第1話「ギョ!お湯から神様」(1985年4月7日放送 脚本:寺田憲史 監督:田中秀夫)
【ストーリー】
「思い出の渚」をバックに、波打ち際を駆けていく少年。本作の主人公・根本伸介(岩瀬威司)である。手には女の子の写真。
伸介のナレーション「ぼく、同じクラスのクミちゃんが好きだった。それで、クミちゃんに近づいてみたけれど」
下駄箱の前で、伸介は笑顔でクミコ(林佳子)にプレゼントを差し出す。だが、クミコは黙殺。彼女の靴箱の中はプレゼントでいっぱいだった。
伸介は、砂浜で写真を取り落とす。
男の子たちに囲まれて下校するクミコ。伸介は驚く。
伸介のナレーション「ぼくってダメなんだ。恋愛だけじゃなく、何もかもほとんど最低少年で」
伸介は貝殻を「バカ野郎」と海に向かって投げる。すると海が大爆発。洗面器のような何かが波を分けて、向かってきた。その容器は浮かび上がると、伸介の頭に当たる。伸介が「何だって言うんだよ」と開けようとすると、容器は光って回転。表面にやかんのイラストが現れる。
伸介「お湯をかけるな?っていうことか。お湯をかけるなって言われると、かけてみたくなっちゃうのは当然であり」
走って自宅へ持ち帰る伸介。自室で嬉しげに、お湯を容器の穴に注ぎ込む。割り箸を用意して待機していると、穴から煙が吹き出し、まばゆい光が。伸介は気絶。そして笑い声とともに、トサカ頭の神さま・カミタマン(声:田中真弓 人形操作:田谷真理子、杉田智子、日向恵子)が立っていた。
「いつまで寝てるの」とママ(大橋恵里子)の呼び声で、伸介はベッドで目を覚ました。「夢だったのかな」とカーテンを開ける。
伸介「失恋して頭おかしくなっちゃったのかな」
ママ「おはよう。立ち直った? 失恋の痛手」
伸介は「うっせーな」と行く。
「口説き方悪いのよね、あの子」とママがテーブルを見やると、ご飯茶碗が空になっていた。
ママ「おっかしいな、ちゃんとよそったのにな。やーだ私、伸介のぼけがうつっちゃったみたい」
テーブルの下では、カミタマンが「おいちい」と食い荒らしていた。
洗面所で、パパ(石井喧一)が鏡で歯を見ていた。
パパ「全部真っ黄色。昔は笑顔が素敵って言われたんだけどねえ」
伸介「だったら、これやめれば。何回禁煙するつもりなの」
パパ「ごもっともなご指摘で」
うがいする伸介。
伸介「ほんといつも変わんない朝ですね」
奇妙な音がして、一瞬気になる伸介。棚の上にはカミタマンがいた。シェービングクリームをあごにつけるパパ。カミタマンはクリームの瓶をつかむ。瓶が見当たらないので、パパが「?」となると、パパの顔にクリームがぶっかかる。慌てるパパだが、瓶は流しにあった。
パパ「ストレスたまってるなあ」
笑うカミタマン。そこへ「ただいま」とマリ(林美穂)が現れる。
マリ「おはよう、パパ」
カミタマンの目からハートが。
マリが買い物籠を持ってダイニングへ。
マリ「卵、ばっちり負けさせちゃったから」
ママ「やったね、マリ。今夜は親子どんぶりだからね」
洗面所で、顔を拭くパパの背後にカミタマンが。鏡を見たパパは驚愕。
廊下をトコトコ歩いてくるカミタマン。ダイニングで驚いたママが「ネズミ!」と悲鳴を上げる。
カミタマン「ネズミ?」
伸介「ああっ、こいつだ。こいつ、きのうの」
マリ「何だ、タヌキじゃない?」
ズコーとこけるカミタマン。「保健所に電話だ」と走ってきたパパは、カミタマンを見ておびえる。
カミタマン「何だとー」
カミタマンは「ぽげぽげぽげー」などと言いながら、テーブルの上へ。
カミタマン「神さまに向かって、そういう態度はないっしょ。神さまに!」
パパ・ママ・伸介・マリ「神さまぁ?」
カミタマン「そうだぞ。おらっちは南のほうにあるカミタン島っつう神さまの国から来た、カミタマンっつうえらーい神さまなんだからに」
パパ・ママ・伸介・マリ「うっそー」
カミタマン「うそじゃない」
伸介「だってお前、きのうはラーメンだったじゃんか」
パパ「どういうことだ、伸介?」
伸介「お湯かけたら出てきたんだよ」
パパは「やっぱり保健所だ」と電話へ。
カミタマンが呪文を唱えると、受話器が巨大化。みなは驚く。カミタマンは「これが実力なんだな」と笑って、受話器を元に戻す。
マリ「へえ、意外とやるんだ。あなた」
カミタマン「どぅわはは、そうなのそうなの。おらっちカミタマン。いい男でしょ」
マリ「言っとくけどタイプじゃないからね」
伸介は突然カミタマンをつかむ。
伸介「じゃあ何だ、ぼくは神さまを助けたことになるわけだ」
カミタマン「ぽよ」
パパ「神さまなものか。そのままポイしろ、ポイ」
カミタマンが「カミター」とステッキを向けると、足ふきマットが浮かび上がってパパの顔を直撃。パパは「ママー」と泣きつく。
ママ「何すんのよ、あんた。よしよし」
伸介「こいつ、大恩人のぼくのパパに何だよ」
カミタマン「大恩人?」
伸介「そうだよ。いいか、ラーメンのふたにはお湯をかけるなって書いてあったんだ。もしぼくがお湯をかけなかったらお前は出てこれなかったんだぞ」
慌てるカミタマン。
マリ「きっと悪いことでもして、閉じ込められたんじゃない?」
カミタマン「ドキ、鋭いご指摘。バ、バカ言うなよな。おらっちは超一流の神さまとして、ダメな人間を救ってやろうと旅に出たんだかんな」
ママは「人間の願いを聞いてくれるわけね」と毛皮のカタログを見せる。
カミタマン「ママしゃんのお願い聞いたら、おらっちが神さまだって信じるか?」
ママ「信じる信じる」
カミタマンが重々しく呪文を唱えると、カタログから毛皮の写真がはらりと落ちる。
カミタマン「なんか違ったかな」
ママ「本物よ、写真じゃなくて本物!」
伸介はささやく。
伸介「ママかなりマジになってっからな。今度失敗するとやばいよ」
カミタマン「お、おう。がんばってみる」
ふたりは手を握り合う。カミタマンはふたたび呪文を唱え、毛皮の写真は浮かび上がる。だが出てきたのは、5〜6センチのごく小さな毛皮。ママは「保健所!」と電話を取り、カミタマンは「きょうは調子が悪いの」と弁解。マリは「だっさい話」と冷たい。
そこへ「大変です!」と声が。
伸介の友人・横山(末松芳隆)が玄関先に来ていた。
伸介「何だって、クミちゃんが番長に!?」
横山「そうなんですよ。無理やり連れていかれようとしています。ん?」
カミタマンが「ほげ」とのぞいている。
横山「ししぶたの一種ですか」
伸介は「こうなったらお前を神さまだと信じるしかない」とカミタマンをつかみ、「行くぞ横山」と自転車で出動。
公園では、クミコが番長の手下(池田進、親松洋海)に引っ張られていた。
手下「番長が何でも買ったあげるって言ってるんだからさ」
クミコ「厭、離してよ」
老けた番長(深見博)がキャンディーをなめている。
陰で見ている伸介たち。
横山「ぼくはああいう暴力的な次元の低いのは嫌いですから、あとはよろしくお願いします」
逃げ出す横山。
カミタマン「逃げ足の速いやっちゃなあ。おれも逃げよっと。わっせわっせ」
伸介は「早く何とかしてくれよ」とカミタマンをつかむ。
カミタマン「何でもかんでも神さまに頼るのはよくないぞ」
伸介「ちぇっ、ほんとは怖いんだろう」
カミタマン「そ、そんなことないわい」
伸介「あーあ、ぼくがスーパーヒーローにでもなれたらなあ。あんな老けた番長、がんがんやっつけてあげられるのにな」
カミタマンは「何を隠そう、このカミタマン、お前をスーパーヒーローにしてあげられちゃうんだぞ」と言い出す。
カミタマン「その名も、ザ・ネモトマン」
伸介は本当にスーパーヒーローに変身。空へ飛び上がる。厭がるクミコを引っ張っていく番長たち。その前に颯爽とネモトマン(岩瀬威司)が登場。
ネモトマン「神に代わって悪を斬る。正義のスーパーヒーロー、ザ・ネモトマン」
ネモトマンのバックには青い煙が噴き上がる。
番長「しゃらくせえ、やっちまえ」
ネモトマン「ネモトマンキック!」
手下を吹っ飛ばし、快調に見えたネモトマンだが。
ネモトマン「あれ?」
いつのまにか、番長にボコられ、吹っ飛ばされる。
ネモトマン「ちょっと、カミタマン。話が違うじゃないか」
カミタマン「行け、ネモトマン。自分の力を信じるのだ」
ネモトマン「そうかな」
ネモトマンはジャンプするが、番長に石をぶつけられて撃墜される。
カミタマン「ダミだこりゃ」
逃げ出すネモトマン。
ネモトマン「カミタマン、お前責任取れよな」
結局、カミタマンはカミタンブーメランで番長たちを追い払う。隙を見て、クミコも逃げた。
ネモトマンが「あっクミちゃん」と追おうとすると、カミタマンがマントを引っ張る。
カミタマン「スーパーヒーローの心得その1、決して正体を明かしてはならない。その2、決して見返りを求めてはならない。そ、そんから」
ネモトマン「何だっつーんだよ。ああいうことできるなら、もっと早くやればいいじゃんか」
カミタマン「あ、いや。カミタンブーメランはよっぽどあぶないなーってときじゃないと飛ばないんだよ」
ネモトマン「おかしなやつだなあ」
夜の食卓。
パパ「超一流の神さまねえ」
伸介「こいつを信じたぼくが甘かったよ」
「まあまあ、そう言わずに」と笑ってごまかすカミタマン。
マリ「早くそれ食べて帰んなさいよ」
カミタマン「あ、ちょ、ちょっと、マリちゃん。しばらく置いてちょうだいって言ってるじゃないの。ねえ、ママしゃん」
ママは冷たい。カミタマンは「パパしゃん」と言うも、パパも「知らんよ、わたしゃ」。
カミタマン「お、おいちょっと、伸介しゃん。何とか言ってくれよ」
顔が絆創膏だらけの伸介は、にらみつける。
カミタマン「ぽげーぽげぽげぽげーそんなこと言ってばちが当たっても知んないからな」
そこへ地震。みなは慌てる。
カミタマン「ほーら、見ろ見ろ見ろ。ばちが当たったんだぞ、ばちが」
家の外では、番長が石垣をどしんどしんと突いていた。
手下A「番長、またいい娘見つけりゃいいじゃないですか」
手下B「帰りましょうよ。この家の人が出てくると怒られますよ」
ダイニングはパニック状態。カミタマンのみが「おいちい」とごはんを食す。
伸介の部屋で、伸介とカミタマンは並んで寝ていた。
伸介のナレーション「とまあ、仕方なく居候させることになったわけであり」
寝ぼけているのか、カミタマンは「母ちゃん」と伸介にくっつく。
【感想】
いささかパンチ不足の感が否めない第1話。根本一家の面々と友人といったレギュラー陣の顔見せや、カミタマンの武器、ネモトマンへの変身などの基本設定はひと通り紹介できているのだが、それ以上でも以下でもなく印象はやや薄い。
不思議コメディーシリーズでは前作『どきんちょ!ネムリン』(1984)の第1話が同じ田中秀夫演出で、多彩な趣向を盛り込んで冴えていた。対して今回はただ設定を説明しているだけで、筆者としてはふるわないと感じてしまうのだけれども、思えば初期の不コメでは『バッテンロボ丸』(1982)や『ペットントン』(1983)の第1話も、中盤以降のトンデモぶりに比べればそれぞれ低調だった。
田中演出は幻想的な画面設計と過激なアクションで気を吐き、宇宙刑事シリーズや『ネムリン』ではその作家性をいかんなく発揮していたが、今回は余裕がなさげで画づくりも戦闘シーンも突出したものではない(カミタマンのポーズを下から煽り気味に撮るアングルは、宇宙刑事を彷彿とさせる)。
『カミタマン』のスタート直前は、『ネムリン』に加えてスピンオフ的な『TVオバケてれもんじゃ』(1985)も放送されており、掛け持ちするスタッフも多く、立ち上げは大変だったと推察される。
今回の脚本の寺田憲史先生は『ネムリン』と『カミタマン』に参加しているけれども、担当話数の少なさを鑑みるにあくまでヘルプ的な登板だったらしい。第1話を執筆しているがメインライターではないというのも異例で、裏側の余裕のなさが偲ばれる。『ネムリン』の寺田脚本はプロとしてそつがなかったが、今回は中盤の居間でのくだりが単調で、カミタマンが居座る経緯も何となくそうなってしまったというだけで面白みはない。
ただプラス面もあり、冒頭に「思い出の渚」が流れるあたり、『カミタマン』で子ども向け特撮ドラマとは思えないほど凝った選曲が行われることを予告している。
主人公の失恋から始まって、クライマックスで振った相手がピンチに直面するあたり、『ネムリン』第1話の反復に陥っているけれども、『ネムリン』のようなビターさはあまりなく笑いに走っており、『カミタマン』全般のギャグ志向を宣言しているともとれる。
カミタマンの歩いてくる動きは、着ぐるみのペットントンや操演のネムリンほどの熟練はなくあぶなっかしさを感じさせるにせよ、その挑戦には感嘆。
番長役の深見博(現:深見亮介)氏は、当時三十路目前にして制服姿…。他に『宇宙刑事ギャバン』(1982)の第26話「人形は見た!! 毒ガス殺人部隊の正体」、映画『タンポポ』(1985)や『3−4 X 10月』(1990)などに出演している。
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クミコ役の林佳子氏は、『必殺仕事人Ⅳ』(1983)や『宇宙刑事シャイダー』(1984)の第38話「魔少女シンデレラ」などに出演。特に『3年B組金八先生』の第3シリーズ(1988)の生徒役により広く知られる。
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