
【ストーリー】
暮れも押し迫り、「お正月」の曲が流れる。根本家の前で横山(末松芳隆)が待つ。
横山「伸介ー」
伸介が出て来て紙の門松を貼る。サッカーに出かける伸介(岩瀬威司)と横山(末松芳隆)。
伸介の部屋でパパ(石井愃一)が「いや、10分でいいんだ」とゲーム機を持って懇願。マンガを読んでいたカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)は「ほんとに10分だからね」と渋々、承諾。
ママ(大橋恵里子)とマリ(林美穂)は居間で重箱やお椀を磨く。
マリ「ママ毎年こんなことしてたの」
ママ「そうよ」
マリ「やだあ。私も主婦になったら、毎年。ああ絶望。めまいがするわ」
マリは重箱を振り上げる。
ママ「ちょっとマリ、気をつけて。このお重、高いんだから」
パパは嬉々とゲーム機を持って来る。
カミタマン「会社が休みになるとすぐこれなんだから。息子のコンピューターゲームに夢中になる親なんて」
パパはゲームを始まる。
ママ「ほんとほんと。お隣の石川さんのご主人なんてさっさと大掃除済ませて、お正月は温泉ですって!」
パパは「きょうは30000点を目指すぞ」と聞いていない。ママは「佐々木さんの旦那さんなんかお掃除はもちろん、お節料理の用意まで!」「下山さんのご主人は!」と追撃。マリは「ママよしなさい」と止める。「やった」と聞いてないパパにママは激怒。
パパ「何だうるさいな。人がせっかく10000点突破したのに」
ママは「10000点が何です!」と重箱を振り上げる。
マリ「ママ、それいちばん高いやつ!」
ママは別のお盆を持ってパパを追いかける。パパは玄関の外へ出てドアを押さえる。中からママが「開けなさい、あなた!」。
マリ「ママ、やめてよ。みっともないじゃない?」
ママ「あなた、これで済んだと思ったら大間違いよ。覚えてらっしゃい」
パパは「私が何をしたというんだ」と傲然。出てきたカミタマンは「あれじゃママが怒るのも当然」。
カミタマン「パパ、会社休みになって大掃除やる気あんの」
パパ「あんなものやんなくたって、最近の家庭は掃除機が発達してるからいつだって綺麗になってんだ」
カミタマン「じゃ、お正月料理の手伝いは?」
パパ「どうして私がきんとんつくったり、にんじん煮たりしなきゃいけないんだ」
カミタマンは「会社休みになった途端、でれっと寝てるか伸介のコンピューターゲームだもんな」と注意。
カミタマン「やっぱり戦争行ってない父親って奴は、こうも軟弱に」
パパは正月を迎えるにあたって何かしようと決意。
重箱を磨きつづけるママとマリ。
ママ「どうしてあんなのと結婚しちゃったのかしら」
マリ「そんなこといまさら言ったって」
ママ「マリ。もしも今度新しいパパができたら、あんた上手くやってく自信ある?」
マリ「ちょっとママ!」
ママ「マリはだいじょぶよね。問題は伸介か」
松飾りの店では「裏白ね。じゃあこれちょうだい」などというやり取りが。歩いてくるパパとカミタマン。パパは「昔はうちなんかこんな大きい松飾り飾って、綿の雪つけて電気ちかちかだったんだから!」と自慢。
カミタマン「そりゃクリスマスツリーでしょ」
ママ「ああ最低だったわ、こんな結婚!」
マリ「いい加減にしてくれない!?」
マリを見るママ。
マリ「ママがパパを愛してても愛してなくてもどうだっていいんだけど、少し静かにしてくれない?」
ママ「マリ、ちょっとそれどういう意味?」
マリ「意味なんてないわよ。あんた本当に少しうるさいよ」
ママが「親に向かってあんたとは」と怒ると、パパとカミタマンが帰宅。パパは表に松飾りを買ってきたと言って、紙の門松を丸める。
パパ「何きょとんとしてんの。早く見て来なさい。こんなでっかい松飾りなんだから」
ママとマリは玄関へ。クリスマスツリーがふたつ、松飾りをつけて屋外に置かれていた。驚くママとマリ。
カミタマン「これじゃびっくりするよ」
パパは「ちょっと高かったけど」と得意げ。ママはまた「あなた!」と怒鳴るが、マリが「ここは私に」。
パパ「マリ、すごいだろ?」
マリはほうきを振り上げ「もうパパなんか認知しない!」。逃げ出すパパ。
公園へ逃げて来たパパ。カミタマンが現れ、あんなのを置いたら誰だって怒るとたしなめる。
カミタマン「このカミタマンでさえ、この正月は根本家避けようと思ったもん」
しかしパパは、ママとマリが怒っても「何とかなるさ。うちには伸介という私にとって強い味方がいるんだから」と動じない。
カミタマン「そんなに自信持たないほうが」
サッカーの試合に出ている伸介。横山がボールを喰らって倒れる。パパは「大売り出し」ののぼりを振って「伸介ーファイトー」と応援。横にカミタマンがいる。伸介は「パパ」と思わず気を取られて、ボールを奪われてしまう。
横山「どうしたの、お前んちのおじさん。おれ、ああいうの親戚にいるだけで」
カミタマンはパパの応援を「伸介が傷ついちゃう」と止める。
パパ「何言ってるんだ。愛する自分の息子を精いっぱい応援してどこが悪いんだ」
「そこのおじさん」と伸介が来る。
伸介「おじさん、迷惑だから応援しないでください」
パパ「伸介」
伸介「おじさん、早く帰って帰って」
パパは怒って伸介にのぼりを振り上げるが、カミタマンがカミタンブーメランで気絶させる。
伸介「カミタマン、早く連れていけよ」
パパ「伸介、お前って奴は」
ショックを受けたパパが公園でたたずむ。何故か笑い出すパパ。カミタマンもいっしょに「アハハハ」と笑う。だがパパは笑いながら泣く。
パパ「カミタマン!」
カミタマン「パパ、よしよし」
慰めるカミタマン。
カミタマン「妻にバカにされ、娘に叱られ、息子に他人扱い受けたんだ。パパは日本一の悲劇のパパだ。さあ、その涙でこの悲劇を喜劇にしてしまおう」
泣きつづけるパパ。カミタマンは「あのうちでパパのやることはないのか」とつぶやく。そこへ「キネつきモチ承ります あら珠」というのぼり旗を掲げた自転車が通り過ぎる。
カミタマン「あった!」
和菓子屋の前で、もちつきが行われていた。
パパ「戦争に行ったこともない私にもちがつけるだろうか」
カミタマン「できる。パパは戦争に行かないかわりに、あの学校給食の脱脂粉乳で育てられた強い体があるじゃないか」
パパ「脱脂粉乳」
カミタマン「そう、パパ、思い出して!」

小学生のころのパパが「早くしてー」と給食を待っている。
カミタマンのナレーション「あれはまだ東京でオリンピックが行われる前、まだ新幹線が走る前」
「根本、うるさいぞ」と言われて、笑いが起きる。
カミタマンのナレーション「日本中の小学生はこの脱脂粉乳と呼ばれる信じられないくらいまずいミルクを学校給食で飲んでいた」
青果店の主人(鎌田功)があくびをする。工事現場で中年男性(徳田雅之)が雑誌を読んでいる。警官(小山昌幸)が交番で道を教えている。
カミタマン「あのお父さんだって」
和菓子屋の前に戻ってくるふたり。
パパ「判った。パパ、やってみる」
帰宅したパパはママとマリにもちをつくと宣言。庭からカミタマンが「準備できた」と呼ぶ。
庭でパパは準備体操。呆れたような顔のママとマリ。だがもちをつこうとした瞬間、ぎっくり腰に。
ママ「こんなことだと思った」
マリ「パパ、気持ちは判るけどもう歳なんだから」
ママとマリはおせち料理の材料を買いに出てしまう。
パパ「私の体は脱脂粉乳で鍛えたから…だ…」
パパは気を失う。伸介が「珍しいじゃん。うちでもちつきなんかかやるの」と帰宅。伸介は倒れているパパを黙って見る。カミタマンは、伸介にはまだもちつきは無理だと言う。
伸介「おれじゃ無理だけど、ネモトマンになれば可能性あるんじゃない?」
カミタマンはなるほどとうなずく。
伸介「さっきちょっとおれ、パパに言いすぎちゃったから。ここは親孝行のつもりで」
カミタマン「伸介!」
伸介「たまにはしなくっちゃ」
カミタマンは感涙。
伸介「さあ、ママやマリが帰って来ないうちに」
カミタマンはネモトマンに変身させる。
歳末でにぎわう商店街で、買い物するママとマリ。
ママ「どっちにしようか」
マリ「こっちがいいよ」
「よいしょ」「よっこらしょっと」と精力的にもちつきをするネモトマン(岩瀬威司)とカミタマン。気がついたパパは「どういうことだ」と驚く。
ネモトマン「ここは私に任せて、ゆっくり寝ていてください」
パパは涙ぐむ。
ネモトマン「どうしたんだ」
パパ「いや、ただその優しさが…。それにしても、あの伸介の奴」
見ているネモトマン。
パパ「あんなバカに育てた覚えはないんだが」
ネモトマン「あんなバカ!?」
怒るネモトマンにカミタマンは「落ち着いて」。
パパ「ネモトマンくんの爪の垢をあの大バカ息子に煎じて飲ませたい!」
カミタマンはネモトマンの口を押さえて、家の中に連れて行く。
カミタマン「ネモトマン、いまの自分の立場を」
ネモトマン「判ってるよ。でもありゃないだろ!」
ネモトマンは憤慨しつつ庭に戻る。
パパ「伸介がもう少し役に立つ奴ならば」
ネモトマン「お父さん、伸介くんは立派な少年ですよ」
パパ「伸介をご存じで?」
ネモトマンが「知るも知らないもおれが」と言いかけるとカミタマンは慌てて口をふさぐ。
パパ「伸介は立派な少年と言いましたが、それは違います。親の私が保証します。伸介ははっきり言って出来損ないです。アハハハ」
ネモトマンは怒り、カミタマンはまたネモトマンの口を押さえて、家の中に連れて行く。怒ったネモトマンは絶叫。
カミタマン「判った判った。何とかする」
踏切を渡るママとマリ。

庭でパパは縛られ、猿ぐつわをされていた。その間にもちつきをするネモトマンとカミタマン。
ママとマリは帰宅。玄関には普通の松飾りがある。
伸介とカミタマンはもちに片栗粉をまぶす。「どうしたの、このおもち」と驚くマリ。
伸介「ついたんじゃん」
ママ「まさか伸介が?」
カミタマンはパパがぎっくり腰を押さえてもちつきをしたと言う。
カミタマン「感動的だったなあ、伸介?」
伸介は黙然。
ママ「あの人にそんなパワーがあったなんて」
カミタマン「ぎっくり腰の痛みをこらえてもちをつくなんて並大抵の人間じゃできないよな、伸介?」
伸介は黙っている。カミタマンは伸介をつねる。
カミタマン「後でゲームセンター連れてってやっから」
伸介「やったー。そうそう、パパはご立派」
カミタマン「ああ?」
ママ「あなた!」
マリ「パパ!」
ママはパパとカミタマンが敢然ともちつきをする姿を想像する。
ベッドでダウンしているパパ。ママが「あなた、あたしが悪かった」と飛びつく。「パパ最高」とマリも乗っかり、パパは痛みに悶える。
伸介はゲーセンで遊んでご満悦。カミタマンは「人のおごりだと思って」。
根本家ではみんなで餅を食べる。ママとマリはパパを激賞。
パパ「どうだ伸介、パパのついたもちは?」
伸介「ふん」
パパ「伸介、お前もネモトマンのような素直な少年に」
その言葉に反応した伸介はもちを喉につまらせる。慌てる一同。
【感想】
クリスマス回の次は年末年始で(「♪もういくつ寝るとお正月」のBGMが流れていて、劇中の時間軸は年末)、パパの主役回。パパのダメ男ぶりが強調される第20話の反復のような内容で、20話ではパパがネモト仮面に扮してネモトマンと同じ画面に収まるなどの趣向があったのに比べると今回は若干インパクト不足ではあるが、面白い点は見られる。
中盤でカミタマンはパパを「戦争行ってない父親」は軟弱だと非難し、やがて「まだ東京でオリンピックが行われる前、まだ新幹線が走る前」に当時の小学生はみなまずい脱脂粉乳を学校給食で飲んで、そして大きくなったのだと解説する(この数か月後に放送された『時空戦士スピルバン』〈1986〉の第1話でも戦後史を振り返るシーンがあり、戦後40年を迎えて回顧したくなるタイミングだったかもしれない)。カミタン島から日本へ来て1年に満たないカミタマンが何で戦後世代を知っているのかと疑問は湧くけれども、それはともかく戦争を知らなくても脱脂粉乳を乗り越えた世代なのだから強いと説くのは、脚本の浦沢義雄先生(1951年生まれ)が自身と近い世代に込めたメッセージのようにも思える。「戦争を知らない子どもたち」を作詞した北山修と作曲した杉田二郎はともに1946年生まれで、パパ役の石井愃一氏も同年に生まれている。戦後すぐに生まれた「子どもたち」が本作の制作時には壮年期に達し、子どもを持ったり管理職など責任のあるポジションに就いたりするうえで自らの世代の何らかのアイデンティティが必要だったのだろうか。
またパパが家事をしなくて妻子に白眼視されるというのは、70年代とは明確に違う、新しさであろう(70年代の作品ならば家事は明確に女性の役割だと描かれていたはずで、80年代らしい斬新さである)。ただ前回ではみなでクリスマスを祝っていたのを思うと急変を感じないでもないが、終盤で急にべたべた仲良くなるのは、不コメの他の作品でのいがみ合う家族と異なる根本家の良さだと言えよう。
後半ではパパに言いすぎたということで伸介がネモトマンに変身してもちをつき、視点が伸介にさらりと移行している。第20話ではパパと伸介とが平行して描かれたのだけれども、今回は前半がパパ、後半は伸介がメインになるのは構成の妙を感じた。
演出はパパ回の第20話と同じ冨田義治監督で、前回と同様に少年時代のパパも子役に混じって石井喧一氏が演じているのだが、教室で給食の脱脂粉乳を飲む場面は1950年代の時代感を醸し出していた。今回のような地味目の回だからこそ『帰ってきたウルトラマン』(1971)なども手がけた冨田氏のしたたかな演出力が感じられる。
パパは嬉々とゲームをしたかと思ったらママとマリに怒られて悲しみに暮れ(笑いながら次第に泣き崩れるのが面白い)、やがて平気な顔で伸介の悪口を言うあたり感情が移り変わっていくけれども、石井氏の演技の説得力によって違和感はない。伸介は庭でパパの暴言に怒り、カミタマンが室内へ引っ張っていくのだが、カミタマンに連れていかれるのはつまり岩瀬威司氏のひとり芝居で、引っ張られる芝居のさりげない面白さが笑える。
八百屋の主人の鎌田功氏は『バッテンロボ丸』(1982)の第19話、『ペットントン』(1983)の第35話、『覇悪怒組』の第13話などに出演した。
工場で働いている男の徳田雅之氏は『科学戦隊ダイナマン』(1983)の第24話、『TVオバケてれもんじゃ』(1985)の第4話と第6話、『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)の第26話などに出演。
警官役の小山昌幸氏は第13話にもおそらく同じ役で登場している。
ママとマリが買い物をするのは板橋区成増2丁目の商店街。



