『勝手に!カミタマン』研究

『勝手に!カミタマン』(1985〜86)を敬愛するブログです。

前口上(ブログ開始にあたって)

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 1985年4月7日。その日曜日の朝、海を越えて神様がやって来た。主人公に神様を据えた前代未聞のテレビ『勝手に!カミタマン』(1985)のスタートである。

 

 カップめんみたいな容器に乗って現れた神様・カミタマン(声:田中真弓 人形操作:塚越寿美子、田谷真理子、日向恵子)。カミタマンは、住みついた家の根本少年(岩瀬威司)をスーパーヒーロー・ネモトマンに変身させるも、軟弱なネモトマンは行く先々でやられ放題。

 根本少年の妹(林美穂)はかわいいだけに?兄の同級生(末松芳隆)に狙われておしりを揉まれ、哀れな中年男(及川ヒロオ)は台所のゴキブリに妻を寝取られ、男雛がフランス人形と駆け落ちし、タクアンが西海岸にあこがれ、蕎麦がゲイバーで女装する。

 

 『カミタマン』は、『ロボット8ちゃん』(1981)に始まる東映不思議コメディーシリーズの第5作。『カミタマン』が始まる直前には、第4作『どきんちょ!ネムリン』(1984)とスピンオフ的な『TVオバケてれもんじゃ』(1985)が平行して放送されており、掛け持ちするスタッフも多かった。『カミタマン』立ち上げの時間は短かったに違いなく、それゆえかメインの兄妹とストーカーっぽい友人という人物配置、着ぐるみのサブキャラ、ダメヒーローなど過去作品の設定の再利用が目立つ。家族間のコントや無生物の旺盛な活動なども過去のシリーズの反復で、主人公・カミタマンの人形も省力化のためか前作のネムリンほど細かな演技ができなくなっている。当時の視聴率も下降気味だった。 

 しかし、しかしである。『カミタマン』は愉しい。それまでシリーズが培ってきた要素をどっと盛り込んだだけあって、集大成というべき面白さを湛えた決定版となったのだ。たしかにシリーズで既に目にした要素も多い。だが過去作を踏まえた映像設計はより洗練されて、メイン脚本・浦沢義雄のギャグは変わらず快調で、不思議純度の高いドタバタ快作に仕上がったのであった。

 

 前作『ネムリン』で大半のエピソードを演出した坂本太郎監督の辣腕は、『カミタマン』でも健在。不コメシリーズではそれまでヘルプ的な登板の多かった佐伯孚治監督は本格参加し、以降のシリーズでも中核演出家として活躍した。前作では助監督と兼任で傑作をものした大井利夫監督も、佳品を遺している。そして『ペットントン』(1983)では伝説的なチャーハン回を撮った冨田義治監督は、先述の蕎麦の回(第19話)で驚くべき達成を見せた。

 スタジオ・ノーバの田谷真理子・杉田智子・日向恵子氏らによって操作されたカミタマンは、表情こそ変わらないが、トコトコ歩いてきたりジャンプしたり、NHKのウェルメイドな人形劇では見られない躍動感がある。

 

 メインの兄妹には岩瀬威司、林美穂という当時の人気子役がキャスティングされ、素直になれない第28話など抜群のコンビネーションで素晴らしかった。両親役は、シリーズに出演経験のある石井喧一と初参加の大橋恵里子という “美女と野獣” コンビ。四人家族は、ふた組の夫婦漫才の様相を呈している。

 カミタマンの声は『忍たま乱太郎』(1993〜)や『ワンピース』(1999〜)などで知られる第一人者・田中真弓。同時期に『銀河鉄道の夜』(1985)や『天空の城ラピュタ』(1986)といった作品で頭角を現していた田中氏だが、カミタマンの悪乗り演技も圧巻である。

 後年に『魔法少女ちゅうかないぱねま!』(1989)や『美少女仮面ポワトリン』(1990)などで怪演する柴田理恵のシリーズ初出演も本作。全般に新顔の多い布陣のキャストは、作品に清新さをもたらした(一方でOBやOGもゲストで花を添えている)。

 『バッテンロボ丸』(1982)や『ペットントン』、『てれもんじゃ』など中心的スーツアクターであった高木政人は今回もモスガ役を好演し、20代にして晩年の円熟を示した。 

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 音楽には、前作『ネムリン』の挿入歌を作曲した本間勇輔が初登板。以後は不コメシリーズ10本のうち9本の劇音楽を担当している。オープニング主題歌「勝手に!カミタマン」は主演の田中氏が、エンディングの「スーパーヒーローになりたいな」は作曲の本間氏が自ら熱唱。それぞれ名曲であるけれども、『カミタマン』は劇中の選曲も凝ったもので加山雄三やら布施明やら井上陽水やら松任谷由実やら、およそ子ども番組とは思えないラインアップの曲たちが画面を彩った。

 

 『ペットントン』にはアッパーさと裏腹の叙情性とが、『ネムリン』には夢か現実かあいまいな幻想味がありそれぞれに魅惑的だったが、『カミタマン』ではシリアスな部分は減じ、やたらとギャグが炸裂する。明るい80年代が本格的に到来したこともあろうが、筆者に想起されるのは『お熱いのがお好き』(1959)や『アパートの鍵貸します』(1960)などのビリー・ワイルダー監督のインタビューでの言葉だった。

 好調な時期にはシリアスな作品を撮り、落ち込んだときは明るいコメディをつくって自分を励ましたと語るワイルダー

 『カミタマン』の直前、脚本の浦沢義雄は意気込んで取り組んだ映画『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』(1985)が中途で書けなくなって師・大和屋竺に代わってもらうという失態を演じ、ゴールデンの『TVオバケてれもんじゃ』の視聴率は低迷した。その後に送り出された『カミタマン』の明るさの裏には浦沢のどんな心情があったか、想像すると作品の魅力が増すような気もするのだ。

 

 筆者は、他にも映画・舞台・山田太一などについて気ままに書いたブログも運営中であり、ご興味ある方はそちらも参照していただきたい。

 私の中の見えない炎  http://ayamekareihikagami.hateblo.jp

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