
【ストーリー】
公園でランニングしているマリ(林美穂)とカミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、日向恵子、中村伸子)。
ママ(大橋恵里子)は朝食の準備中。パパ(石井愃一)はパジャマ姿で植木を手入れしている。伸介(岩瀬威司)は自室の床でまだ寝ている。
マリとカミタマンは草の上に寝そべる。
マリ「きょう朝ごはん目いっぱい食べられそう」
カミタマン「カミタマンも」
犬を2匹連れた女性が通りかかる。
マリ「かわいい」
カミタマン「兄弟?」
マリ「そうみたい」
朝食を終えた伸介。
伸介「ごちそうさま! さあ」
ママ「たまには夏休みの宿題やったらどうなの」
伸介は激しく首を振る。
パパ「また寝るのか?」
伸介「おやすみなさい!」
2階に行ってしまう伸介。パパは怒りを込めて立ち上がるが、ママは止める。
ママ「あなた! あきらめましょうね。あきらめましょ!」
パパは「もう一杯」と茶碗を渡し、ママは「はい!!」と受け取る。
パパ「食うぞお」
マリは元気に帰宅するが、カミタマンは「もうダメ」とお疲れ気味。マリは「食事の前に」とカミタマンにホースで水を放射。「うわああ」とカミタマン。
食卓についたマリとカミタマン。
マリ「あれ?
カミタマン「ん、どうした?」
マリ「ないない。私の大好物の桃屋の塩辛ない!」
カミタマン「あ?」
マリ「パパでしょう?」
パパはスーツで出かけるところ。
パパ「ううん。伸介」
マリ「お兄ちゃん…」
逃げるように「行ってきます」と出ていくパパ。
ママ「ママだって止めたのよ。だいたいママは小学生がイカの塩辛食べること自体」
マリ「いいわよいいわよ。桃屋の花らっきょうで我慢するから」
マリは蓋を開けるが空っぽ。
ママ「また伸介」
マリ「もう怒っちゃう!」
マリは2階へ向かって行き、ママは「カミタマン、大丈夫かしら」。
カミタマン「たまには兄妹喧嘩ぐらいしなくっちゃ」
2階からがしゃーんという音が聞こえてくるが、ママは穏やかに「そうね!」。
部屋ではマリが伸介を叩きのめしていた。
伸介「やめてよ、痛い」
食卓でカミタマンは「いいなあ、兄妹喧嘩って」。
公園の橋の上にいる横山(末松芳隆)とカミタマン。
横山「カミタマン、お前そんなに兄弟ほしいの?」
カミタマン「うん。兄弟喧嘩、してみたい。横山、お前もひとりっ子だろ?」
横山「まあ」
カミタマン「じゃあ、兄弟がほしいって思ったとき、あるだろう?」
横山「それは」
横山は「カミタマン。おれたち、兄弟になろう」と提案。
横山「兄弟になって兄弟喧嘩、味わおう」
横山は猛然とカミタマンにつかみかかり、放り投げる。木に叩きつけられたカミタマンは「やったな」と横山にキック。両者は雑木林で激しく戦う。
横山「カミタマン、兄弟喧嘩の味って随分痛くないか?」
カミタマン「ああ、この痛さがいいんじゃないか」
横山「そうかなあ」
カミタマンはまた殴りかかる。転げ回る横山とカミタマン。
カミタマン「これが兄弟喧嘩か」
横山「おれ、ひとりっ子のほうがよかった」
横山は足を引きずりながら行ってしまう。茫然とたたずむカミタマンの前に、そば屋の岡持ちが飛んで来る。
岡持ちが交番に入ると、警官(山口晃)が居眠りしていた。岡持ちから冷やし中華(声:京田尚子)が飛び出す。
冷やし中華「ちょっとちょっとちょっとちょっと。おまわりさん。ね、おまわりさん」
警官は「もう昼か」と鉛筆を箸代わりに冷やし中華を食べようとする。カミタマンはそれに消しゴムを挟ませる。
冷やし中華「お前さんは?」
カミタマン「話は後で」
消しゴムを口に入れた警官は「ん?」。
公園に来た冷やし中華とカミタマン。カミタマンは「超一流の神さまです」と自己紹介。びっくりする冷やし中華。
カミタマン「ちょ、ちょっと。冷やし中華さん。そんなに驚くと冷やし中華の汁がこぼれますよ」
冷やし中華「どうやら悪い人じゃなさそうだね」
「実は長寿庵の中華三兄弟のことなんだけどね」と冷やし中華は事情を語り出す。
そば屋の長寿庵には長男の中華そば、次男のもやしそば(声:大山豊)、末っ子の五目中華がいた。この三兄弟は仲が悪い。
中華そば「こら、五目中華の弟。お前やたらキャベツやにんじん入れやがって、それじゃ広東麺と変わりねえじゃねえか。日本そば屋の中華三兄弟なら、日本そば屋の中華らしく、もう少しあっさりしろってんだ」
もやしそば「中華そばあんちゃん、それ言っちゃ五目中華が」
五目中華「もやしそばあんちゃん、いいんだよ。中華そばあんちゃん、おれだって言わせてもらうよ。おれは中華そばあんちゃんみたいな、チャーシューとナルトとシナチクと焼き海苔1枚だけの貧乏くさい人生はやだよ、おれは」
もやしそば「おいおい五目中華。そりゃ言い過ぎだぞ」
中華そば「この野郎! 弟だ弟だと思って甘やかしておけば」
中華そばと五目中華は「言いたいこと言いやがって」「暴力は」などとつかみ合いに。
もやしそば「やめなよやめなよ。おれたち兄弟じゃないか」
もやしそばは必死で仲裁に入るが争いは止まらない。
カミタマン「よくある兄弟喧嘩じゃないの」
冷やし中華「違うのよ、カミタマン。
カミタマン「あん?」
冷やし中華「あんたには判ってないのよ、日本そば屋における中華三兄弟の立場っていうものが」
カミタマン「立場?」
冷やし中華「周りには口うるさい、ざるそばやたぬきうんどんが」
揉める三兄弟。たぬきうどん(声:門谷美佐)やざるそば(声:依田英助)、日本そば(声:山崎猛)、月見そば(声:篠田薫)といった麺類たちが苦言を呈する。
日本そば「うるせえな! ここは日本そば屋だよ。あんたたち中華は本来なら」
「どうも!」と慌てて応対するもやしそば。
たぬきうどん「だからあたし、中華といっしょじゃ厭だって言ったでしょ」
もやしそば「ああ、あの…すみません」
ざるそば「おい! あんたたち何なら中華専門のところへ行ったら?」
月見そば「そうだよそうだよ。ほんとだよな」
もやしそば「ほら、言われちゃったじゃないか。ふたりとも…」
「つーかはつーか料理屋だ、もう」「そうよ、早く中華に行ってちょうだいよ」と非難の声が上がり、やがて「出てけ」コールに。
冷やし中華は、自分は三兄弟にとっては親戚のおばさんのようなものだという。カミタマンが感心していると、冷やし中華はこのままでは三兄弟は長寿庵を追い出されてしまうと懸念する。
そこへまた岡持ちが飛んできた。中からふらふらと出てくる中華そば、もやしそば、五目中華の三兄弟。
三兄弟「もう追い出されちゃったよー」
冷やし中華「あらららららら」
ダイニングで「ふん」と不機嫌なマリ。伸介が来た。
伸介「桃屋のイカの塩辛と花らっきょう食べたことは本当に悪いと思ってる。マリ、これで許してくれないか」
伸介は自分に平手打ちして、パンチしてのびた。
公園で兄弟喧嘩はさらにつづく。
五目中華「だいたいね、中華そばのあんちゃんが貧乏くさいからさ」
中華そば「バッキャロー。てめえが広東麺かぶれしてるから、こういうことになるんだ」
もやしそばは、もう止めようとしない。
もやしそば「冷やし中華のおばさん。おれもう疲れちゃったよ、もう」
冷やし中華「ああ、お前までかい。わたしゃもう、知らない知らない!」
カミタマン「ああ、冷やし中華さん」
冷やし中華は「あとはよろしく頼んだよ」と行ってしまう。カミタマンは「やめろ、やめないか」。
もやしそば「もうおれ飽きたよ!」
カミタマン「あ?」
もやしそば「喧嘩止めるのもう飽きた。勝手にやらせておけばいいじゃんかよ!」
カミタマン「もやしそば」
もやしそば「中華そばあんちゃんも、五目中華の弟もみんな嫌いだ! おれはもやしそばだー!」
中華そばと五目中華は汁をこぼして殴り合う。カミタマンが岡持ちにあったこしょうをかけると、喧嘩は一旦収まった。だがふと見ると、もやしそばの姿がない。空のどんぶりにカセットテープが残されている。驚く中華そばと五目中華。カセットテープからはもやしそばの声が。もやしそばは自信がなくなったので、旅に出て焼きそばにでもなって生きていくという。
もやしそば「中華そばあんちゃん、チャーシューとナルトとシナチクと焼き海苔によろしく」
中華そば「もやしそば」
五目中華「あんちゃん、ごめんよ」
もやしそば「五目中華弟、キャベツとゆで卵とにんじんとキクラゲによろしく」
「おれたち、お前がいないと」と涙を噴き出して号泣する中華そばと五目中華。

五目中華「これというのも中華そばの兄ちゃんが」
中華そば「何をー」
中華そばと五目中華はドカドカとまた殴り合う。カミタマンは「お前たちいい加減に」と中華そばと五目中華にラップをして猿ぐつわのように口を塞いだ。「んんんんんん」と動けなくなった両者。カミタマンは「こんな兄弟があっていいのか」と嘆く。そこへ茂みから冷やし中華が戻ってきた。
冷やし中華「あたしからお願いします。もやしそばをさがしてきておくれ」
冷やし中華がラップをとってやると中華そばは「中華ぁ、中華ぁ」、五目中華は「五目中華ぁ、五目中華ぁ」と泣く。
冷やし中華「あたしだって。冷やし中華ぁ、冷やーし中華ぁ!」
カミタマン「判った判った。もやしそばはカミタマンが責任を持ってさがしてくる。だから泣かないどくれよ」
麺たちは「カミタマン!」。
ダイニングでのびている伸介。マリは「お兄ちゃん!」と座布団やゴミ箱で殴るが起きない。そこでマリはフライパンを持って迫る。
伸介「何すんの!」
冷やし中華にもやしそばの写真を渡されたカミタマンは、とりあえず焼きそばの屋台へ。カミタマンが「ちょっと失礼」と焼きそばを突っつくと、焼きそば屋は「うちの焼きそば、もやしなんか使ってません」。
とらばる聖子(小出綾女)がボーイスカウトで焼きそばを焼いていた。カミタマンが焼きそばの中を捜索すると、聖子は「何すんのよ」とターナーで引っ叩く。
ラーメン店で食品サンプルをつかまえようとするが、店員(渡部るみ)に「あれは食べられない焼きそばだって言ってるのに」と止められる。
カミタマンがさがし歩いていると、チェーンで絡め取られる。スケバン(高山淳子)が「あんた、もやしそばをさがしてるんだってね?」と声をかけてきた。
スケバン「いいもやしそばがいるんだ。話によっちゃ会わせてやってもいいんだよ」
カミタマン「話って?」
スケバンは「とぼけるんじゃないよ」と金を要求。カミタマンはスケバンの手を掴んで投げ飛ばし、締め上げる。
カミタマン「さあ、どこだ。もやしそばはどこにいるんだ? 言え!」
スケバンは「ここだよ」とカミタマンを案内してきた。
カミタマン「よし、もう行っていい」
スケバン「覚えておきやがれ」
そこは「バラ館」と書かれた建物。カミタマンが「もやしそばー」と入っていくと「ハーイ。だあれ、呼んだ?」とパンツを頭からかぶったもやしそばの姿が!


驚くカミタマン。もやしそばは逃げ出すが、カミタマンはつかまえて虫かごに閉じ込める。かごの中で「出せよ!出せってばカミタマン」「もう戻りたくないんだよ」とわめくもやしそば。カミタマンは虫かごを投げ出し、中にいるもやしそばにブーメランを当てようとする。だがそこに現れた中華そばと五目中華。
中華そば「弟をやるなら、このおれを」
五目中華「あんちゃんの代わりに、ぼくを!」
カミタマンは三兄弟の前にジャンプし、自ら盾となってブーメランに当たった。
カミタマン「仲良く暮らせ。中華三兄弟」
去っていくカミタマン。急に夕陽が差し、中華そばは手を振る代わりにチャーシューを振る。
中華そば「ありがとう、カミタマン」
もやしそばはもやしを振る。五目中華は卵を振る。冷やし中華は「カミタマンさま」と手を叩く代わりにハムときゅうりを叩く。麺たちは「カミタマーン」と叫ぶ。夕陽の向こうへ歩み去るカミタマン。「完」の文字が現れて砕ける。
伸介の声「こら、いい加減にしろ」
【ストーリー】
シリーズ前半のクライマックスで『カミタマン』の代表作でもある中華三兄弟のエピソード。不思議コメディーシリーズでは『ペットントン』(1983)の第29話「横浜チャーハン物語」でシューマイとチャーハンが駆け落ちするのが知られており、つづく『どきんちょ!ネムリン』(1984)でもバス停、肉まんとアイスなどが活躍。それら無生物路線は回を重ねるごとに洗練と面白みを増していたが、今回は遂に中華そばと五目中華が乱闘し、心を痛めたもやしそばが男性同性愛者を相手に春をひさぐという驚くべきドラマが展開された(お盆シーズンの放映で、テレビの数字はどのみち上がらないから思い切ったことをやろうという算段であろうか)。
「横浜チャーハン物語」に関して浦沢義雄先生は「(無生物は)TVではできないと思っていたからね。監督もよく撮ってくれていたけど、やっぱり観念的な部分が強いから、画としては…。やっぱり本当はやっちゃいけないんだろうね」と放映後に自嘲していた(「宇宙船」Vol.19)。確かに「横浜チャーハン物語」は不コメでおそらく初めて無生物を扱う試みだっただけに見ていて物足りない(チャーハンだけに食い足りない)感も残るけれども、それから『ネムリン』での挑戦を経て、スタッフの練度も高まったと思しい(浦沢先生も、中華料理に再挑戦しても大丈夫だろうという手応えを感じたのかもしれない)。
「横浜チャーハン物語」では中華料理店のシェフに溺愛されているシューマイがチャーハンと駆け落ちするという単純な筋であったが、今回は日本そば屋で中華料理は肩身が狭く、だのに兄弟の仲が悪いという人間関係ならぬ無生物関係の難しさまで描かれた。
そしてカミタマンが訪れた「バラ館」ではもやしそばが女装してパンツを頭からかぶる。不コメで浦沢先生が初めて脚本を手がけた『ロボット8ちゃん』(1981)の第3話「僕は悪い子 怪ロボット」でも女性ロボットが街娼まがいの雰囲気を醸すシーンがあったとはいえ、今回は衝撃的で。BGMは歌謡曲「星の流れに」で、浦沢先生がリスペクトしているという鈴木清順監督の日活映画『肉体の門』(1964)の挿入歌だった。『肉体』は戦後の売春婦たちが主人公で、つまり今回のかのシーンは麺類を駆使して『肉体』を再現しようという野心的なチャレンジだと推察される(しかも浦沢脚本のお家芸であるゲイ展開になっている)。
冨田義治監督は「横浜チャーハン物語」では浦沢先生の言葉通り無生物の扱いに苦慮しているように思えたけれども、今回は麺が殴り合い、号泣し、自暴自棄になって水商売に走るという趣向を見事に映像化。わずか1年半の間に長足の進歩を遂げた監督やスタッフに敬意を表したい。麺が喋る際にヒクヒク隆起する仕掛けは、後年の『魔法少女ちゅうかなぱいぱい!』(1989)などでも踏襲されている(麺が激昂して怒鳴る際は赤い照明が当たる)。今回を経て『ぱいぱい』の第12話「レイモンドとチャーハン」や『うたう!大龍宮城』(1992)の第25話「カサゴ」は麺類の無生物路線としてさらなる達成に成功した。
カミタマンと冷やし中華、中華三兄弟が公園のテーブルで一堂に会するシーンは屋外ロケが難しかったのか、アップはセット撮影。カミタマンを含めサイズがみなほぼ同一で、芝居も見やすい(ペットントンは人間の子役を相手にしていると適合感があるが、チャーハン相手には大きすぎた)。
もやしそばの声は大山豊氏で、『宇宙刑事ギャバン』(1982)や『仮面ライダーBLACK』(1988)、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992)など多数の特撮ドラマに出演しているけれども不コメでは珍しい。
冷やし中華の声は、不コメでは『ロボット8ちゃん』の8ちゃん役(初代)を演じた京田尚子氏。
他のそばの声は依田英助、門谷美佐、山崎猛、篠田薫の各氏。
警官は山口晃氏で、第30話でもおしんこの声を担当。もしかしたら今回も声優をされているのではないかと思われるのだが…。
ラーメン屋の店員は『美少女仮面ポワトリン』(1990)や『不思議少女ナイルなトトメス』(1991)といった後期の不コメ作品にさまざまな役で出演する渡部るみ氏。
重要な役割のスケバンは高山淳子氏。『スケバン刑事』(1985)の第20話や『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』(1985)の第8話に出演している。
タイトルロールの「長寿庵」は練馬区の東映撮影所の近くに実在し、『仮面ライダースーパー1』(1980)の第12話でも外観が使われた。近年も営業している。




