマン「ネモトマンが初めて事件を解決した」
ジュースを飲んでいるマリ。
マリ「へえ。じゃああの人、タタリのお兄さんだったの」
伸介「そうなんだって。かわいそうに。田舎に帰るらしいよ」
マリ「そう」
自分には田舎しかないという。
カミタマン「帰っても、家もないんだろ」
ノロイ「まあ、田舎は東京と違って食べていくくらい何とかなるよ」
カミタマンに餞別を渡して、バスに乗るノロイ。筑波万博のお土産だった。
カミタマン「やっぱりタタリの奴、来なかった。お」
歩道橋でタタリが手を振っていた。
タタリ「あんちゃん、達者でな」
涙を流すカミタマン。
夕暮れどきの食卓。
カミタマン「感動しちゃったっち」
マリ「あ、そう」
伸介「へえ、これがノロイのお土産」
嬉しげなマリと伸介。カミタマンは「美しい兄弟愛」と感嘆。やがてパパとママが帰宅。
マリ「あれ」
パパとママのお土産も、同じ筑波万博のものだった。
マリ「ということは」
伸介「パパとママは万博に」
怒って猛抗議する伸介とマリ。
カミタマン「アホなパパとママだっち」
【感想】
前回の第11話も「ブラザーズ」と称されていたけれども、今回はタタリの実兄が登場するという兄弟話。前回は厳密には親族でなく、ただ似ている怪人同士が争っていただけなのだが、兄弟ねたが2話連続というのも妙な気がする。
不思議コメディーシリーズでは『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第10話「バス停くん田舎へ帰る」や『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)の第38話「笹岡さんはおすもうさん」など田舎者(田舎無生物)が東京に出てきて…という話がときたまある。『トトメス』38話は田舎の青年が東京に来て結局帰るという筋立てで、今回もそのバリエーションと言えよう(最後にバスで帰るのも同様)。
タタリは第4話で木から生まれたはずだけれども、今回は兄と揉めて東京へ出てきたことになっている(上京後に木に住みついたのかもしれない)。人外の者がギャンブルで財産を失ったというのも、理解を絶する設定ではある。
人間をペットにするという発想は『トトメス』の第40話「ペットの悪魔」にて、より本格的に描かれた。
筑波万博ねたはいかにも万博が多数開催されていた80年代らしいが、劇中のお土産などの物品はすべて本物だろう。「宇宙人が新宿駅からJRで宇宙へ帰る」というようにフィクショナルな存在と現実の事物とを合体させるのだが浦沢義雄流だけれども、今回はパパとママが行くというだけの言及にとどまった。
『カミタマン』は『ネムリン』の自宅セットが模様替えして使われており、『ネムリン』の第8話「恐怖のお見合い騒動!」てママの実家が金持ちで援助してもらって立派な家を建てたことになっているが、『カミタマン』の根本家が「立派なマイホーム」である理由は語られていないような…。
大井利夫演出はよく長回しを用いるが、今回も食卓の場面では頻出。特にノロイがカミタマンに挨拶しているところへマリが帰宅して入ってくるくだりはなかなかに長く『カミタマン』の監督陣の中でも特徴的。80年代は相米慎二監督をはじめロングの長回し映像の映画作品が目立っていて、その影響もあったのかもしれない
タタリと会うシーンでは、こけたカミタマンの主観で、タタリを見上げるカットがあってユニーク。
タタリ役の花房徹氏はかなり出ずっぱりで頑張っている。ノロイをだましている際に慌てるなどの顔芸が、さりげなくうまい。ノロイとの喧嘩ではカミタマンが止めに入っているという設定なので、花房氏がカミタマンを腰にくっつけて乱闘し、そのさまがロングで撮られている。
兄・ノロイ役の坂本あきら氏は、東京ヴォードヴィルショーに当時在籍していた(同じヴォードヴィルの石井喧一氏とからむシーンはない)。不コメでは『ロボット8ちゃん』(1981)の第50話「チビッ子忍者だドロロンパ」、『ネムリン』の第18話「さすらいの除夜の鐘」、『ポワトリン』の第22話「アパレラ公国の王子」などに出演している。『ネムリン』第18話での熱演は特に印象深い。
おばさん役の谷本小代子氏は、他に映画『五番町夕霧楼』(1963)、テレビ『がんばれ!ロボコン』(1974)の第1話や『ザ・スーパーガール』(1980)、『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』(1986)など東映作品に多数出演。 特に『ザ・スーパーガール』は『カミタマン』とスタッフが重なっている部分もあり、その流れでの起用かもしれない。