第6話「必殺!スカートめくり」(1985年5月12日放送 脚本:浦沢義雄 監督:大井利夫)
【ストーリー】
下校中の伸介(岩瀬威司)と横山(末松芳隆)。愉しげにふざけるふたりだが、伸介がはっとした顔に。
伸介「え、スカートめくり!?」
横山「たまには面白いんじゃないの」
伸介「でもなあ」
横山「まさか伸介くん、やったことないんじゃ」
伸介「バカ言うな。ただ小学生にもなって、スカートめくりするなんて」
横山「ああいうもんは、義務教育受ける前に卒業しないとね」
伸介「そうだよ」
横山「でも、たまには!」
ふと見ると、コンビニの前でとらばる聖子(小出綾女)が。
聖子「このオーブントースターで焼いたクッキーはとってもおいしいんですよ」
“オーブントースター クッキー 試食会”という看板を置いて、働く聖子。横山は厭らしく笑う。
伸介「横山、お前まさか…」
横山「若かったあのころを思い出して」
伸介「横山ぁ」
聖子は「いかがですか、おいしゅうございますよ」とクッキーを勧めていたが、横山を見ると「おぼっちゃま、おひとついかがですかぁ?」。
横山は聖子のロングスカートを思いっきりめくる。
聖子「こら、何すんのよ!」
横山は「レロレロレロ」と笑い、聖子は思わずたじろぐ。
横山「伸介くん、あしたの日曜日うちにいるから電話して!」
逃げ去る横山と、追いかけていく聖子。
伸介「横山が、あんな大胆に…」
カミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)は、公園のアスレチックでパンを食べていた。
カミタマン「だいたいこの現代の人間は、神さまを尊敬するという気持ちを完全に忘れちゃってるんだな」
後方では聖子が横山を追いかけている。
聖子「あ、タヌキ!」
カミタマン「あ、とらばる聖子。きょうはどんな職業?」
聖子「とらばる聖子、きょうはオーブントースターを売るために、クッキーの試食会をしていたの。そしたら…」
聖子は「話しかけないでよ。逃げられちゃったでしょ!」とカミタマンの首を締め上げる。カミタマンは滑り台から転落。
家で消毒するカミタマン。
カミタマン「聖子の奴、何て乱暴なんだ。あれだもん、お嫁に行けないはずだよな」
黙り込んでいる伸介。
カミタマン「何がっくりきてるんだ?」
伸介「がっくりもくるさ」
カミタマン「どうして?」
伸介「あの横山にスカートめくりができて、このぼくに…」
カミタマンは伸介を見つめる。
カミタマン「伸介、お前まさか」
伸介「そうだよ、ぼくはまだスカートめくりをしたことがないんだ。それがどうした! 悪いのかよ」
カミタマンは一喝。
カミタマン「いい加減にしろ。スカートめくりしたことがないんなら、すればいいじゃないか」
伸介「でもこの歳になってスカートめくりなんて」
カミタマン「ばーか、スカートめくりに国境や歳は関係ない」
公園へ来たカミタマンと伸介。
カミタマン「伸介、お前はスカートめくりもできないで小学生になってしまったんだぞ。こんなこと学校に知れてみろ」
伸介「やっぱ小学生ってのは、スカートめくりができないとなれないもんだったんか」
カミタマン「どうしてスカートめくりやらなかったんだ?」
伸介「それが、知ってる女の子が全部ズボンはいてたんだよ」
カミタマン「ああ、不幸だったなあ」
伸介「ああ」
カミタマン「でも、もう大丈夫。よし、あの子だ」
フルートを持った女の子(有吉美穂)が歩いてくる。
伸介「ええ、あの子のスカートめくるの?」
カミタマン「さあ、勇気を出して」
伸介は、自分より大柄な女の子の前へ。怪訝そうな女の子のスカートへ、伸介は手を伸ばす。だが女の子はガッシと伸介の手をつかんだ。女の子は笑顔を見せると「はい!」と自分のスカートをまくり上げた。ぎゃーと絶叫する伸介。
カミタマン「バーカバカバカバカ」
伸介「でもあの子突然」
カミタマン「これで判ったろ。女の子は望んでるんだ」
伸介「なるほど」
カミタマン「よし! 今度はあの子だ」
伸介「女の子は望んでいる!」
伸介は、テニスラケットを持った女の子へ走り寄る。やはり自分より大柄な女の子(安井玲奈)の前で、微笑んでスカートに手を伸ばす伸介。だが女の子は伸介の手をつかむと平手打ちして「何すんのよ!」とラケットでぶったたく。
「いてー」と逃げ帰ってきた伸介は「カミタマン、これどういうことだよ?」。
カミタマン「中には望んでない奴もいる。よし、あの子なら大丈夫だろう」
厭がる伸介だが、
カミタマン「伸介、スカートめくりもしたことがない小学生なんて、チャーシュー麺を食べたことのないプロレスラーと同じだぞ」
今度は小柄な女の子(中沢かおり)へ向かっていく伸介。
伸介「あのぉ」
女の子「ん?」
伸介「望んでますか、スカートめくり?」
女の子は自分のバッグを高らかに放り投げると「えい!」と伸介のズボンを引きずり下ろす。
カミタマン「あ!」
女の子は愉しげに笑って、バッグをキャッチ。茫然と立ち尽くす伸介に、カミタマンは駆け寄る。伸介はズボンを上げると、無言で走り去った。
根本家ではパパ(石井喧一)が帰宅。ママ(大橋恵里子)はパパのタバコを灰皿へ。そこへ伸介も帰ってくるが、何も言わずに二階へ行ってしまう。
ママ「どうしたのかしら」
パパ「さあ」
カミタマンも伸介を追ってきた。
ママ「カミタマン、伸介なんかあったの?」
自室で寝ている伸介。
伸介「ぼくはスカートめくりもしたことがない、欠陥小学生だ」
カミタマン「そんなにひがまなくても」
伸介「誰がひがんでるんだ。ただぼくは事実を言ってるだけじゃないか」
カミタマン「ああ、それもそうだな。その上にスカートめくりしようとして逆にズボンを下ろされちゃった男の子なんて、はずかしくて人に言えないもんなあ」
伸介は「えい!」とカミタマンにまくらをぶつける。
居間で「何しろスカートめくろうとして自分のズボンを下ろされちゃう男も、そうざらには」とでかい声でひとりごとを言うカミタマン。後からマリ(林美穂)が現れる。
マリ「それ何の話?」
カミタマン「あ、いやこっちの話」
マリ「そうやってもったいぶると余計聞きたくなるのよねえ」
マリはカミタマンをつかむ。
マリ「話すか、カミタマン? 話さないと」
カミタマンをくすぐるマリ。
カミタマン「あ、あ、やめろマリ!」
部屋で寝ている伸介。
伸介「スカートめくりもしたことがない小学生なんて、チャーシュー麺を食べたことのないプロレスラーとおんなじ。ありゃいったい、どういう意味だったんだろう? 世の中って難しいなあ」
居間で、マリはカミタマンからことの次第を聞き出した。
カミタマン「おい、笑いごとじゃないぞ。伸介にとってみれば」
マリ「悪い、悪い」
カミタマンはマリにひそひそ声で相談。
マリ「ええっ、私のスカートをめくらせろ!?」
カミタマン「そう、そうすれば伸介も自信がついて」
マリは「冗談じゃないわ」とカミタマンを庭へ投げ捨てる。カミタマンは、ママが干していた洗濯物へ命中。地面に落ちたカミタマンには、ママのスカートがめくれて見える。
カミタマン「あ、そうだ。ねえ、ママしゃん」
まだ部屋で寝ている伸介。
伸介「きっとジャイアンツの江川も小錦もマッチも、小学校に入る前にスカートめくりを卒業して、成長していったんだなあ」
庭で話を聞いたママ。
ママ「伸介そんなことで?」
カミタマン「ママしゃん、あのうそんなことって言うけど、傷つきやすい男の子にしてみれば、スカートめくりもできない自分に」
イヒヒヒとママのスカートに手をつっこむカミタマンだが、ママは「わかったわ!」と払いのける。
ママ「あたしを実験台にして、スカートめくりの練習すればいいのよ」
ママは立ち上がると2階へ向かって、
ママ「伸介、さあママのスカートをめくってちょうだーい!」
カミタマン「ええ?」
ママ「めくってめくってめくりまくって」
慌てるパパは「やめなさい」と止める。
寝ている伸介に、ママの叫び声が聞こえる。
伸介「まともになりたい」
話を聞いたパパ。
ママ「あなた、かわいい伸介のためですもの。スカートめくられるくらい、あたし平気よ」
パパはママの手を握り「やめなさい」。
カミタマン「いや、親として子どもが成長するためにそれくらいのことは、ねえ」
パパは「わかった。私に任せなさい!」と力強く宣言。
ママ「男だわ」
だがパパはスカートをはいてメイクし、女装してしまった。驚いたママは卒倒。
パパ「いくら伸介でも、愛するママのスカートをめくらせるわけにはいかない」
カミタマン「パパ!」
パパ「伸介、スカートをめくりたければパパのをめくりなさい」
カミタマンは「ちょっとやりすぎじゃない?」とパパのスカートを押さえる。「離してよ!」とパパは勢い余って、テーブルにひっくり返りパンツが見えてしまう。
カミタマン「水色パンツ!」
目を閉じている伸介。「伸介」とパパが入ってくる。カミタマンは裾を押さえて止めるが、パパはカミタマンを蹴る。
パパ「起きなさい、伸介さん」
パパの姿を見た伸介は「ぎゃああ」と絶叫して逃走。
伸介「どうしてぼくがパパのスカートをめくんなきゃいけないの。それにしても、どうしてパパがスカートはいてんの」
パパ「伸介、何をはずかしがってるんだ。さあ、早くパパのスカートをめくっておくれ」
伸介はドアを突き、その勢いでパパはひっくり返る。
カミタマン「つきあっちゃいらんねえや」
伸介は家の外へ行ったふりをして、自室に戻った。
伸介「カミタマン、何とかしてくれよ」
カミタマン「何とかしろっつったって」
伸介「もとはと言えば、お前がスカートめくりを勧めるから」
怒るカミタマン。
カミタマン「だいたいきょうというきょうは、お前んちの親子に呆れたね」
カミタマンはネモトマンになって解決しろと言い出す。
伸介「ネモトマン? やだやだ、やだ」
カミタマン「どうして?」
伸介「ネモトマンになっていい思いしたことないもん」
カミタマンは「そんなこと言わないで」と伸介をネモトマンに変身させる。
公園でパパが伸介をさがしていた。飛んでくるネモトマン。
パパ「何だ、お前か。あっちへ行ってください」
ネモトマン「伸介くんに代わって、あなたのスカートをめくる」
パパ「きゃあ、助けてー」
「やだってば」と逃げるパパを「待て」と追うカミタマン。
根本家ではマリがママを起こしていた。
マリ「どうしたの?」
ママ「パパがものすごい化粧してスカートはいて。ああ、思い出しただけで」
パパとネモトマンが乱入。ママはまた卒倒。マリも「ショック」と卒倒。
パパ「ふたりとも驚いていないで、あいつを何とかしてよ」
テーブルの上に仁王立ちしたネモトマン。
ママ「うちのパパに何すんの?」
マリ「人の家に土足で入って、あんたいったいどこの子?」
ネモトマン「正義の味方の子とでも言っておこう」
ママ「正義の味方が何でスカートめくんの?」
ネモトマン「人生には判らないことがずいぶんある。理屈は抜きで、スカートをめくるのだ!」
ママとマリのスカートをめくるネモトマン。ふたりが「きゃあ」と叫ぶと、ついでにパパも「きゃあ」。
ネモトマン「お、やる気か?」
怒ったママとマリはネモトマンを追い回し、乱闘に。ママにつかまったネモトマンはおしりを叩かれる。階段の上で見ているカミタマン。
ネモトマン「カミタマン。きみには私を助ける義務がある」
ネモトマンはカミタマンのトサカを奪い、ブーメランを放つ。だがブーメランは戻ってきて、ネモトマンを直撃。
ネモトマン「はっはっは。正義は必ず勝つ」
見ているパパとママ、マリ。
公園の池で伸介は、石を投げていた。
カミタマン「伸介、別にスカートめくりくらいできなくたって、世の中には立派な大人になった人はたくさんいるんだぞ。まあ誰がと言われても困るけど…」
伸介「いいよ、もう」
顔にあざのできた横山が「伸介くん」と駆けてくる。
伸介「どうした横山、その顔」
横山「もうスカートめくりはこりごりですよ。やっぱり伸介くんの言う通り、やめておけばよかった」
伸介「だろ!」
カミタマン「ええ?」
横山「ええ、あんなの子どもの遊びですね」
伸介「そうか、お前もようやく判ったか」
嬉しげな伸介。
カミタマン「よかったな!」
伸介は「さあ行こう」と横山と肩を組んで駆けだした。
【感想】
第5話まではどうも拙速の感が否めなかった『カミタマン』だけれども、今回はスカートめくりをメインテーマに据えた奇篇で、シリーズ前半の代表作のひとつと言えよう。
浦沢義雄先生は、不思議コメディーシリーズに初登板した『ロボット8ちゃん』(1981)の第3話「僕は悪い子 怪ロボット」にて早くもスカートめくりを取り上げ、その後も『バッテンロボ丸』(1982)の第30・33話、『ペットントン』(1983)の第20話「根本君はスーパースター」などで扱っていたが、真正面から描くのは本話が初であろうか(スカートめくりは第15話でも描かれている)。前半には女子小学生のスケートがめくられて男子小学生のブリーフが映り、後半は根本家の狂騒が描かれ、安定して均整の取れた?怪作に仕上がった。第2・4話の浦沢脚本は、時間のなさもあったのかキレがない印象だったのだが、今回は本領を発揮している。
『ペットントン』や『TVオバケてれもんじゃ』(1985)など浦沢作品には雪だるま式にトラブルが膨れ上がっていく(おそらくは後先を考えずに勢いでつづった)展開があったけれども、今回は前半が女の子たちに立ち向かう三段落ち、後半が根本家の面々の狂乱と構造も順当で、それまでの作品では発作的なアイディアが連ねられていた浦沢脚本の変容が始まっているように思われる。この後の『もりもりぼっくん』(1986)や『おもいっきり探偵団覇悪怒組』(1987)など80年代後半の浦沢脚本は、全体の構成がある程度固まっていくようになる。
子どもに大人びた台詞を言わせる趣向は珍しくないとは言え、今回の冒頭では小学生の横山が「若かったあのころを思い出して」などと言ってスカートめくりに走っていて、浦沢脚本は切れ味が違う。
そしてスカートめくりをしたことのない伸介はカミタマンに「お前はスカートめくりもできないで小学生になってしまったんだぞ。こんなこと学校に知れてみろ」などと怒られ、スカートめくりが通過儀礼のように扱われているのにも驚愕する。
後半ではママは躁状態で、パパは女装(カミタマンはママのスカートに手を突っ込もうとする)。『ペットントン』や『どきんちょ!ネムリン』(1984)では家庭内の諍いがコミカルにときにシリアスに描かれていて、『カミタマン』でも第2話では夫婦喧嘩が出てきたが、今回は不和と言うよりもみなが悪乗りに走っており、本作のギャグ志向・バラエティ志向が伺える。初期の不コメで目立っていた家族のもめごとが後退しているのも、本作の特色と言えよう。1970年代後半から80年代初頭は大家族から核家族への転換が大きな社会的トピックであったが、この時点では家族をめぐる議論も落ち着き始めていて『カミタマン』も方向転換が図られたと考えられる。
大井利夫演出は、余計なテクニックを弄することなく禁欲的に笑いを追求していて好ましい。スカートをまくり上げる瞬間をストップモーションにするのも巧み。この前年の『宇宙刑事シャイダー』(1984)ではヒロイン役(森永奈緒美)のパンツを演者が厭がっているにもかかわらず毎度映していたが、そのノウハウも今回には活かされているのかもしれない(とんだセクハラ狂時代…)。
ママの叫び声を聞きながら伸介が「まともになりたい」とつぶやいているけれども、伸介の言う「まとも」とはスカートめくりをし終えた小学生ということであろうか。浦沢脚本にはおそらく社会諷刺の意図がないとは言え、この強烈な件りを見ていると果たして世間で言われる「まとも」とは何かと、ある種の存在不安に駆り立てられる。
スカートを自らめくる有吉美穂氏は『時空戦士スピルバン』(1986)の第22話「黒ミサはカゲキなビートで」、伸介のパンツを下ろす中沢かおり氏は『科学戦隊ダイナマン』(1983)の第13話や『宇宙刑事シャリバン』(1983)の第45話などにも出演している。