第5話「夢のカミタン島ツアー」(1985年5月5日放送 脚本:寺田憲史 監督:大井利夫)
【ストーリー】
街路をすたすた歩くカミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。
カミタマン「全く、お弁当ぐらい忘れるなっていうんだよな。パパしゃんも」
カミタマンは“読フジ広告社”に入って行く。
社内でパパ(石井喧一)が課長(チャップ)に怒られていた。
課長「いいかね、根本くん。こんな企画のツアーでこの営業所が成り立っていくとでも思っとるのかね! ええっ!?」
パパ「ごもっともで…」
カミタマンは「見たくないもの見ちゃったなあ」と顔をそむける。
公園で弁当を食べるパパとカミタマン。
パパ「受けると思ったんだけどなあ。ほんわりとあたたかく」
カミタマン「はあ」
パパ「のんびりムード満点」
カミタマン「はあ」
パパ「しかも格安料金」
浪曲の流れる中、銭湯で老人たちと浴槽に浸かっているパパ。
パパ「はい、お次は三丁目の松ノ湯さんへご案内いたしまーす!」
“町内ご隠居銭湯ツアー”と書かれた手ぬぐいを掲げるパパ。
カミタマンは「ぽげ!そんなもん、儲かるわけないっしょ」と呆れる。「やっぱり」とうなだれるパパ。食も進まない。
カミタマン「落ち込んでるんだなあ」
カミタマンはパパのポケットからタバコを取り出し「まあ一服しなよ」。
パパ「今度こそ禁煙しようと思ってるんだ」
カミタマン「次からにすればいいっしょ」
パパ「ま、それもそうだな!」
カミタマンが「カミター」とステッキを振ると、タバコに火がつく。
カミタマン「よくこうやって父ちゃんのキセルに火つけさせられたな」
パパ「カミタン島のか?」
カミタマン「ああ、南国のとても綺麗なあたたかい島さ」
パパは「そうだ、こいつはいけるぞ」と猛然と弁当をかきこむ。
根本家で「ええっ、カミタン島ツアー!?」と驚く伸介(岩瀬威司)とマリ(林美穂)。
パパ「いいか、キャッチフレーズはこうだ。少年よ」
伸介「はい!」
パパ「少女よ」
マリ「はい!」
パパ「夢を。冒険を。南海の孤島・カミタン島で、神さまを見つけ出そう!」
マリ「いまどき流行んないコピーね」
3人はテーブルの周囲をぐるぐる回る。
パパ「そこには自称神さまという一族、カミタン族がきみたちのおいでを待っているんだ!」
「どうもひっかかるなあ」とカミタマン。パパは、伸介たちもポスターに出すのだという。
パパ「少ない予算でビッグなツアー、これがわが社のモットーだからね」
マリ「そうそう、サラリーマンの子ってこれで結構大変なのよね」
「おーおおー」とターザンのような叫びが。探検隊の格好をしたママ(大橋恵里子)だった。
ママ「あなた、行きましょう」
無闇にテンションの高いママに、みなは呆れる。
遊園地?へやって来たみなは、クルーズに繰り出す。
マリ「これでカミタマンが海に流されてきた理由が判ったわね」
カミタマン「あ?どういうことだよ」
マリ「だって、こんな綺麗なところ、わざわざ自分から飛び出してくるわけないじゃない?」
カミタマン「え、ド・ドキ」
伸介「言えてる」
ママ「やっぱパパとママに追い出されたんだ」
「違うわい!」とカミタマンは行ってしまう。
カミタマンはひとり、風景を眺め、木の幹をさする。鳥がいるが、そこへ「このばかたれが!」と男性の声(増岡弘)がとどろく。
カミタマン「父ちゃん!?」
羽の手入れをする鳥。声はさらに「悪さばっかりしおったからに、全然進歩しとらんな。わしはお前がどこで何してようとお見通しだ。まだまだカミタン島には帰れんぞ」と響く。
カミタマン「父ちゃん!」
すると今度は木の隙間から光が差し込み、女性の声(坂井寿美江)が。
カミタマン「母ちゃん!?」
女性の声は「父ちゃんはあんなこと言うとるがな、本当はお前が1日も早く一人前の神さまになって帰ってくる日を、首を長—くして待っているんだよ」と告げる。カミタマンは「母ちゃん、待って」と追いすがるが、野原でこける。そこへ伸介が。
伸介「何やってんだよ」
カミタマン「うっさいな。カミタン島じゃこうやっていも掘って遊んでたんだい」
涙を流すカミタマン。伸介は思わず見つめる。
門の前に集まる4人。スタイリストとカメラマンが来るのだという。だが「お待たせしました」とワゴン車で現れたのは、とらばる聖子(小出綾女)だった。
聖子「あれえ」
ママ「今度はスタイリストさん?」
聖子「兼カメラマン。よろしく」
池をバックにサバイバルな格好にされた伸介とマリ。
伸介「まじでこのかっこでやるの」
マリ「お友だちに石投げられちゃうよ」
カミタマンは頭の上に輪っかを、背中に羽根をつけられた。
聖子「しょうがないでしょ。あんたが神聖なイメージをぶち壊す風袋してるからいけないのよ」
カミタマン「ほげー」
伸介「まあいいじゃんか、カミタマン。そういうかっこしてると何となく尊敬したくなっちゃうから不思議だよ。なあ、マリ」
「チャコの海岸物語」をバックに撮影開始。椰子の木の上のカミタマン。その周りを駆け回る伸介とマリ、ママ。3人は天使みたいなカミタマンをつかまえようとして、その光景を聖子が撮っていく。
聖子が池に落ちそうになり、パパが抱き留める。だがママが「あなた!」と呼ぶとパパは「はい」と振り向き、聖子は池にはまる。笑う伸介たち。
聖子「笑うな!」
会社でパパは、伸介たちの写真を課長に見せていた。
課長「ほうほうほう、幻のカミタン島。冒険の旅ねえ」
パパ「どうです、課長? これならビッグ企画になりますよ〜」
課長は「乗ったよ、根本くん! さっそくキャンペーンを張ってくれたまえ!」と上機嫌。見ているカミタマン。
パパはトラックの上でマイクを握り、団地で宣伝に努める。
パパ「神秘、神秘のカミタン島ツアー。この夏、わが読フジ旅行社がお送りするビッグ企画。カミタン島ツアーでございます」
ママと伸介、マリも「アロハ〜」とポーズをとって、チラシを配る。
やがてパパとマリとママは激しく踊り出し、伸介はため息。陰でカミタマンは「いったいカミタン島を何だと思ってるんじゃ」と憤然。
ママ「伸介、どうしたの」
伸介「いくらなんでもぼく」
ママ「伸介、パパの成功があってこそ、あなたの幸せや家族全員の幸せにつながるのよ。判るわね」
伸介「ぼく、間違ってた。パパが毎日家族のために働いているのに、ぼく家族の大切さを見失ってたよ」
パパは「改めて伸介を迎えようじゃないか」と言って、4人は激しく踊り出す。
カミタマン「家族…」
カミタマンは父ちゃんと母ちゃんに思いを馳せる。輪っかと羽根が地面に落ちた。
夜になって、食卓にカミタマンの姿がない。そこへ「カミタマンいますか?」と横山(末松芳隆)の声が。
伸介「カミタマンにラジカセを貸した!?」
横山「ええ。夕方、公園で波の音を流しながら勉強してたんですよ。あれ、結構集中力養うのにいいBGMなんです。そしたら」
公園でマンガを読んでいる横山。「カミターン」の声とともに、ラジカセが浮かび上がる。
カミタマン「ちょっとこれ貸してな。な、な、いいっしょ?」
横山「とまあ、いつもより割とマジふうに言うものですから」
伸介は「そうか、カミタマンの奴」とつぶやく。カミタマンの涙を思い出していた。
伸介「カミタマンの奴、ホームシックにかかったんじゃないかな」
伸介、パパ、ママはあちこちをさがしていた。玄関先で待つマリ。
やがて3人とも見つけられずに帰ってくる。
マリ「まさかカミタン島に黙って帰っちゃったんじゃ」
ママ「帰れるくらいなら、ホームシックになんかかかんないんじゃない?」
うなずくパパ。そこへ「石焼ーきいも」と焼きいもの屋台を引いたとらばる聖子が。
聖子「パパちゃん、2千円」
パパ「それ、どういうこと?」
聖子「うん。カミタマンが、お金はパパちゃんに請求しろって」
ラジカセを携えたカミタマンは「それくらいモデルのギャラとして出してくれるかんね」と、焼きいもをほおばっていた。
カミタマン「なあ、写真撮ったところってどう行きゃいいんだ?」
4人は駆け出す。
聖子「ちょっと、お金! お金!」
伸介たちは、撮影した遊園地へまた来て「カミタマーン」とさがす。あたりは夜でひと気もない。
カミタマンはラジカセの横で眠っていた。4人は駆け寄る。
カミタマン「もう食えないってば、母ちゃん…」
ベッドで爆睡していたカミタマンは、朝になって目ざめる。玄関から課長の声が聞こえた。課長は部屋へ乗り込んでくる。
課長「お前な、本社で調べたんだけどな、カミタン島なんてどこさがしたってないぞ!」
あわてるパパ。
カミタマン「そうだ、おらっちの島は人間には見えないんだった」
怒った課長はバットを振り回す。
課長「お前のおかげでな、本社でお偉いさんに怒られたんだぞ」
パパは「まあまあ」と止めに入るも、課長に「地方送りだぞ!」と言われ、パパもカミタマンをつかまえようとする。
マリ「私絶対、サラリーマンのお嫁さん厭!」
カミタマンはステッキで、バットを巨大グローブに変えた。押し潰されたパパと課長はペラペラに。ママと伸介、マリはペラペラの課長を踏みつけて、やはりペラペラのパパを抱き上げる。
ママ「あなた、こんなにされちゃって」
伸介「カミタマン!」
カミタマン「あり、ちょっとやり過ぎたかな」
怒るママと伸介、マリ。
【感想】
カミタン島が本格的に?言及されるエピソード。2回連続で準レギュラーの登場回だったのに対し、今回はレギュラーの面々を中心にドラマが展開される。
根本家の家族関係、カミタマンのホームシック、課長などさまざまな要素を盛り込んでみたはいいけれども、うまくさばききれなかったようで、全般に散漫な出来になってしまった。
ママが「こんな綺麗なところ、わざわざ自分から飛び出してくるわけないじゃない?」と言っているゆえ、初見の筆者はてっきり本当のカミタン島に押しかけたのかと早合点したのだが、どうも近場の遊園地をカミタン島に見立てて宣材写真を撮るという腹だったらしい。
カミタン島は南の設定であるので、みな南国ふうの衣装を着ているけれども、撮影は早春でちぐはぐな感は否めない。
パパ役の石井喧一氏は不思議コメディーシリーズの『ペットントン』(1983)では偉そうな上司役だったのが、一転して怒られる役どころ。どやされたり、調子づいたり、カミタマンを優しく見つめたりするあたり、控えめに達者な演技で感嘆させられた。石井氏は東京ヴォードヴィルショーきっての怪優として知られるが、このように一歩引くのも実にうまい。
ラストでパパと課長がペラペラにされてしまうシーンは、同時期の『TVオバケてれもんじゃ』(1985)の第9話「逃げろや逃げろ!! ヒーローはつらい」にも同様の展開がありイラストを用いていたけれども、今回はパパと課長の写真で処理していた。
BGMはサザンオールスターズの「チャコの海岸物語」と「いとしのエリー」が流れ、同じ年の『ふぞろいの林檎たちⅡ』(1985)を彷彿とさせた。
みなが主人公を怒るシーンで終わるところなど、同じ寺田憲史脚本 × 大井利夫監督の『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第28話「決定!街の大スター」に酷似している(ちなみに課長役のチャップ氏も、同作にゲスト出演していた)。
ぐだぐだな展開になってしまっている今回でも、後半の横山の役割などレギュラー陣を有効に活用する寺田脚本の手腕は確かに際立っている。
とらばる聖子も自然な形で使われており、聖子を創案したのはおそらく寺田先生であるだけに、扱いの巧みさには感心させられた。
大井監督は『ペットントン』第44話にて助監督から監督に昇進。『どきんちょ!ネムリン』では助監督と平行して監督を手がけている。『カミタマン』でも優れた仕事を遺しているけれども、今回は演出のめりはりのなさが目立っている。
ただし序盤の居間でのパパと伸介、マリのシーンは長回しで撮られており、ある種の意地を感じさせた(『ネムリン』第27話「イビキのガイコツ作戦」など、大井演出の長回しは印象的)。
課長役のチャップ氏は、先述の通り『どきんちょ!ネムリン』の第28話に出演。詳しい経歴は不明だが、この時代の月曜ドラマランドにて数本見かけたことがあった。
カミタマンのパパの声は『サザエさん』(1969〜)のマスオさん役を長年演じた大ベテラン・増岡弘氏。特撮ドラマの怪人役や幹部役、『ウルトラマンレオ』(1975)の第50話のウルトラマンキング役などのキャリアはあるが、不コメにもわずかに出ていたとは少々驚いた。
“偽カミタン島” のロケ地は、横浜ドリームランド。不コメでは『美少女仮面ポワトリン』(1990)や『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(1993)のタイトルバックなどでも使われている。